お題「カタリィ、バーグ」

ブヒ太をプロデュース!~小説を書いただけなのに~

薄暗い部屋で、パソコンディスプレイの光だけが男の顔を照らしている。


「んほぉ~。アリサちゃんデレ回! キタコレ! 最高にブヒれるぅ~」


ネット小説を読んでいる太った男は、荒々しく鼻息を噴き出している。



「それに比べてこっちの作品はヒロインが可愛くないんだよな~。萌えっていうものをわかってないよ、コイツは。もっとブヒらせてくれないと」


脂の浮いた顔をしかめながら、別作品に文句をたれる。


「なんでこんなのが人気なんだ? おれならもっと可愛いヒロイン書けるのに……」


男が口を尖らせて、そう呟いた瞬間、パソコンがまばゆくく輝き出した。


「な、なんだ?」


戸惑う男の耳に、少年の声が響いた。


「じゃあ、書けばいいじゃん!」


その言葉が聞こえた瞬間、パソコンがよりいっそう輝きを増し、ディスプレイの中から何かが飛び出してきた。



「ぬわぁぁぁ!」


驚いた男は、イスごと後ろにひっくり返った。部屋に乱雑に置かれていたペットボトルやフィギュアが衝撃により宙を舞う。


なんとか体勢を立て直し、上体を起こした男の目の前には、少年と少女と一羽の鳥の姿があった。


「な、な、なんだお前ら」


「僕はカタリィ、隣にいる彼女はバーグで、こいつはトリさ」


活発そうな少年が元気よく答える。


「トリさって言われても意味がわかんねぇよ。なんなんだよ」


「私たちは、物語を探しているのです」


可愛らしい少女、バーグが男に笑顔を向ける。


「物語?」


「そう、僕たちは新しい物語を、必要としている人に届けるのが仕事なんだ」


カタリィと名乗った少年が胸を張って答える。


「だから。なんでそんなヤツらがここにいるんだって」


「キミが、新しい物語の作者に選ばれたからだよ」


「物語の作者ぁ?」


「だって、キミ、言ってたでしょ? 『おれならもっと可愛いヒロイン書けるのに』って」


「……あっ!」


男は先ほどの自身の呟きを思い出した。


「い、いやぁ。あれは売り言葉に買い言葉と言いますか」


「誰もなにも売って無かったみたいですが?」


バーグが首を傾げる。


「細かいことはいいんだよ! そもそも、なんでおれが物語なんか書かなきゃいけないんだよ」


「人の心とはいびつなものなのさ」


「と、トリがしゃべった!」


突然しゃべりだしたトリに驚き、男は腰を抜かしそうになる。


「完全な形の心なんてない。だから人は、何かでそれを埋めようとする。物語とは、誰かの心のスキマを埋める力を持つものなのさ」


「はぁ」


男はトリに気の抜けた返事を返す。


「そう考えると、この世界には物語が圧倒的に足らないのさ。書き手の人材不足というわけだな」


「で、でも、おれ、小説なんか書いたことねぇぞ」


「それは大丈夫! バーグがキミをサポートしてくれるよ」


カタリィがバーグを指さした。バーグも笑顔で頷く。


「一緒にがんばりましょう! 作者様!」



――作者。……この、おれが?


作者と呼ばれたことに気を良くしたのか、男の顔にもやる気が満ちてきた。



「よっしゃ! いっちょやってやるか! おれ様が本気を出せば、すぐに書籍化のオファーも来るだろう。コミカライズやアニメ化……ってことは、自分で作った最高に萌えるヒロインでブヒれるってことだもんなぁ!」


