第3話 引きこもり?

 俺は引きこもりではない。

 運動のために外に出るのだ。立派だ。さすがだ、俺。

 ……いや、体型維持のためにやっているのだが。

「おはようございます、先輩!」

「……紫苑か」

 俺に並走してきたのは、近所の子。

 天海紫苑。一個下の十五歳で高校生。

 知的な名前に似合わず体育会系。背は低く童顔気味なものの、キララに比べたら常識的だ。

 そして決定的に違うのは、その胸。

 揺れるくらいデカい。意識してなければ自然に目が行くくらいには主張している。

 本人も自覚しているらしく、早朝にしか走らないという。

 そして常識的な知性を備えていたため、スポーツ特待で俺の通う(通ってないが)私立白亜高校に入ってきた。

「先輩も学校に行きましょうよー。寂しいです」

「アホ。行かんわ」

「また勉強教えてください!」

「試験が近くなったらな」

「もー。先輩はいっつもつれないです!」

「俺なんかと仲良くしても仕方ないぞ」

「いえいえ! 先輩は天才だと思うので! あやかりたい! 学問の神様!」

 とりあえず太宰府天満宮に行って土下座してこい。

「てか、何でそう思う」

「知恵の輪を一瞬で外したり、一向に揃わないルービックキューブを五秒でそろえたり、落ちものパズルの世界大会で優勝したり」

「……」

 ゲームで賞金稼いでるの、バレてるのか……?

「基本的にその無駄に高いスペックを遊びにしか使ってないですよね?」

「お前、さり気にディスってんだろ」

「まさか! 褒めてます!」

「運動部で浮いてないかお兄ちゃん心配だ」

「誰が妹ですか! そういうのは部活の先輩で充分です!」

「よかった。愛されてるな」

「まるで見てきたかのように!? わ、わたし、そんなに妹キャラですか!?」

「可愛がりたくなるくらいには」

「うぐっ……! 綺麗なお姉さんになりたい……!」

「気にするな。十年後は凄いぞ、多分」

「十年も先何ですか!?」

「馬鹿、十年なんかあっちゅーまだぞ」

「そういうものですかねえ」

「いつか十代を尊ぶ時が来る」

「いや先輩いくつなんですか……」

「ピチピチの十六歳だ」

「時折、おじさん入りますよね、先輩」

 そりゃ昼間にネトゲしてるような奴は大体無職のニートどもだ。

 最近は高齢化で、ネトゲの年齢層も高くなってきている。

 そもそもが、パソコン持ってなかったりするのも多いし。

 スマホの普及と共に、あんまりゲーミングPCは見なくなった。

 そんな会話をし続けながら、往復十キロを走り終え、近所のコンビニに。

「ぜーっ、ぜーっ……」

「先輩、体力付きましたよね。前は行きに三回も休憩とってましたし」

「馬鹿野郎、休憩は大事だ」

「はいはい」

「さて、そこで待っていろ。アクエリでいいか?」

「いえ! 新発売のイチゴクリームソーダがいいです!」

「わーったよ」

 交互にジュースを奢りあう謎ルールが展開されている。

 俺はゲータレードを、そしてイチゴクリームソーダを買い、コンビニを出る。

 夏場だが、朝の気温はそうでもない。

 それでも汗が流れる。

 そんな彼女は上にジャージを着ていた。

「お前、蒸さないか、その格好は」

「蒸れ蒸れです……メッチャ暑いです……」

「ま、好きにすればいいけどさ」

「見られるの、ヤですもん」

「あっそ」

 二人して、ジュースを飲み干していく。

「……家に帰って朝ごはん食べよ……」

「俺も用意しなきゃな……」

「え、唯先輩って朝食食べるんですか? なんか意外」

「俺は食わないけど、一緒に住んでる人が食べるんだよ」

 かなりの量をな。

「ああ、虎杖先生でしたっけ。先輩のお母さんの後輩でしたよね?」

「そ」

 母さんは田舎で育ったためか、小中高一貫で、高校二年の頃に小学一年のキララと同じ学校に通っていた。

 それ以前にも家族ぐるみで付き合っていたためか、仲が良くて、今でもそれは変わらない。

 海外旅行――というか、全国を旅するとかほざいて消えた両親が頼んだ保護者役。

 それが、当時高校生だったキララだ。

 俺が中二の頃に行ってしまった海外旅行。付いてきゃよかったと思わなくもないが……。

 あの二人、年甲斐もなくラブラブだからしゃあないよな。俺は邪魔だろうし。

 割と何でも言い合えるキララとの仲を考えるに、悪くはないのかもしれない。

 ただ、キララには毎度申し訳ない。故に大体のお願いは聞く。

 学校には行かないが。

「あ、再来週は期末ですよ! 頑張りましょう!」

「ああ、うん。そうね」

 六月末の試験か。

 高校生の教育課程はすべて頭に入っているので問題ないが、復習をしておきたい。

 飲み終わったゲータレードをゴミ箱にぶち込んで、踵を返した。

「よし。帰るか」

「あ、ちょっと待ってください。もうちょっとで飲み終わるんで」

「はいはい」

 紫苑の飲み終わりを待って、俺達は家に帰っていった。

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