第18話 クロード、アリスの思考を辿る(中)
アリスは無駄な行動をしない。
こちらで意味が理解出来なかったとしても、アイツの中では何かしらの意味があった。そして甘く見ていた人間は後で痛い目を見る。
これは考える上での大前提だった。
彼女はこのセカイの全ての者を出し抜くために細心の注意を払ってきた。
一挙手一投足、並びに発言、そういったもの全てを捕捉する唯一神マールさえも。
もしマールがアリスの本当の目的に気付くことが出来ていたならば、絶対に自分に何か言ってきたはずだった。
それこそ『ヤツも宝具を狙っているから注意しろ』などと。
マールすら掴めなかったのにはそれなりに理由があったはず。
おそらくヤツは何より『言葉』に気を使ってきたのだろう。
だが、俺は今まさに何かを掴もうとしている。
誰一人掴むことが出来なかった圧倒的なアリスの思考を!
ここで注目すべき点は――。
「――アリスは何と言っていた?」
これに尽きた。
――冷静になってみれば、俺にとってそれほど悪い訳でもないってことなんだな、コレ。
そう。
偶然なのか、はたまたアリスの手のひらの上なのか。
俺は必死に今さっきまで彼女と交わしていた言葉の応酬を脳内で繰り返していく。
そして最後の最後、薄れゆく意識の中で聞こえた言葉――。
『――それでは引き続きこのセカイをお楽しみください』
あぁ、間違いない。コレだ。
ここから一気に手繰り寄せる。
俺は目を閉じて、何度も呼吸を整え集中した。
何故アリスはよりによって、あの状況でかける言葉にソレを選んだのか?
通常ならば絶望を与えるべき場面。
もし俺だったら「苦しめ。……そして無力感の中で死ね」と勝ち誇り高笑いするだろう。
だがアイツは違った。
『楽しめ』と言ったのだ。
霊薬が無ければ確実に死んでいたはずのこの俺に!
「……アイツは絶対に無駄な手は打たない。……何かしらの意味がある」
何度も同じ独り言を繰り返す。
ゴゴゴと地面が派手に揺れていたが、俺はそれを無視した。
アイツも最初は俺と同じ勇者だった。
俺たちは同じようにマールに騙されて皇帝を殺した。
俺たちは同じようにマールに退路を断たれて魔王を討った。
俺たちは同じようにマールに対して恨みを持っていた。
全部全部同じ。
ならば2周目のアイツの思考に追いつくことは出来なくても、
とは言っても、必死に頭を捻ったところで勝手に浮かんでくるモノでもない。
もう少しで掴めそうなのに、本当にもどかしい。
せめて何か取っ掛かりになるようなモノでもあれば!
……何か。何か。……何か!
手掛かりを求めて一歩踏み出そうとしたら、何かを蹴飛ばした。
――カラン。
足元を見れば小瓶がカラカラと石畳の上を転がっていた。
「あぁ。確か……」
コレはアイツが、蹲る俺の目の前にこれ見よがしに置いて行ったモノだ。
薄れゆく意識の中だったからあまり覚えていないが、ここにコレがある以上その記憶は間違いはないはず。
「ん? ……この色は!?」
俺は慌てて拾い上げた。
やはり
「――わざわざ俺の手の届く場所に霊薬を置いて行った?」
もしかして俺を助けたかったのか?
自分自身で致命傷になりかねない傷を負わせておきながら?
……考えろ!
間違いなくこれこそが俺の欲しがっていた取っ掛かりだ。
さっき俺が飲み干したのは、あの日バルコニーの下で拾って、隠し持ったままだった残りの一つ。
もしあれがなかったら、俺は一も二もなく目の前にあったコレを飲んでいたことだろう。
「……もし、アイツがそのコトを知らなかったとしたら?」
既に二瓶とも使っていると想定していたならば、どうだろう?
前回アリスが俺にコレを寄越したとき、一緒に託した想いは『自分の代わりに魔王を倒せ』だった。
では、今回は?
――何だ? どんな意味がある?
今ここで掴み切らないともう絶対に辿り着けないだろう。
これはアイツが最後の最後で、わざわざ俺の為に残していったカギなのだ!
…………わざわざ?
……俺の為?
………………あぁ。
……なるほど。
「そういうことか。……そういうことなんだな、アリス!」
やっとのことで答えに到達した俺は、弾けるような笑いの発作に襲われた。
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