+α
ああ、負けた負けた。
そんな感想と脱力感を抱きながら、わたしは敗北の後の土の味を味わっていた。
体は泥まみれ。
擦り傷や切り傷なんて当然のように全身についていて、わたしは痛む全身を引きずってろくに整備もされていないドがつくほどの田舎道をとぼとぼと一人で歩いていた。
というかマジで痛い。歩を進めるたびに高圧の電気ショックみたいな衝撃が走る。
これは全身が折れているのかも。どこがどう痛いとかじゃなくて、全身が丸ごと熱を帯びて全体的に一回り大きくなっているような、ちょっと危うい痛みがじんわりと襲ってくる。
一歩一歩、確実に地面を裸足で踏み締めながら、わたしはそれでも目的地へと歩いて行く。
……ってさっきからやけに視線を感じるな。
そう思って背後を見てみれば……。
「ああ何だ。さっきまでのわたしと同類か」
きっと今わたしは物凄く失礼な目であなたを見つめていると思う。
いつもならお姫様らしく気を遣って愛想笑いを浮かべるトコかもしれないけれど、お生憎様さっきそういうのは卒業したところだ。
ぷらぷらと適当に手を振ってやる。
虫を払う仕草に似てるからムッとされるかもしれないけれど、こっちは全身折れているのにこんな余計なアクションまでサービスしてあげてるんだ。感謝されたっておかしくないくらいなんだけど、たぶん伝わらないよねこの体と心の疲れ。
とりあえず言う事は……まあ適当で良いか。
「ほら、こんな所で油を売ってないでさっさと行きなよ。……何を足踏みしているんだか。その無駄な労力のベクトルを少しだけ前に向けるだけで良いのに」
さっきそっちを向き始めたばかりだとか関係ない。
こんなもん早い者勝ちよ。
「不安? はは、安心しなよ。どれだけ本気でぶち当たって粉々に折られようとも」
ああ見えてきた。
あれだあれ。うわあ、やっぱり見すぼらしいなあ、月の家にご招待したいくらいだよ。
「土の味を知っていたら、敗北も言うほど悪くはないもんだぜ」
そう言ってから、わたしはとある民家の呼び鈴を鳴らした。
元気一杯に名前を名乗ると、早くも慌てたような足音と泣き声が聞こえてきたのだった。
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