第31話 勝利者マール、感慨深げに盤を眺める。
紆余曲折があったが、結果として魔王は勇者クロード一行によって倒された。
つまり我の勝ちだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
過程はどうであれ、このセカイは結果こそが全て。
生きて盤上に残ることが出来た駒、そして死ぬことで盤上から追い出された駒。
皆それなりによく頑張ってくれたと思う。
まずは全ての駒に心からの拍手を贈りたい。
何より、我としても今回のゲームは勉強になった。
開始早々にして2周目勇者メイスによるまさかの裏切り。
いきなり見たこともない局面が現れてしまった。
そこから彼奴の不可解な動きが始まる。
最初は好き勝手にする為の国を
次々に国を飲み込んでいき、その都度高まっていく発言力と影響力。
ついには帝国をも手玉に取り、本当にセカイを手に入れてしまう。
彼奴のその圧倒的な手腕には何度も驚かされた。
――だが、それすらも副産物でしかなかった!
本当の目的はわざわざ手を汚すことなく宝具を手にすること。
全てはその為。
その為だけに彼奴は策謀に策謀を巡らせ、暗躍に暗躍を重ねた。
そしてついに本懐を成し遂げる。
それのみならず、我の立場や目的をも理解するに至った。
……一介の駒風情が、だ。
やはりメイスは真に恐ろしい存在だと思った。
今回のゲームの中で我は常に彼奴の
最後にはクロードと一緒になって馬鹿にされた。
だが、我は自らの足らぬことを認められないほど
そもそもマールは足らぬを知る者。
自らを全知全能と誇張する存在よりは幾らかマシだと思っている。
足らぬなら足せばよいだけ。
自らの無知から目を背けることだけは絶対にするまい。
それが我の我たる所以。
無知で結構。
未熟で結構。
それならば学べば良いだけの話だ。
笑いたければ好きなだけ笑うがいい。
それでも我はこのセカイの神なのだ。
我は彼女が致命傷を避けて生き延びていたことを知っていた。
その上であの危険な二人に悟られないよう、じっと動かず死んだふりをしていたことも知っていた。
流れ続ける血が少しずつ彼女の体力を奪い取っていったことも
だから我は魔王城を早めに崩し始め、二人をあの場から追い出した。
彼女は二人がいなくなったのを確認してからゆっくりと身体を起こし、妹の手から零れ落ちていた
我はそれも見ていた。
狩人の本能で崩れゆく魔王城の抜け道を見つけ出し、無事聖域まで辿り着いたのも見ていた。
鬼の形相で彼奴の居場所まで駆けてゆく様も、我の目は捉えていた。
彼女の意図を察した我は、その時間稼ぎの為だけにわざわざルールを破ってまで彼奴に話しかけたのだ。
ルール破りは禁忌だが、すでに勝負がついた後の話。
許容範囲内だろう。
この先どのような結末を迎えるのか、もはや我ですら分からない。
古今東西様々な盤遊戯があるが、勝負が着いた後も駒たちが盤上で埃を被るまで放置されるなどというのはあり得ない。
当然次のゲームに備えるべく、並べ直される。
決着した『セカイ』は必ず、新しい『セカイ』を始める為に元の形へと戻されるのだ。
それが
一つの例外も許されない。
まもなくこのセカイも取り壊される。
他ならぬ我の手によって。
だが折角なので、しばしの余韻を楽しむ程度の時間は残しておくことにした。
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