「おお! その調子です! 作者様!」


バーグがうれしそうに手を叩いた。


「それじゃあ、僕たちはまた新しい物語を探しに行ってくるから、バーグ、後は頼んだよ」


そう言うと、カタリィとトリは再び輝き出したパソコンの中へと吸い込まれるように帰っていった。



「よぉし、それじゃあやってやりますか!」


男は気合を入れなおし、パソコンのキーボードに手を当てた。


そして、止まった。



「……あれ? なにから書けばいいんだ?」


当然のことだ。男は小説に関してはズブの素人。何から手をつけていいか皆目見当もつかなかった。


「作者様の書きたい物語は、いったいどういうものですか?」


バーグが問いかけてくる。


「そりゃあ、ヒロインが可愛い物語だよ」


「それじゃあ、まずはヒロインの設定から始めてみてはいかがでしょう?」


「おお、なるほど」


男はメモ帳アプリを起動し、理想のヒロインの設定を羅列られつし始めた。


「髪は当然金髪だろ。んで、サイドのツインテ。ツンデレで、背が低い割に巨乳っと……」


「ふふふ。作者様の欲望が溢れてて、いい感じに気持ち悪いですね」


バーグが笑顔で呟く。


「うるさい! これからお前に本当の萌えってもんを教えてやんよ!」


「その調子です! キモブt……作者様!」


「お前いますごい暴言吐きそうになってなかったか?」


バーグを睨みつけながら、男は設定を書き続けた。



ある程度設定も出来上がり、話の筋も考えた男は、いよいよ執筆に取り掛かった。


「よぉし! なんとか一章書き終えたぞ! これをサイトにアップしてっと……」


男がマウスを操作し、【投稿】ボタンを押した。


「さぁ、読者の反応が楽しみだなぁ」


しかし、二日経っても、三日経っても、男の小説のPVは0のままだった。


「クソ! なんでだよバカ野郎! ランキングに載ってるヤツより、おれの小説のほうが百倍おもしろいってのに!」


「あらすじを工夫してはどうですか?」


バーグが声を掛けてくる。


「なるほど。あらすじか」


男は指摘された通り、読んでもらいやすいようキャッチとあらすじを修正した。


「おお! バーグみてみろ! PVがついたぞ! こうなったらあとは、口コミで雪だるま式に読者が……」


――増えなかった。


「なんでだよ! お前らおれの最高に可愛いフランソワちゃんをもっと愛でろよ! ……ん? コメントがあるな」


男はコメントを確認する。


【文章がめちゃくちゃすぎて読めない。作者は中学生かな?】


「ぬがぁぁぁぁ! 誰が中学生じゃー!」


男が怒りに任せてキーボードを叩きつけようとするのを、すんでのところでバーグが止めた。


「さ、作者様落ち着いて! 読者からの指摘は、参考になることが多いですよ。作者様のつたなくて幼くて臭い小説に、わざわざコメントまで残してくれたんです。これを参考に改稿しましょう!」


「お前の言葉が一番傷つくわ! クソ! やってやんよ!」



そこから、男の小説に対する姿勢が目に見えて変わった。


ネットで小説の書き方を検索し、ワナビ達が集まるサイトを周回し、他の作品を読み漁った。

結果、自身の小説に足りないものが、わずかながら見えてきた気がした。


「そうか、なるほど。地の文での説明が長くならないように……。途中で山場も作って……」


男は食事を取るのも忘れ、執筆作業に没頭した。


たまに疲れすぎて寝落ちしてしまうこともあったが、そんなときは決まってバーグが優しく毛布を被せてくるのだった。


「あと少し。……ファイトですよ。作者様」


バーグが男の寝顔に向け、笑顔でそう呟いた。



――そして。




男の小説は徐々にPVが上がり、ランキングにも顔を出すようになった。


【ヒロインが最高に可愛い!】というコメントがおどり、固定客ともいえるファンもつくようになった。

寝食を忘れ執筆に没頭したことにより、男の身体は目に見えてスリムになった。

スナック菓子などの間食もすることが無くなったので、その顔からニキビが消えた。

余分な脂が無くなったせいで、キツイ体臭も無くなった。

ぜい肉に埋もれていた二重まぶたが顔を出し、鼻筋もシュッと通っている。

街を歩けば通りすがりの女性達が、皆彼を見て振り返る。




そう! 小説を書くだけで!


キツイ食事制限や、激しい運動など必要ございません!


小説を書くだけでこの効果!


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