2020年
2.自分を「面白い」と思わないからこそ「面白く」なる
昨年末、ちょっとした理由で「廃神社」で動画を検索している時にゾゾゾ(※1)を見つけて以降、自分の中でちょっとしたオカルトブームが起きている。
そんなきっかけとなった番組が二冊の本を出すという。「本の発売を楽しみに待つ」という機会も、そのレベルに値するものに出会うこともとんとなくなっていた自分にとって、久しぶりに「発売日が気になる本」だった。
そのうちの一冊が『読むゾゾゾ』な訳なのだが、そこに収録されている「スペシャル座談会」でふと、ある個所に目が止まった。
(前略)
―20ヵ所行脚は極端だとしても、ゾゾゾは全体的にかなりタイトにまとまっていますね?せっかく他県まで撮影に行っているのに、大部分をカットして短い動画に仕上げるのには勇気がいりませんか?
皆口 それは番組を作りはじめるときから気をつけていたんです。少なくとも自分はタレントでもない人たちが心霊スポットを回っている番組を見てもなかなか楽しく感じないんです。「面白くない」というのを前提に、それならどうやったら見てもらえるのか、というのを考えて、今のスタイルになりました。落合さんがしゃべっているところとか、いらないところは全部カットします。時間も10~15分が、限界だと思うんですよ。行き返りの車中でカメラ回すこともあるんですが、使ったことはないですね。
(後略)
この箇所を読んだのと近い時期に公開された「テレビ特集中止!禁断の八木山橋!宮城最恐のヤバいスポット2本立てスペシャル」では、確かに冒頭に「道中でカメラを回していたこと」を示唆するシーンが入っている。が、しかし、肝心の映像はスポットに着いてからのものだ。どれだけの時間カメラを回していたのかは定かではないが、恐らく相当数がカットされていると思われる。
上記の文を読んだ時自分は正直「面白くないなんてことは無いだろう」と一瞬思った。けれど、その直後に、長々と続くyoutubeの動画で、途中を飛ばそうと思った経験があったことを思い出した。心霊、オカルト系だけで見ても、他のチャンネルは投稿数も多ければ、動画の時間も長いことがザラだ。けれども、ざっと見渡した時に、どれが一番面白いと感じたかと言われるとやっぱり「ゾゾゾ」なのだ。
話がやや飛ぶが、『ザ!鉄腕!DASH!!(以下鉄腕ダッシュ)』というテレビ番組がある。最近は見ていないのでどうなっているのかは知らないが、この番組は「普段テレビのバラエティ番組なんて鼻で笑っている層」にもウケが良いように思える。それは何故か。答えは簡単なのだ。『鉄腕ダッシュ』も「短くまとめられている」のだ。
例えばメンバーが特殊な免許を取る話があったとする。通常のテレビで放映されるようなバラエティならば、一回丸々つかって特集をした挙句、免許を取れたかどうかを次週に引っ張る事で視聴者を引き寄せようとするかもしれない。
ところが『鉄腕ダッシュ』だと、それをあっさり「取ってきました」の一言で済ませたりしていたのだ(今はどうか分からないが)。ここに「面白くする」秘訣が詰まっているような気がする。
物語のある創作でもそうだ。人気作品が故に終らせることが出来ずに、引き延ばしては中身のない話を続ける。そんなものは本来見向きもされないはずなのだ。
それでも一定の読者と、それなりの売り上げを稼げてしまうのは「人気作品」というブランドがあるからに他ならない。そこにあるのは「面白いものを作ろう」という考えではない。ただただ、「搾り取れるだけ搾り取ろう」という発想。
ついてくる人間はいるかもしれない。しかし、そんなことを続けている人間が、創作者としてどうかは、上述のコメントをと比べれば明らかだろう。
以前、あるネット小説出身の(名前は敢えて伏せておく)作品を見たときに「なんて中身のない話なんだ」と思ったことがある。
徹底して話を進めること、テンポを良くすることに重点を置かれたシナリオ構成。細かな部分はばっさりカット。ストレスフリーで読みやすいのかもしれないが、自分は正直「これなら見なくていいや」という結論に達した。
これもまた「ネットで読者を獲得する方法策」ではあるのかもしれないが、ここまでのことを踏まえて考えるともっとやりようがあるのではないかと思うのだ。
話のテンポは良く、でも内容の厚みは失わずに。内容そのものを薄くすることで話の運びを良くするのではなく、一話一話の内容を濃くすることでテンポを良くしたらいいのではないか。それとも、そんな濃い内容だと理解が追い付かないのだろうか。
……と、まあそんな訳で、ちょっとハッとする発見があった、という話でした。オチはないです。ただ、薄く延ばされた作品ではなくて、濃縮還元された作品を書こう。そんな風に考えたというお話。
※1…ゾゾゾとは、心霊スポットや恐怖ゾーンといった日本全国のゾゾゾスポットをレポートして、ホラーポータルサイトを作るという壮大な目標を掲げたホラーエンタテイメント番組(番組概要欄より抜粋)
【参考資料】
・『読むゾゾゾ』株式会社ワニブックス,2020
・テレビ特集中止!禁断の八木山橋!宮城最恐のヤバいスポット2本立てスペシャル(https://www.youtube.com/watch?v=reohH5DMg6M&t=647s)
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