第25話 クロード、帝都に帰還する(二)
「正直、この僕自身にも何が起こったのか分からない部分があります。取り敢えず最初から――神の声のことから話しますね」
俺は出来るだけ低姿勢で、
「……ここにおられる方々は僕が今まで『神の声が聞こえるのだ』と口走っていたことを覚えておられる思います。……ですが、アレはアリス――アリシア女王陛下の指摘通り魔王の声だったと判明しました――」
あの後、魔王に騙されていたのだと気付いたのだ、と。
自分が暴走したせいでセカイを混乱に陥れてしまい、何とか償いたいと思ったこと。仲間と相談して魔王を倒す決意をしたこと。
三人での戦いはキツかったが、頑張って力を蓄えたこと。
そして満を持して魔王戦に挑んだが、やはり魔王は強くすぐに劣勢に陥ってしまったこと。
それらを切々と語った。
「――そんなとき颯爽と助太刀に現れたのがアリスとパールでした」
アリスが作ったストーリーを下敷きに。
より感動的に。
「おかげで何とか戦力が
そこそこの年齢をしたおっさん――おそらく貴族か何か――が目頭を押さえた。
――まだ、物語はここからだってのに感動するのが早い!
俺は内心呆れながらも期待に応えるべく、ここぞとばかりに熱を込めた。
「……だけど僕は、――僕だけは絶対に倒れる訳にはいかなかった! 僕の短慮がセカイの危機を招いてしまったのだから! ……最後の一人になっても戦い続けなければならなかった! たとえ剣が折れようとも!」
何だか、物凄く気持ちいい。
アリスもこんな感じでコイツらに語ることで、自分の思い通りにセカイを動かしてきたんだと思うと、何か感慨深いものがある。
「――そして何とか魔王を倒したとき、立っているのは僕一人だけでした」
俺はそこで一息。
ゆっくりと間を取った。
「――まだ辛うじて息のあったアリスに駆け寄り、僕は回復魔法をかけました。だけど全然効いてくれません。……彼女はそれ程までに死力を尽くして戦っていたのです。――愛するこのセカイの為に!」
ちらりと人の動く気配を感じたのでそちらを見たら、女王国の人間らしきおっさんたちが涙を袖で拭っていた。
そちらを見ている俺と目が合うと、彼らはあからさまに顔を伏せる。
――別に照れなくてもいいのに。
むしろもっと感動している姿を見せつけて欲しいぐらいだった。
「――思えばアリスは魔王復活に備え、人知れず戦い続けてきました。彼女は本当に立派でした。僕なんかとは大違いです。……魔王に操られていたとはいえ、僕はそんな彼女を『セカイの敵』だと
俺は咳払いして更に続ける。
「――アリスは僕の謝罪に対して、優しい笑顔で頷き許してくれました。……そして最後の力を振り絞りながら僕に話しかけるのです。何度も『もう話すな!』と叫びましたが、彼女は僕の言葉を遮って続けました。『どうか私たちの国をお願い。……新しい皇帝として平和なセカイを守ってほしい』と!」
ここが一番大事な部分だった。
死人に口なしとはいったモノ。
……実際アリスは3周目に向かったのだが。
多少強引な展開でもここをコイツらに認めさせなければ、この国は円満に俺のモノにならない。
まぁ、俺はあのバカ強い魔王を倒した正真正銘の勇者だ。
皆も何だかんだで認めるしかないはず。
それでも謙虚にしておくに越したことは無かった。
「……僕にそんな大事な役目が務まる訳がないと思いましたし、彼女にもそう告げました。ですが頑として受け入れてくれません。『最期の願いだから聞いてくれ』と息も絶え絶えにそれだけを訴えてくるのです。……だから僕はその願いを叶えることにしました。そのことを伝えると彼女は満足そうな、何かをやり切った笑顔になり、僕の腕の中で息を引き取りました」
俺は沈痛な面持ちを作って、全員を見渡した。
呆然としている者、静かに涙を流している者、派手に肩を震わせて嗚咽を漏らしている者もいた。
どうやら俺にもこの才能があったらしい。
本当は思いっきり笑い出したかったが、歯を食いしばってそれを耐える。
そんな今の俺の姿がまた、コイツらに俺が悲しみに耐えているのだと勘違いさせるに違いない。
……あぁ、そうだ!
アリスに教えて貰ったことを思い出した。
――ヒトは死んでこそ『英雄』だった、な。
「新しい皇帝の最初の仕事として、まずはアリスこそが真の英雄なのだということを知ってもらいたいのです。彼女がどれだけこのセカイのことを想っていたのかを、彼女が愛した民に、そして彼女を愛している民に、全てを見てきた僕の口からちゃんと伝えたいのです! 彼女こそがこのセカイを救ったのだと! 魔王を倒した僕なんかより、よほど英雄だったと! ……その為の式典の準備を皆にお願いしたいのですが、どうでしょう?」
俺の提案にロレントさんが天井を仰いだ。
彼も必死に涙をこらえているのだろうか?
しかし彼は苛立たしげに表情を歪めて息を吐くと、身体中から激しい殺気を噴き出した。そして俺を睨みつけながら口を開く。
「――ヒトというのはここまで腐り果てることが出来る生き物だったのか?」
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