第26話 クロード、帝都に帰還する(三)
ロレントさんのその言葉を皮切りに、皆が口ぐちに俺を
――何故?
意味が分からない。
今の話は完ぺきだったはず!
どこにも破たんするような要素はなかったはず!
俺はただひたすら困惑していた。
「――輝石には魔法使いが強く網膜に焼き付けた瞬間を映す力がある、そんな話を耳にしたことは無いか?」
テオドールさんが話の流れと関係ないことを言いながら、懐から何かを取り出した。
その色や形に見覚えがあった。
――それは……ルビーのペンダント、か?
そう言えば、彼女がそんなこと言ってた気がする。
聖王祭は初代聖王の見てきた光景を見るのが本当の行事だとか何とか、よく分からないことを。
俺たち庶民には全く興味のない話だったから、適当に聞き流していた。
――っていうか、何でソレがここにあるんだ?
その心の中の疑問が漏れ聞こえていたのか、テオドールさんが身体を震わせ涙ながらに叫んだ。
「アリシア女王陛下が……最後の力を振り絞って書いた手紙と一緒に、コレが入っていたのだ!」
彼は肩で深呼吸してからキッと俺を睨みつけ、ペンダントを静かにゆっくりと水の入った器に沈めた。
水面が明るくなり、鮮明に動く絵のような何かが浮かび上がってくる。
俺は一歩進み出てそれを覗き込んだ。
そこに映し出されるのは、サファイア、パール、そしてルビーを次々に刺し殺していく俺の姿。
――オイオイ。
マジかよ。
……なんだ、こりゃ?
俺は出来るだけ冷静にこの状況を飲み込もうとする。
――これは、……ルビーが最後に見た光景……というコトだよな?
それをアリスが手紙と一緒にこちらへ寄越した……と?
……つまりアイツは初めから、そのつもりでルビーの胸元からペンダントを毟り取っていった……という訳で――。
――……えぇっと。
つまり…………ん?
……どういうコトだ?
しばらく思案していると、間近で物々しい殺気が膨らんだ。
「――ここで全てを終わらせる! ……覚悟しろ、魔王クロード!」
ロレントさんの叫び声にハッとして周りを見渡せば、いつの間にかテオドールさんや元宰相やらガキやらの姿が消えている。
その代わりに俺を囲んでいたのは武器を構えた屈強な兵士たち。
徐々にその包囲網が狭まってくる。
「……あぁ、なるほどなるほど。……そういうことか!」
俺もようやくここで全てを察することができた。
――ちくしょう!
なんて
……最高だ!
アリス! やっぱ、お前は最高だよ!
最高のクソッタレだ!
「――
俺は怒りに任せて魔法を放った。
残っている全ての魔力をつぎ込む、聖騎士最大にして最強の魔法。
しかも無詠唱で発動出来るという、とんでもない
ただ敵味方問わずそこら中にいる全てのモノが喰らってしまう欠陥魔法だった為、使い道が見当たらなかった。
聖騎士になったからには一度は使ってみたかったが、結局使うことなく魔王を倒し、もう二度と使えないと思っていた究極魔法。
それを今、ここでブッ放つ!
あまりにも強大な威力に、この広間にいる全員が俺を中心にして放射状に吹っ飛んでいった。感心しながらその様を眺めていたが、不意に宙に浮く感覚に襲われる。何事かと下を見れば、魔法の衝撃に耐え切れなかった床が崩れ始めていた。
下の階まで丸見え。
そして次の瞬間、俺も皆と一緒に一階に叩きつけられた。
――すごいなぁ。まさか、ここまでの破壊力だったとは。
メチャクチャ気持ちいい。超気持ちいい。
瓦礫に囲まれながら仰向けのまま天井を見上げれば大部分が崩れ落ちており、青空がやけに綺麗に見えた。
そう言えば、こうやって穏やかに空を見上げるのも何年ぶりだろう。
「……いやぁ、城って意外と脆い造りなんだな。フフフフフ……ハハハハハハ!!!」
笑いが止まらない。
あの魔王城で勢いに任せて使っていたら間違いなく全員生き埋めになっていただろう。危ないところだった。
俺はむくりと上体を起こすと、懐からアリスの残していった最後のエリクサーを取り出し、一気に飲み干す。
再び体力と魔力が漲ってきた。
「……もういいや。今からアンタの作った最高傑作とやらをブチ壊してやるよ。全部全部全部全部全部全部全部全部!!! ――壊しつくしてやる!」
俺はこの様子を見ているであろうアリスに向けて叫んだ。
完全にブッ壊れたセカイで新しくハーレムを作ってやる。
アイツが捨てたセカイだ。好きにやらせてもらう。
どうせ俺の邪魔をするヤツらも今ここでくたばっちまったことだし。
ちょっとばかり予定が変わっただけだ。
むしろ初めからこうしておけばよかった。
アイツに影響されたせいで、こんな回りくどい手を使ってしまったが、どう考えても俺向きじゃない。
これからは手加減してやらない。
「――力押しの
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