第24話 クロード、帝都に帰還する(一)
予想に反して帝都は静まり返っていた。
巡回する兵士たちはそこら中にいて目を光らせているのだが、肝心の市民たちの姿が見当たらない。
サファイアが言うには式典のときは女性も子供もたくさんいて華やかだったと言っていたのに全然だった。
彼女はいわゆる田舎者だったからイマイチ参考にならないっていうのも事実だが、どこか物々しい雰囲気を感じさせる。
その中で俺は目立たないように裏通りを歩いていた。
本音を言えば「魔王を倒してセカイを救った英雄サマの凱旋だぞ!」と大声で叫びたいところだったが、悲しいかな俺には皆の静止を振り切って皇帝を殺したという前科がある。厄介事は避けておくに越したことはない。
警戒しつつ帝都を観察しながら歩き続けていると、やがて懐かしの白銀城が見えてきた。
――はてさて。
どうすべきか一瞬だけ考える。
裏口から侵入すればそれこそ余計な腹を探られかねない。
「……ここは堂々と正面から訪ねるべき……か?」
最悪あちらが問答無用で斬りかかってきたとしても、門兵程度ならわざわざ殺すっまでもなく、当身程度で簡単に対処できる。
最初は穏便に。
好き勝手をするのは権力を握ってから。
全員をねじ伏せて『分からせる』のは、あくまで最後の手段に取っておく。
俺は深呼吸してそう自分に言い聞かせると、城門に向かって歩みを進めた。
城門に兵士らしき者はいなかった。
代わりにそこにいたのは、番兵よりも遥かに腕の立つ顔見知りがたった一人。
「――ロレントさん」
「よう、元気だったか? ……空を見た感じだと、無事に魔王を倒してくれた……ということでいいんだよな?」
彼はあの頃のような軽い口調で話しかけてきた。
だがその割には彼特有の人を惹きつける笑顔どころか、あの頃の親しい空気も一切感じられない。やはり皇帝を殺したのはそれなりに重かったのだろう。
「……はい。そうです」
俺は警戒しつつも、昔の口調に戻してそれに応える。
一応彼からは敵意のようなモノは感じられなかった。
いきなり斬りかかってくる気配もない。だからと言って、額面通り魔王討伐の英雄を出迎えてくれたと受け取ってもいいモノかどうか。
取り敢えずこの状況では
「……モンスターはどうなりましたか?」
「あぁ、おかげ様で新しく飛来してくることはなくなった。……あとは軍で何とか出来るだろう」
「……そうですか、それは何よりです」
相変わらずの素っ気ない態度。
ここから何を探れというのか。
俺が続いて何かを言おうと考えていると、ロレントは腹の探り合いもそこそこに、こちらに背中を見せて城内に入っていく。
「……ついてきな。みんなが待っている、中で詳しい話を聞かせてもらおうか?」
本当にそれでいいのか?
不用心過ぎないか?
……それとも、やはり何かの罠だろうか?
だが、今の俺の実力ならば大丈夫。
彼に気付かれないように拳を握り締めると、慌ててその背中を追いかけた。
ロレントさんに付いていき、通されたのは謁見の間だった。
この部屋に入るのもあのとき以来。
あれから本当にいろいろあった。
感慨深い思いでこの広い部屋を見渡せば、新しい女王国の主要人物が集められていたらしく、見覚えのないジジイやら女子供やらが一斉にこちらを睨みつけてきた。
とても英雄を迎える態度には見えなかったが、俺たちの遺恨を考えればやむを得ないかもしれない。
彼らから視線を外し、他の見知った顔を探したが、俺を買っていくれていた唯一の存在とも言えるバトラーさんは見当たらない。
皇帝の首を取れと言ったのは彼だった。
ヴァイスさんのときのように責任を取らされたのか。皇帝を殺すのはマールの意思でもあったから彼だけの責任ではないのだが、やむを得ない。
もしやアリスが戻ってきているのかとも思ったが、玉座は空のままだし彼女が現れる気配もない。
――本当に3周目に向かったらしいな。
この部屋で一番存在感を示していたのが中央に仰々しく置かれた台座と、その上に乗せられている平べったい器。水が入っているのか、バルコニーから入って来る風で表面が揺れている。
以前この部屋に入ったときはこんなモノはなかったが、元々この部屋に備え付けられていたモノだったのかもしれない。
俺がそれに目を奪われていると、テオドールさんが一歩前に出た。
「まずは魔王を討伐してくれたこと、このセカイに住む民の代表として感謝申し上げる」
新しい女王国の宰相に就任したという彼が深々と一礼した。
それに倣って居並ぶ皆も一斉に俺に向かって丁寧に頭を下げてくる。
なかなか壮観だった。
「さてクロード君。……魔王城で一体何があったのか、その辺りを聞かせて貰えないだろうか? 特にいまだ戻らないアリシア女王陛下と側近のパールに何があったか、を。……これまでのいきさつも含めて全て話して頂けるとありがたい」
――そら来た!
さぁ、一世一代の大芝居の幕開けだ。
俺は深呼吸し、ここに来るまでに練り上げた感動的な物語を話すことにした。
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