第3話 ルビー、女王国からの出頭要請に従う(一)
イーギスでの戦いの後もアタシたちは精力的にレジスタンスからの依頼をこなし続けていた。任務を終えてポルトグランデの宿舎でゆっくりしていたところに、ケイトちゃんからの呼び出し。
――今度はどんな依頼?
何でもいいよ、どんと来い!
そんな前のめりで行政府に立ち寄ったアタシたちを出迎えた彼女は、これまた何とも言えない渋い顔で。
完全に勢いを削がれちゃったこちらに、彼女は無言のまま席を勧めてきた。
――コレはどう考えても景気のいい話じゃないなぁ。
アタシたちは顔を見合わせると、神妙な表情でそろりと椅子に座った。
「いつも、任務ご苦労様。別に貴方たちが何かとんでもないミスをしでかしてしまったとか、そういうのじゃないの。……そこは安心して頂戴」
ケイトちゃんが小さく笑みを浮かべてそう話を切り出した頃合いで、お茶の用意を終えた部下の女性が音もなく退室する。
彼女はその後ろ姿を確認すると盛大な溜め息を吐き、再び苦り切った表情を見せた。思わずアタシたちも身構える。
「単刀直入に言うわね? ……女王国が貴方たちに対して出頭を要請してきたわ」
ケイトちゃんは困惑している様子だった。
だけどそれはこちらだって同じこと。
コッソリとその原因であろう彼を見つめる。
アタシだけじゃない皆の視線を一身に浴びたクロードの表情が不機嫌に歪んだ。
「しかし何故また、今になって? ……用件は本当にそれに関することなのか?」
トパーズが低い声で尋ねる。
彼も疑問に思っているようだ。
クロードがアリスちゃんに剣を向けたあの日から、彼これ数か月経っている。
「本当に今更よね。……まさか何かの拍子に怒りが再燃しちゃったとか?」
アタシの呟きに、皆が首を傾げた。
口に出して言ってはみたものの、それはどう考えてもアリスちゃんらしくない。
それにアタシたちを呼び出してネチネチなんて、もっと考えられない。
「……何とも言えないわね。でも出頭要請を無視する訳にはいかないでしょう? 仮にも一国の女王なんだし」
そりゃそうだ。
まぁ、無視するという選択肢は初めから頭の中にはなかったが。
――それにしたって、協力者である女王に対して仮にもはヒドいよ?
ケイトちゃんはアリスちゃんのことが苦手。
それはアタシとサファイアの共通認識だ。
「上司である私を通じてという話だから、私的な話ではないはずよ。おそらくみんなの知っている『アリス』ではなく、水の女王国の『アリシア女王』としての接見となるわ」
ケイトちゃんが眉間に皺を寄せ、目を瞑る。
そして「……はぁ」と溜め息。
オジさん臭い仕草だった。
何となくだけれど執政官をしているテオドールさんがこんな感じなんだろうなと思った。その光景を見た訳じゃないけれど、簡単に想像出来る。
「……よりによって明日が決起集会というこの日をわざわざ狙って仕掛けてくるアリシア女王の真意が全く読めないの。――ママがいるから滅多なことにはならないと信じているけれど」
彼女の絞り出された独り言にアタシたちは返す言葉もなかった。
「――皆様、ようこそいらっしゃいました」
アタシたちが緊張しながら港湾区の女王国公館に出頭すると、出迎えてくれたのはまさに貴婦人と呼ぶべき美しい女性の完璧な一礼だった。
そして後ろに控える少女たち数人も同じように頭を下げてくる。
揃ったタイミングと角度に圧倒された。
――どこの一流ホテルだっていうのよ?
いきなりの丁寧過ぎる挨拶に、アタシたちはただただ困惑するだけ。
こちらは第一声で聞くに堪えない罵声を浴びせられることも覚悟の上で出頭したのだ。
何を言われても言い返したりせず何回も頭を下げてやり過ごそうと、頭を下げるだけならタダなんだから、そんな感じのことをお互いに何度も何度も言い聞かせながらここまでやって来たのに肩透かしもいいところだった。
「……え? ……パールなの?」
そんな中、アタシの横にいたサファイアが呆然とした感じで呟いた。
その視線は貴婦人のすぐ近くの斜め後ろに立っている愛らしい少女に向けられていた。
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