第14話 クロード、アリスと本音で語り合う(下)
「オマエらはセカイを救った英雄として立派に
アリスは得意げに胸を張った。
「……お前、こんな感じで祀るのが好きだよな? ……レッドさんやトパーズもそうなんだろう?」
確かサファイアからそんな報告を聞いた気がする。あと、停戦期間中にヴァルグランの領主夫妻と娘の葬儀も女王国が全額負担で執り行ったらしいし、山岳国の偉い人もそんな感じだったと聞いている。
どうやらコイツはそういうのが好きみたいだ。
ちょっと理解出来ない。
「まぁな。……こうやって国を挙げて祀ることで美談が生まれやすい
せせら笑いながらアリスはそう
……なるほど、これはなかなか勉強なった。
ただ、アリス本人からは彼らに対する敬意は全く感じられない。その辺りがいかにもコイツらしい。
思えば、アリス自身魔王を倒した
……何かしら思うところがあったのだろう。
「――しかもそんな尊い犠牲の下の平和ならば、誰も壊そうと思わないだろう? むしろ権力争いに打って出る人間は、彼らの立派な死に対して敬意を表しておらず、平和を乱そうとたくらむ不届き者と
アリスは改めて床に転がる三人を順に見渡した。最後にパールをじっと見つめ、ほんの少しだけ表情を歪めて俯いた。
「だからパールも、サファイアもルビーもオマエも全員セカイを守る為に身を挺して魔王を倒してくれた英雄サマってコトさ。……オレの、そしてこのセカイの守り神になってもらう」
「なるほど。……全く、お前は本当に凄いヤツだ」
今の言葉は混じりっ気無しの心からの称賛だ。
国を上手く治める為の人柱。
結局アリスは俺があの二人を殺すことを見据えて動いていたし、ついでにパールって娘を殺すこともある程度許容していた訳だ。
最初っから最後まで俺はコイツの手のひらの上だった。
アリスはゆっくりと顔を上げると、床に転がったままのルビーに近寄った。
そして胸元に手を突っ込むと、首にかけてあったペンダントを引き千切る。
さらに今度はサファイアの髪からリボンをむしり取り、ついでにパールのイヤリングも外した。
「さぁ、オマエも何か寄こせよ。……ホラ。祀るには遺物として象徴的なモノが必要になるだろう?」
「……あぁ」
俺は慌てて身体をまさぐってみたものの、手頃な小物が見つからない。
少し迷ったが手にしていた剣を差し出せば、アリスは特に表情を変えることなくそれを受け取った。
「――で、どうするつもりだ?」
アリスは俺から受け取った剣に付いていた三人分の血糊を面倒臭そうに拭き取りながら訊ねてきた。
なるほど。
剣に彼女たちの血がべっとりと付いていたら、色々と面倒なコトになるのだろう。世間話をしながらも、反射的にそこまで知恵を回すことが出来るアリスはやっぱり恐ろしいと再確認する。
「……え? ……どうするって、……何を?」
俺は言葉を詰まらせた。
剣を熱心に拭う美少女――中身は男だと分かっているにも関わらず見惚れていたとも言えず、咳払いで誤魔化す。
「おいおいおいおいおい。そんなの2周目に決まっているだろうが? ……この流れだとそれしかないだろう、常識で考えて! 頼むぞ勇者サマ!」
アリスは呆れたように目を見開いた。
しかしながら俺は、言われて初めてそのことに気付く有様で。
「……いや、そう言えば、今までそういったことは全然考えていなかったな」
何せ魔王を倒すってコトと、彼女たち二人を始末することで頭が一杯だった。
だけどせっかく2周目をするならば、ある程度の計画は立てておくべきだろうとも思う。それこそ目の前のコイツのように。
しかしまだ、何をどうしたいかまではピンと来ないのも事実。
取り敢えず思い浮かぶままアリスに聞かせてみる。
良さげなアドバイスがあるかも知れないし。
「……そうだな、……まずは東方三ヶ国は絶対に潰すだろうな。聖王も山岳王もフォート公も、俺を
頭の中で具体的な想像を始めたら止まらなくなってきた。
あれもしたい。これもしたい。
どんどんとやりたいことが思いつく。
「レジスタンスは……適当に利用してから潰すか。……皇帝は、そうだな。お前のやり方を使わせてもらうおうかな? ……敢えて殺さずどこかに幽閉して魔王復活阻止という形が一番いいと思う。マールの思い通りに話が進むのは面白くないからな」
ふと見ればアリスがニヤニヤと
俺もきっと同じような笑みを浮かべているのだろう。
「で、そっくりそのまま帝国をもらい受ける。刃向う人間は冒険者だろうと誰であろうとブッ殺す。当然、俺より偉そうにしている人間も片っ端からブッ殺す」
「……えらく物騒だな?」
アリスが顔をしかめた。
確かにコイツは全ての陣営と仲良くしつつセカイを手に入れた。
そういうやり方もあるのだろうが、どうも性に合わない。
そもそもこのセカイの人間は全員俺の敵なのだ。
――コイツがそう仕組んだ、という話なのだが。
だから全員殺したところで、一切良心が痛んだりしない。
「いいじゃねーか。それぐらいさせろよ!」
2周目なんだから、何だって出来そうな気がしてきた。
気分が高揚する。
コイツもきっとこんな感覚だったのだろう。
「……あぁ、忘れていた。あのヴァルグラン領主夫人と娘は滅茶苦茶イイ女だったな。……ケイトも相当なモンだった。……アイツらは絶対に俺のモノにしてやる。イイ女は全員オレのモノだ! 豪華な後宮を作ってセカイ中からいい女をかき集めて、毎晩毎晩違う女を抱きまくる。そして片っ端から俺の
あぁ、最高だ!
これこそ男が夢見る最高の人生!
やはり2周目をするからには、これぐらいじゃないと。
今回の不満は全て新しいセカイで解消してやる。
俺の大胆発言に流石のアリスも驚きを隠せない様子だった。
コイツもこんな感じの表情をするのかと、こちらが逆に驚く。
――何とでも思うがいいさ。
お前がこのセカイを好き勝手したように、今度は俺が好き勝手する。
俺にはそれだけの力がある!
「愚民共は絶対に歯向かえないよう、徹底的に武器を取り上げてやる。もちろん税もきっちり取り立てる。生かさず殺さずってヤツだな!……まぁ最悪、ヤツらは幾ら死んでも構わない。どうせすぐに替わりはポコポコ生まれるだろうからな。俺は新しいセカイで愚民共の支配者として贅沢な暮らしをしてやる!」
この辺りはフォート公を見習うべきか。
あの無気力な水の公国民は為政者にとって理想的な駒。
まさか、あんな豚野郎から学べることがあったとは!
人生何が起こるか分からない。
「……………まるで鬼畜だな?」
冷たい笑みを浮かべたアリスが呟いた。
鬼畜で結構!
望むところだ!
「俺の為の新しいセカイなんだから誰にも文句は言わせねぇよ。俺は俺の思い通りに生きてやる。……ただし俺はお前程甘くねぇぞ!」
そしてマールにも聞こえるよう、天井に向かって高らかに宣言する。
「2周目は鬼畜プレイでやってやるからな! 覚悟しておけ!」
俺は宝具を握りしめ、力の限りに叫んだ。
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