第2話 幼馴染

「ゆーいー! 怖がらなくていいからでておいでー!」

 ……。

 時刻は、午前六時半。

 さっき朝食を作って、寝ていたばかりなのに。

 だが、窓越しに至近距離で聞こえる声。二度寝は期待できそうにない。

 ……認めたくない。

 あんなパッパラパーが俺の関係者だと。

 窓を開ける。

「お! 唯、おはよ!」

「……何か用か。伊月」

 こいつは見た目だけで生きている底抜けの馬鹿。麻生伊月。

 同じ幼稚園、同じ小学校、同じ中学を経て、勉強を教えてやった甲斐もなく、悲しい高校に行ってしまった。

 どれくらい馬鹿かというと、九九が未だに二の段で止まり、アルファベットも歌いながらじゃないと思い出せない。

 ちょっと人としてどうなのというレベル。

 ただ、擁護しておくと運動神経は変態的で。

 ソフトボールで推薦が来たほどだった。

 まぁ、ほぼ顔パスで通れる試験を落ちた頭脳は推して知るべし。

「あるよー! 今日こそ、学校いっしょに行こ!」

「お前の高校は違うだろ。俺の学校はド底辺の亜里高校じゃないんだよ」

「むー、そんなにテーヘンって言わなくてもいいじゃん!」

「常識的に偏差値三十二はヤバい……」

「七十五の白亜高校の方がよっぽど変態だよ!」

「おお、七十五の数字が言えるのか。進歩したな」

「えへへ!」

 うん、お分かりいただけただろうか。

 普通はキレるんだぞ。

「ねえねえ、そういや最近楽しいことあった?」

「それを何でお前に言わなきゃいけないんだ……?」

「うわ、マジでわからないって顔だ!」

「……レアアイテムが落ちた」

「何それ! 女子高生のパンツとか!?」

「いやリアルじゃねえよゲームだよ」

「あー、あのピコピコかぁ。あれでしょ、おんらいん、ってやつでしょ?」

「ピコピコって……お前は団塊世代のオヤジかよ……。まぁ、そのゲームだが」

「あれだよねー。ゲーム始めたら、アイサツしなきゃなんでしょー? めんどっちーよねー!」

「お前はホントに生きてて楽しそうだな……」

「うん! 今日はお小遣いもらえる日だからステーキ喰ってくるぜ!」

「あっそ。頑張れよ。んじゃ、お休み」

「おやすみー! って違うよ! 学校行こうって話じゃん!」

「行かない。今日は忙しいんだ。昼の十二時から経験値が二倍になるんだぞ」

「? よくわかんない」

「猿め……。ともかく、行かないって。今更あんなところ、行きたくもない。テストの日にはちゃんと顔出してるから、心配すんな」

「……。あーあ。学校一緒だったらよかったのになぁ。きっと唯も楽しいと思うんだけど」

「アホ。俺のことはいい。オリンピック目指すんだろ、ソフトボールで。頑張れよ」

「……唯も、早く学校に行けるようになるといいね! じゃね!」

 言いたいことだけ言って、窓を閉じやがった。

 まぁ、どうでもいいけど。

 ん、ノックだ。

「はい」

「失礼するよ」

 キララだ。

「どうかしたか?」

「コーンポタージュの買い置きがどこに行ったか分からないんだ」

「あー……倉庫だな。俺も行こう」

「すまないね。朝食はスープがないと始まらない」

「このくそ暑いのによくもまあ……」

「それは偏見だ。最近は水にも溶ける冷製タイプもあるのだよ」

「へえ」

「まぁぼくはお湯で溶かす派だがね」

「今の無駄な知識いる?」

 結局、俺も一緒に朝食を摂り。

 二度寝を敢行するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る