地球に染まり始めた異世界
俺達3人が、時空渦管理施設のある森林を抜けると、そこには太陽に照らされ、活力に満ちる緑色の草原が広がっていた。
しかし、人が利用する草原であるため、歩道整備はされている。5mほどの幅の砂利道には、馬車のタイヤ跡がついている。
「う……、熱いです。日本は夕方でしたけど、アーロムは昼なんですね。時差ボケも相まって、頭がクラクラしそうです」
ユキは、頭を押さえながら、水晶のように透き通った鳥の群れが飛ぶ、雲一つない空を見上げた。
「こんなに太陽が照ってるから、信じられないと思うがアーロムと日本には時差ないんだぜ」
「ええ? でも、日本は夕方だったと……」
「嘘は言ってねえよ。アーロムは地球と違って、時差と——夜がない」
詳しい理屈は知らないが、アーロムの星の動きは特殊なので、空には常に太陽がある。
天文学者が、研究のために早くアーロムの空に人工衛星を飛ばせとゴネてるとか。
「……あたし、空が雨雲以外で暗くなるなんて……、想像できない」
メイナの反応。これが、アーロム人の回答だ。
俺達は誰もが夜を知っていて、アーロム人は誰一人、夜を知らない。
自分との考え方の違いをぶつけられたユキは、目をぱちぱちとさせて、唖然としていた。
「……パルド、どこに行くの?」
「ゴブリン退治と仕事振られたけれど、どこに縄張り張ってるかわからない。まずは、街のギルドで情報収集だな」
「……うん。わかった」
まず俺達は森林から一番近くにある街——ウルリアに向かうことにした。
ウルリアは、異世界アーロムの中でも、トップクラスに血気盛んな街で、相当数の人が生活している。
街の外には、モンスターも生息しているので、市民の安全のため大きな外壁もある。なので、外から街に入るには1つしかない正門を潜らなければならない。
「あ、あの……ここ、本当に異世界……、なんですよね?」
正門に到着すると、ユキは複雑そうな表情を浮かべる。
そんなユキの顔を見て、メイナはどこか懐かしそうに笑う。
「……パルドも、1年前は同じ反応してたね」
「そうだったな。ユキは、1年前の俺とそっくりかもしれん」
過去を振り返りながら、俺は外壁の正門を見渡した。
ユキの反応の原因——それは、正門を利用する人たちだ。
鉄骨を積んだ2tトラックに、スーツを着た営業回りのサラリーマン。他にも沢山の日本人が出入りしており、異世界らしさの欠片もない。
「24時間、異世界アーロムで、事業を広げようとしてる日本企業の出入りが行われている。正門は広いが、車とかにぶつからないように気をつけろよ」
「は、はい……」
異世界らしくない正門を潜ると、次に見えるのはウルリアの街並みだ。
日本と違い、めったに地震の発生がないウルリアの家はレンガで建てられている。たびたび、異世界らしくない光景を目の当たりにしたが、それでも文化の違いは住民を見れば一目瞭然。
ウルリアの住民の服装は、男女問わず、基本的に2種類だ。宗教の関係で頭にローブを羽織っているか、民族衣装のキルトしかない。
「面白いですね。初めて異世界にきた僕でも、地球人とアーロム人が簡単に区別できます。服装以外にも、皆さん、髪の色が独特です。ピンク、グリーン、パープル……。染料以外ではありえません。同じ人間でも、僕たちとは全く遺伝子が違うのでしょうね……」
ユキは、しばらくウルリアの住民を興味深そうに眺めて、観察をしていると、その1人が綺麗な店舗の前の行列に並び始めた。
凄く繁盛してるが、前来た時は、あそこに店なんて無かったはず。
あそこは、ウルリアで土地を購入した企業がテナントを建てて——ああ、そうだった。
「そういえば、今日がコンビニの開店日か」
「ええ! コンビニ!?」
豆鉄砲を喰らった鳩のように驚いたユキは、信じられない物を見る目で、硬直していた。
記憶から抜け落ちていたが、数か月前に日本一有名なあのコンビニが、異世界の1号店をオープンするって、発表してたな。それがウルリアだったのか。
「……仕事休憩中に行ってみたけど、ほとんど売り切れてた。なんで、並んでるんだろ」
「売り切れることを見越して、地球から商品補充を行ったんだんじゃないか? 準備さえしていれば、コンビニの商品入荷くらい、数時間もあれば済むからな」
「……地球の店って、凄い」
もう何がなんだかわからないと頭をかかえるユキとは違い、メイナは感心したようにうんうんと頷く。
「よく見ると、空には飛行機も飛んでます……。い、いったい……」
「異世界旅行だろうな。空に発生した時空渦を通って、地球から来るんだ。ほら、あの屋台見てみろ。観光客が、店の人とスマホで写真撮ってるだろ」
「ほ、ほんとだ……。しかも、あの店の人、レジを使って会計してます……」
「言いたいことが山々なのはわかるが、そろそろギルドに着くぞ」
「うぅ……、僕が夢見ていた異世界は、いったいどこに……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます