第2話 ボーイミーツレディ

 すっころんだ僕を見つめている女性。

 彼女は目を見開いて驚いていた。僕よりは年上の感じがする。今から泳ぎに行くのだろうか、白いワンピースの水着の上に黄色のパーカーを羽織っていた。それでもその胸元は存在を主張していて、あからさまに只者ではないサイズだった。


「大丈夫? 怪我してない??」


 その女性は駆け寄って来て僕をのぞき込んだ。


「ごめんなさい。私が飛び出しちゃったからだよね」


 素直に頭を下げている。


 僕は自分の体よりも、バイクが壊れていないかどうか心配だった。とりあえず立ち上がってバイクを起こした。サイドスタンドを立ててバイクをチェックする。


 良かった。

 何処も壊れていないようだし、目立つ傷もない。


「ねえねえ。確かに私が悪かったけど、無視する事はないと思うよ。どういうつもりなの?」


 彼女は頬を膨らませてちょっぴり怒っていた。


「あ。ごめん。このバイク借り物なんだ。だから壊れてないか心配だったんだ」

「そう。荒木さんとこのね。ふーん。あのオヤジから借りたのか。じゃあ心配だね」

「え? どうしてわかるの?」


 僕の質問に彼女は無言で指をさす。

 スーパーカブのカゴについているプレートを指していた。


「だってこれ、荒木新聞店ってプレートが付いてるじゃん。一目でわかるよ」


 そうだった。

 そんなものがついている事をすっかりと忘れていた。


 つまり彼女は地元民で、伯父さんが曲がった事が大嫌いな頑固親父で色々口うるさい人だと知っているという事だ。


「伯父さんの事、知ってるの?」

「うん知ってる。ここらじゃ有名な頑固親父だからね。アレは」

「やっぱり」

「でさ。君はその頑固親父の商売道具を借りて何してんの? 新しいバイト君かな?」

「いや。バイトじゃないんだ。あの人は僕の伯父さんなんだ。僕の父の兄だよ」

「へえ。じゃあ夏休みだから遊びに来てるんだ」

「まあ……そんなところだよ」


 少し言葉を濁してしまった。

 遊びに来ているのとは少し違う。

 でも、伯父さんはここで遊んで気分転換をして欲しいって言ってた。


「じゃあさ。私と一緒に泳がない? そこ、海水浴場だよ」


 僕は即座に首を振っていた。


「あれ? 私と泳ぎたくないの? これでもFカップなんだゾ」


 そう言って自分で胸を寄せて、その谷間を強調する。

 

 これは目の毒だ。


 僕は目をそらしてうつむいてしまった。


「えーっと。女の子に興味はないの?」

「そんな事ないです」

「じゃあどうしてなの? 彼女がいるとか?」

「彼女なんていません。ちょっと眩しいって言うか、刺激的すぎるっていうか……」

「ほほー。初心うぶなのかな? まあいいじゃん。ここは海も綺麗だし」

「僕は泳げないんだ」

「あー残念。じゃあさ。あっちの磯で遊ぼうよ。あそこなら泳げなくても楽しいよ。行こ行こ」


 などと言いながらスーパーカブの荷台に横座りする。


「さあ出発だぁ~」


 と右腕を伸ばす。


「あの……これ、原付なんですけど」

「知ってる」

「二人乗りできないんですよ。僕、原付免許しか持ってないし」

「そうなんだ。でも、自転車よりは簡単だから」

「警察に捕まっちゃいます」

「大丈夫。この辺にはいないから」


 これは逃げれそうにない。


 仕方がないので僕はカブに跨った。

 キッククランクを蹴飛ばしてエンジンをかける。そしてサイドスタンドを上げた。


 彼女は僕にしがみつきてきた。その豊かな胸が背中に押し付けられる。


「行っけぇ~!」


 彼女の号令でギアをローに入れてアクセルを開ける。

 カブはゆっくりと走り始めた。


 僕は海水浴場から少し離れた岩場へと向かった。



【注意】


※原付での二人乗りは道交法違反です。ヘルメットもちゃんと被りましょう。みんな真似しちゃダメだぞ。

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