第13話 クロード、アリスと本音で語り合う(中)


 俺が意味を量りかねて黙っていると、アリスは苛立ったように髪をかき上げた。  

 

「何故分かってくれねぇのかなぁ?」


 彼女は口元だけに笑みを張り付けた、どこか俺を見下すような表情でそう吐き捨てると、ゆっくりと語り始める。


「……このセカイはオレの最高傑作なんだよ。今や全ての勢力はオレの支配下にある。懸案の魔王もわざわざ手を下すまでもなくオマエたちが倒してくれた。……あとは不確定要素であるオマエさえ出て行ってしまえば『無事全ての計画が達成される』って訳だ。……そもそもオマエは『相手』ですらねぇんだ。あの鬱陶しいマールを出し抜くこと、それがオレの目的なんだよ」

 

 ……あぁ、なるほど。

 コイツは『勇者とは魔王を倒す為だけに存在する』というマールの言葉を根底から覆してやりたかったのだ。

 勇者としてこのセカイに存在しながら、一切魔王に手を出すことなくセカイを手に入れる。この展開は俺たち勇者を今まで好き放題に扱ってきたマールに対する最高の意趣返しだと言えるかもしれない。

 コイツはそれを目的にここまで2周目をやってきたのだ。

 そしてたった今、それを成し遂げてみせた。

 自分の思い通りにこのセカイを作り変える一方で、俺たちを魔王と戦わざるを得ない状況に追い込むというエゲツない手法で。 

 

 ――俺たちはマールとコイツのケンカのとばっちりを受けたってワケかよ。


 ホント、ただそれだけの迷惑千万な話だった。 


「――オレはこのセカイの王として面白おかしく過ごすさ。……オマエが新しいセカイに旅立つのをきちんと見送ってからな」 


 今の説明で否応なく理解はさせられた。

 だが到底納得出来るモノではない。

 俺たちはコイツのせいで散々な目に遭わされたのだ。

 精神的にも肉体的にも追い詰められるだけ追い詰められて。

 この何とも言えないモヤモヤした感情をどうすればいい?

 俺はどうすればこの気持ちにケリを付けられるのか?

 

 ――いっそ、コイツも潰してやろうか?


 俺は剣を握りしめた。


 

 一切警戒を解こうとしない俺に対して、アリスは相変わらずのどこ吹く風。

 例によって勝手に話し出す。

   

「……ところで、あの霊薬エリクサーは役に立ったか?」


 すぐに思い当たることがあった。


「……そうか、もお前だったんだな?」


 謁見の間でコイツと戦った後、俺はバルコニーから飛び降りた。そこで目についたのが無造作に置かれてあった道具袋。反射的にそれを引っ掴んで逃げたが、その中に入っていたのは変わった色の液体で満たされた小瓶が二つ。

 再びマールの声が聞こえるようになってからその中身を尋ねれば、霊薬だとそっけなく返ってきた。

 そのうち一つはさっきの魔王戦でコッソリ使わせてもらった。

 実際のところ、アレがなければ危なかったかもしれない。

 アレはコイツが俺たちの為に用意したモノだとのことらしい。

 これを飲んで『頑張って魔王を倒せよ』という、コイツなりの激励だったと。

 ……なるほど、そういうことだったのか。  


「――って、そんなの分かる訳ねーだろうが!」


 ちくしょう!

 悔しいけれど笑いが込み上げてきた。

 結果として俺たちはものの見事にコイツの策にハマって魔王を倒すこととなった。

 全部が全部計画通り。

 俺たちの2周目に懸ける必死な想いも全て!

 何もかも!

 全て!

 最初から2周目でもない俺たちがどうこう出来る相手ではなかった。

 


 アリスは無防備にも天井を見上げて、何かを考え込むような仕草を見せた。

 そして何度か頷く。

 

「……オマエは魔王に騙されていただけで、正気を取り戻すと皇帝を殺したことや皆の信頼を裏切ってしまったことを激しく後悔することになった。ついでに勇者としての自覚も取り戻すと、セカイの平和を取り戻す為、決死の覚悟で人知れず魔王に戦いを挑むことにした」


 アリスは低い声で一人で呟き始めた。


「…………オイオイ、いきなりどうした?」


「魔王と死闘を繰り広げるクロード一行。そこにオレとパールが居合わせることになった。最初は様子見するつもりだったが、戦況は徐々に劣勢となる。やむを得ずオレたちも参戦を決断。全員で力を合わせて魔王と戦い何とか討伐したものの、オレ以外はパールも含めて全員死亡してしまった。……とまぁ、そんな感じでどうだ?」


 そう言うとアリスは口元を歪めた。

 なるほど、そう報告するってことか。 


「いいんじゃないか?」


 俺は頷くことで賛成の意思を示す。

 即興で考えた割には中々の出来栄えだし、何よりきちんと俺の名誉が回復されている部分が悪くないと思えた。


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