第4話 心の傷
それは一ヶ月半ほど前の事だった。
僕は父の運転する車の後部座席に乗っていた。母は父の隣、助手席に座っていた。ここから家に帰る途中だった。
雨が降っていた。
梅雨前線による豪雨。
路面は川のように水が流れていたし、視界も悪かった。
途中でがけ崩れがあり、道路が通行できなくなっていた。
父はUターンして迂回路を探そうとしたんだけど、そこに前方不注意のトラックが突っ込んで来た。
正面衝突だった。
僕たちが乗った車はガードレールを突き破って崖から海に転落した。
その時の記憶は今も鮮明に脳裏に浮かぶ。
海水が車内に侵入して来て溺れそうになった。幸い水深は浅くて助かった。
父は大けがをして入院中。母は軽傷だったが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され現在も通院中だ。僕は怪我もしなかったし、PTSDと診断されているけど症状は軽い方だと思う。でも、水に対する恐怖心は強くて泳ぐどころじゃないのが現状だった。
「なるほど……」
僕の説明を聞いて、陽子は瞳を潤ませていた。
涙がポロリと彼女の頬を伝う。
そして何を思ったのか、僕を抱きしめた。僕の顔はその豊かな胸に押し付けられ、その圧力は呼吸不能なほどだった。
苦しい……でも気持ちがいい。
「辛かったね。でも大丈夫だよ。海斗は一人じゃない。私が傍にいるよ」
JPOPの歌詞みたいな台詞が聞こえてくる。
これまで何度も聞いた同情の言葉と大差ない。それは鬱陶しいと感じることが多かったのだけれども、彼女の言葉は僕の心に染みわたっていく。
彼女の深い愛情を感じ、僕の心はほぐされていく。そして引っかかっていた何かが外れていく感覚があった。軽くなった。
いつの間にか僕は彼女の背に両手を回していた。
そして彼女の胸に顔を押し付け、その柔らかさを堪能していた。そして硬くなったあそこを彼女の太ももに擦り付けていた。無意識の行動だった。
突然、彼女は僕の頭を掴んで胸から引き離した。そして僕の顔を見つめる。
「少年。それ以上やるとお姉さんは本気になっちゃうぞ」
しまった。
一時の激情に任せてやっちまったかもしれない。
陽子さんに叱られたのだと思った。
彼女は僕の硬くなったあそこをじっと見ている。
途端に恥ずかしくなった。
「ふふふ。元気で良いではないか。人間、心が病んでしまうとエッチな事ができなくなる場合がある。少し心配だったんだが、海斗は大丈夫みたいだな」
そういうものなのだろうか。
良く分からないが、心が軽くなったのだけは確かだった。
「私は帰るよ。歩くからね。送ってくれなくていい。海斗はそれ鎮めてから帰ること。そのままじゃ変態さんになるぞ」
陽子さんは笑いながら去っていく。
僕の勃起は収まらない。かといってここでオ〇ニーするわけにもいかず、どうしてよいのか分からなかった。
僕はその場で15分ほど立ち尽くしていた。
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