海が太陽のきらり☆彡【恋愛編】

暗黒星雲

第1話 スーパーカブ

 キーをひねる。

 これがメインスイッチ。


 そしてアクセルを少し開けてからキッククランクを蹴飛ばす。


 ストトトト……。


「かかった。エンジンかかったよ!」


「始めてにしちゃ上出来だ」


 伯父さんが褒めてくれた。


「自分で整備した単車は可愛いだろう」

「ええ。そうですね」

「そいつは好きに使え。ただし、カゴのプレートは外すんじゃねえぞ」

「分かってます」


 今は夏休み。

 伯父の家は新聞販売店を営んでいる。店の隅に、使われていないスーパーカブがあった。


 僕はとある事情があって伯父の家に来ていた。その事情を気遣ってか、伯父は放置されていたスーパーカブを自由に使わせてくれると言ってくれた。でも、自分で整備するって条件だった。


 もちろん、バイクの整備なんてやった事は無い。だから、伯父に教わりながら一生懸命やった。


 まずはバッテリーを外して蒸留水を補充する。そしてそれを充電器に接続する。オイルを抜いて規定量入れた。交換は半年に一回で良いが、量は常にチェックしろと教わった。オイルが入ってないとさすがのスーパーカブも故障するらしい。


 そして前後ブレーキのチェック。

 ブレーキシューは十分だったが、ワイヤーが油切れでゴワゴワしていた。そこに注油する。アクセルのワイヤーも同様に注油した。慎重に遊びを調節する。ブレーキペダルとか、その他の可動部分にも注油する。そしてチェーンカバーを外してチェーンにも注油する。


 適度な注油で滑らかに動く事が大切。ガチャガチャいわせてる素人はダメなんだって。


 タイヤに空気を入れてから洗車をした。

 埃まみれだった車体が輝き始める。放置されていたからあちこちサビが出てるけど、それでも綺麗になると心が躍り出すから不思議だ。


 水気を十分に拭き取ってからバッテリーを乗せた。そしてガソリンを満タンにした。充電は不十分でも、キックでエンジンはかかるから試運転しろって事らしい。


 真夏のクソ熱い車庫の中で、二時間程度作業して汗だくになっていた。


 そしてエンジンをかけてみたら一発でかかったって話だ。

 僕は嬉しくて飛び上がっていた。

 

 エンジンを回しながらウインカーとブレーキランプのチェックをする。玉切れは無し。動作異常なし。


「海斗、試運転して来いよ」

「うん。行ってくる」


 僕はヘルメットを被ってカブにまたがった。そして左のシフトペダルを踏みこんでアクセルを開ける。


 カブはスーっと走り始めた。二速、三速とシフトアップしてスピードが乗っていく。


 気温は33度くらいだろうか。走っても体に当たるのは温風だ。

 それでも汗が乾いていく感覚はひんやりして気持ちが良かった。


 原付免許は三日前に取った。


 免許取り立ての初運転は田舎の海岸通りだった。

 交通量は少なく、気兼ねなく運転できるのは最高じゃないか。


 とか喜んでいたところに一人の女性が飛び出してきた。

 

 急制動!!

 右手で前ブレーキ。右足で後ろブレーキを思いっきりかける。


 よーし。止まった。


 まあ、超初心者が初運転してるのだから大したスピードは出ていない。僕は左足をついてバイクを降りようとした。もちろん、一言文句を言ってやろうと思ったんだけど、その左足が滑った。


 ズテーン。


 コケた。


 これが人生最初の立ちごけだったことは言うまでもない。

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