第30話 アリス、予想外の展開に困惑する(下)
いきなりのマールの声。
これには本当に驚かされた。
――あれだけのことをやったにも関わらず、まだ『神の声』が聞こえるとは!
本格的に声が聞こえる条件を検証しなければならない。
少なくとも勇者としての正しい行いだとか、皆を助けて神の声を受け取る為の器として成長だとか、そういったモノは初めから関係なかったと考えていい。
――すべてはコイツの気分次第。
ルールなどあったものではない。
その気になればコイツは嫌がらせとして3周目のオレに絶え間なく話しかけることがすら可能やも知れない。
この声を遠ざける方法など初めから無かった。
オレは襲い来る絶望感から、思わずうめき声をあげて天を仰ぐ。
いつの間にか空が赤く染まりつつあった。
思わぬ形で時の流れを知る。
『――先に言っておくが、もし3周目をするにしても、それを受け入れるかどうかは我の心次第なのだぞ?』
……そうなのか?
流石にその可能性までは考慮していなかった。
だがオレの本能は即座に今のマールの言葉を嘘だと決めつける。
――ん?
何故だろう?
……あぁ、そうか。
もし今のマールの言葉が真実ならば、ただ黙っていれば良かったのだ。
わざわざ親切にもそれを伝えることなく、オレを新しいセカイから排除すればいいだけの話。それなのに――。
だから嘘。
理に適っている。
オレの判断は正しい。
自発的に宝具を使わないような形に持っていきたいのだろうが、そうはいかない。
ただ、今こうやってマールが話しかけて来たのだ。コレを利用しない手は無いだろう。
『今のお前は信用出来ない。だから我は――』
「これはただの独り言なのだが――」
なおも見苦しく言い
「オレはオマエが何を言おうと3周目をするつもりだし、次回も勇者としての道を歩むつもりなない」
『何を――』
「――だが!」
オレは強い口調で継ぎ、一拍置く。
そして意味ありげに微笑んでやった。
「……たとえ、どの道を通ったとしても、オレは最後には必ずコレを手にしているハズだ」
そう言いながら握り込んだままの右手を振ってみせる。
『…………ほう。……なるほど、な……』
どうやら今の言葉の意味をきちんと理解してくれたらしい。
そう。
それはすなわち魔王討伐を意味する。
オレが倒すとは言わない。
だが必ず魔王は倒される。
誰かの手によって。
――今回のように。
そしてそれはマールの勝利をも意味するはず。
『…………』
「…………」
『……理解した』
しばらくお互いを探るような重苦しい沈黙が続いた後、マールの溜め息交じりの声が聞こえた。
『……ならば、我はお前がレスターを見捨てた瞬間に、新しい勇者を投入すれば良いのだな? ――今回のように』
そして素早く次回の算段まで立てる。
マールの、到底神とは思えぬ変わり身の早さと無慈悲さに内心呆れ果てるも、へそを曲げらては困るオレは決してそれを表情に出さぬよう、ことさら済ました顔で頷く。
「……そのあたりの判断は、そちらの都合に任せる」
だが、これで多少は動きやすくなるだろう。
別にマールの味方をするつもりはないが、今回のように目の敵にされるのも面倒な話だ。
あちらとしてもオレの立ち位置が分かれば無駄な策を弄する必要もない。
少なくとも両者の目的は一致している。
マールはこれまで通り、勇者を正しい道に導くことに注力すればいい。
お互いがお互いの邪魔をすることなく『共通の勝利』を目指す。
このあたりが良い落とし所だろう。
マールが何も言ってこなくなったことを思えば、交渉は成立したらしい。
オレはこっそり安堵の息を吐くと、再び右手を掲げた。
「新しき扉よ開け、我を――」
次の瞬間、背中に鈍い痛みが走った。
――何か、刺さったのか?
振り向こうとするも、身体が痺れて思うように動かない。
地面に倒れ込む際、視界の端で捉えたのは――――の姿だった。
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