3-4


「けほっ、熱っ、痛っ、肺痛い……」


 座り込みながら、金髪碧眼のロシア人・クセニア=ラブニャリアは二つ大きく膨らんだ胸の真ん中をグイグイ押しながら咳き込んでいた。


 上から鬼みたいに高速で降りてくるエレベーター、下から爆発のような炎、しかも出入口であるエレベーターシャフトの扉は閉まっている、という絶望的な状況だったが、実は逃げ場は存在していた。しかもそれはエレベーターの数だけあったのだ。


 エレベーターの床、クセニアから見れば降り注ぐ天井とさほど変わらなかったそれは、命綱として機能する。


『天井』の床を破壊してエレベーターの内部に入り込み、炎が自然と消えるまで黒い翼で穴を塞ぐという……生きるための並々ならぬ努力をやり遂げたクセニアは、ちょっと疲れちゃっていた。


 具体的に言うと、追い駆ける気力を失っていたのだった。


「むう……」


 無表情の顔が不機嫌そうな色で染まる。


 ぷくーっと二つの頬が空気を含んで膨らんでいた。赤い炎のせいでぶかぶかのTシャツの腰や胸の辺り、その布地の一部が焼けて破れてしまったのが原因である。


「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………やっぱりお肉がついている」


 さて、ぶかぶかのTシャツにスポーツブランドのスウェット。それも白やグレーといった膨張色を使わないといった彼女自身のルールは、何のためなのか。クセニアの大きな二つの胸は、果たして遺伝子のポテンシャルによるものだけなのか。


 体形や肉付きを確かめるように頬やお腹をぐにぐにしつつ、頬っぺたのお肉が目立たないように無表情を決め込みながら、お仕事を放棄しちゃったクセニア=ラブニャリアはもう鼻から息を吐いてエレベーターの床に寝そべる事にした。


 いかに暗躍部隊といえど人間である。


 疲れもすればやる気が起きない時だってある。


「……まあ良いや。下にはロザリアもいるし」


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