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「――弾いた地面を弾幕に……ふん、考えましたわね」
が、言葉とは裏腹に焦りを微塵も見せない彼女はそのまま横へ飛び、岩つぶての空撃範囲から逃れる。
「まだ『疾風迅雷』の効果が続いてるのか!?」
「熟練度の上昇は、効果の加算をもたらすだけではありませんわ。私の『疾風迅雷』はまだまだ健在です。そちらこそ、拙い石遊びはもう終わりですの?」
「その言葉……後悔させてやる!」
挑発されていると理解してなお攻撃の手は止めない。当たらずとも牽制に使えているならそれで十分だ。あの速度を継続したまま間合いに入らせることだけは絶対に避ける。
「うぉぉオオオオッッ!」
こちらも移動しながら標的を絞らせないように配慮しつつ、光刃によって作り出される岩の散弾を歓談なく浴びせる。土煙が辺りに吹き上がり、膝下をスモークのように煙が舞う。
だが一点の剣戟から扇状に伸びるそのつぶての嵐を、鏡花は恐るべき回避性能で掻い潜る。
その挙動の正確さに、思わず舌を巻く。
おかしい。『疾風迅雷』は速度を上げる分、咄嗟の判断能力には限界がくるはずだ。高速機動中にあそこまで複雑な動きなんて、どうやってもできないはずだ。
「『《鋭化感覚》』――人の思考能力を引き上げる、神経系の向上のスキルですわ。『疾風迅雷』はあくまでも速度だけを上昇させるスキル。だけどそれだけでは、加速した世界に意識が追いつかない。真にこのスキルを有効に運用したいのなら、合わせてこちらも習得することおをおすすめしますわ」
「くそ――ッ」
師匠面をして講釈する彼女に、思わず毒づく。俺の師匠はリズレッドただ一人だ。彼女から継承したスキルに自分が苦しめられているというだけでも腹に据えかねるものがあるというのに、さらにダメ出しなんてされたらたまったものじゃない。
「ほら、どうしました? この程度があなたの本質ですか? それとももっと追い詰めないと、その仮面を取ってはくれませんか?」
「……仮面? 何を言って……?」
意味深に俺へと投げかけらた言葉に眉根を寄せるが、そんあ疑念など挟む間もなく、彼女は向かってくる石の雨を掻い潜り、こちらへの接近を試みてきた。
咄嗟に後ろへ下がると共に、さっきまで足元だった場所の岩場を弾く。
一進一退の攻防が続くなか、周囲が次第にざわめきを強めていくことに気づく。隙を狙われないように注意しながら周りに視線を向けると、
「おいおい、なんだありァ……岩を簡単に吹っ飛ばしてるぞ、アイツ」
「あいつは……ほら、この前ネットの記事で書かれてた奴じゃないか?」
おそらくは召喚者であろう冒険者が、旅路の足を止めて俺たちふたりの戦いを観戦していた。しかもその数は次第に多くなっている。人気のない場所を決闘場に選びはしたが、こんな派手な戦い方をしていれば流石に注目を寄せるのは当然か。しかも先日のメフィアス戦の記事がネット上で出回った影響で、プレイヤー間におけるウィスフェンドの注目度は一気に上がっている。
時間はもう残されてはいない。
これが勝負を分ける戦いであるのなら、必ずこの決闘の先に勝者と敗者が生まれる。この世界において名声は重要だ。一度でもアヤが付けば、周囲の召喚者から向けられる視線や対応などはがらりと変わるだろう。特に『血濡れの姉妹』という大仰な名で活動し、さらにプライドの高い鏡花にとっては、この衆人環視のもとで敗北するなど受け入れられるはずがない。
「――残念、もう俗人が増えてきましたか」
それを裏付けるように鏡花はひとつ舌打ちをして、煩わしそうに周囲の人間を一瞥する。
だが、それで俺は確信が持てた。
彼女も決して余裕があるわけではない。薄々とだが感じ始めているのだ――自分が敗北する可能性があると。俺の剣が、自分を切り裂くだけの鋭さを要していると。
「じゃあ――そろそろ決着を付けようぜ、鏡花!」
「あら、急に威勢が良くなりましたわね。あなたの放つ岩つぶてでは、たとえ私に直撃したとしても深刻なダメージにはなりませんことよ。――だから、」
もはや何度目かもわからぬほど地面を砕き、発射していた岩の雨。彼女はそんな状況にはもう飽いたとでも言いたげに笑みを浮かべると、俺が光刃で地面を削ったと同時に、恐るべき行動に出た。
「なッ!?」
無数の飛び来る石のなかに、鏡花は猛然と特攻したのだ。
「多少のダメージなんて、くだらない些事ですわ」
石の驟雨のなかを意に介さぬとばかりに直進してくる鏡花。当然、その体には無数の石つぶてが直撃し、その数だけ彼女の体に赤光するダメージエフェクトが現出する。
まるで全身に傷を負い、赫い血を流すかのごとく――だがそれでも決して突撃を止めず、眼前の標的の命を穿とうと迫る幽鬼。
艶やかな黒髪と透き通るような白い肌が、いまは逆に恐ろしい怪物を飾る装飾のようにすら見える。
「……まずい……
ずっと撒いていた布石。その準備がまだ整わないうちに、彼女が本気でこちらを獲りに来た。
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