最高の枕
文月イツキ
硬い枕
とてつもなく眠い。
窓から差し込む五月晴れの暖かな日差しが、私の目蓋を重くする。私は仕方なく自分の腕を机の上で組み即席の枕にする。
硬い。
考えるまでもなく、私の不健康極まりない体型が原因で、肉のモチモチフワフワした感触は一切感じられなく、ただただ、骨と皮があるばかりだ。
せっかくの陽気も枕がコレでは宝の持ち腐れだ。こんなのでは安眠を貪ることなど――
*
とてつもなくつまらない。
一限の授業は私が最も嫌いな英語だった、教壇に立つ担当の教師が解読不能な異国の言葉を長々と我々に語り聞かせる。
不毛だ。
これは私の日頃の不勉強が原因だが、こんなのをどれだけ聞かされても私の英語の点数は上がらない。なら隣人を眺めている方がいささか有意義であろう。
ノートを適当に板書するフリをしながら、左の席に目を向けてみる。
そこにはノートの上で気持ちよさそうに眠っている少女の姿があった。
私が目を向ける前には枕が固いと心中ボヤいていただろうけど、最終的には気持ちよさそうに眠ってしまう、彼女はそんな奴だった。
腕が枕だとするなら、陽は差し詰め天然の毛布と言ったところだろう。なら敷布団とマットレスは何になるのだろうか。などとくだらないことを考えていると、終業を告げる音楽がスピーカーから流れてきた。
やはり彼女を眺めていると、授業をただ受けているよりも時の流れが早く感じることができる、嫌いな授業が早く終わるのは結構だが、もう少し彼女の幸せそうな寝顔を見ていたかったと惜しい気持ちにもなる。
――だが。
「授業終わったぞ、ケイ」
隣の席の少女――相原蛍の肩を揺らす、すると小さい吐息と共にゆっくりと上半身を起こし私の方を見る。
「ん? あぁ、おはよ〜、さっちゃん」
ケイが寝ぼけた顔で私の名を呼び、微笑みかけてくれるこの瞬間もまた、とてつもなく幸せなのだ。
最高の枕 文月イツキ @0513toma
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