ヴァルシュタット男爵家(広間)

「お帰りなさいませ。先ほどお着きです」


 王国首都郊外の屋敷、空軍士官服姿の男が重厚な扉を抜け広間に入ると、老執事が歩み寄りながら書類鞄を受け取った。


 そこへ、広間へ案内されていた初老の〈狩人かりゅうど〉が口を開いた。


「明朝改めてとも思うたのですが、火急かきゅうとのことでしたので」


 空軍士官であり、この男爵家だんしゃくけあるじでもあるルトギエル・ヴァルシュタット王国空軍中佐はまだ好青年と言っても、ご婦人方に怒られはしないであろう、屈託くったくのない笑顔を浮かべた。


「それは賢明でした。待ちかねていた。精霊に選ばれし者たる、あなた方にしかお願いできない特別な任務なのです。あなたが?」

「私ではなく……アウィスここへ」


 男爵の差し出された手をにぎり、その力強さを感じながら、初老の〈狩人かりゅうど〉は後ろにひかえていたアウィス・シルワウィリデでを促《うなが)した。


 深くこうべを垂れたアウィスは、頭を上げるとその黒い瞳で男爵の青い瞳を凝視ぎょうしした。


 男爵は何かをわずかに感じたが、初老の〈狩人かりゅうど〉の声にそのわずかな何かはき消えた。


あの日・・・も、一度お目通めどおりしておりまする。この者も、パレード警備のため随行《ずいこう)しておりましたので。若いとはいえ、場数も踏んでおりますれば」

「あぁ、あのとき・・・・に。なるほど、どおりで初めて会った気がしなかった訳だ。ときに……いや、今晩はゆっくり休んでほしい。任務の詳細については、明日、説明するとしよう」


 何事か言葉を飲み込んでしまった男爵に、〈狩人かりゅうど〉たちは何も言わずに一礼し、懐かしそうに笑顔を向ける執事しつじの声にみちびかれるまま、広間を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る