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ぴしゃりと言い放つ彼女の口調に、フランキスカは出かかった言葉を息とともののみこんだ。横にいるバッハルードも同じ表情だ。
現在この街に残っている最大戦力は、まさしくこの場にいるリズレッド、エレファンティネ、フランキスカ、バッハルードの四人だった。
他の兵士長は全て防衛線へと出向しており、援軍が来ることもない。
アミュレはいまだ中央領で治療を続けており、マナやホークは戦場にこそいるものの、彼女たちと比べると歴然たるレベルの差があった。
そんな状況のなかで、さらに二人を抜かして戦おうというのだ。無茶というしか言いようのな配分である。
だがフランキスカは、戦士であることを捨てて領主として身を賭す位にあり、バッハルードもまたギルド支部長としての立場があった。二人の身になにかあれば、それこそ街の混乱は極まるだろう。
口惜しげに場を見渡す彼らを、エレファンティネが淡々と告げた。
「ま、そういうわけですな。お二人はどうぞ後方で、督励に精を出してください」
相変わらず、緊張間のない雰囲気だった。しかしそれは場の空気に流されず、冷静に物事を見るための、彼なりの処世術なのだということを二人はわかっており、リズレッドもまた短い付き合いではあるが理解していた。
「……頼んだぞ」
二人はほぼ同時にそう告げると、手を掲げて一般人を後ろへ誘導した。
ロックイーターはそれを確認すると、眼前に広げられたディナーが逃げるとでもいうように、大きな口をさらに広げて、
『ギィイイイイイイーーーー!』
人間の悲鳴にも似た恐ろしい鳴き声を上げて迫った。
だが次の瞬間、その巨体は鋭い痛みを覚えて強制的に後退させられた。
「お前は少し黙っていろ」
リズレッドだ。
《疾風迅雷》を発動させ、雷光のごとき疾さで地から空へと跳んだリズレッドが、いまにも住人を喰ひ殺さんとするロックイーターに、白剣による先制攻撃をおみまいしたのだ。
『ギュア!?』
あまりに突然のことに、たまらず竜虫がおどけて進撃を停止する。
地にいるフランキスカとバッハルードが、口笛でも吹きそうな顔をしながらその姿を見た。
「おいおい、ありゃなんだ? 《疾風迅雷》か? だがあそこまで疾いのは――」
「どうやら、彼女が用いるそれは、俺たちとは全く異なる次元にあるらしいな」
感心する男二人の眼前で、さらに騎士が舞った。
敵の体躯を蹴り上げて、まるで重力を感じさせない体捌きでロックイーターの体が切り刻まれる。赤黒い鱗がその剣戟にたまらず剥がれ落ち、地へと落下していく。まるで食材でも捌いているかのような手さばきだった。
「あらら、リズレッド殿張り切ってるねえ」
エレファンティネが最高の演舞でも見ているような面持ちでそう告げると、静かにスキルを放った。
「《鋭化感覚》《危機反射》《流動精神》《中・流動精神》」
いくつもの自己付与型のスキルが発動し、その都度、彼の身体に変化が起こった。感覚は吹きすさぶ風の流れすら事細かに感知できるほど研ぎ澄まされ、それにより取得した危機的状況を即座対応するための反射神経を増加させた。そして鋭化した感覚により過敏となった神経が、痛みに対してもろくなる欠点を流動精神により和らげる。エレファンティネが激戦を始める前に行う、一種のルーティーンとも呼べる動作だ。
城塞都市式軍用剣を構えると、体制を低くし、視線を真っ直ぐにロックイーターへ向けると、地を蹴った。
ぐんぐんと迫る彼に危機感を覚えた竜蟲が、尻尾を持ち上げて迎撃を行うが、振り下ろした尻尾は彼を穿つことなくしたたかに地を叩きつけるだけだった。
地鳴りが響き、暴動と家事でもろくなった家屋がぎしぎしと悲鳴を上げる。だがエレファンティネを止めることはできなかった。何度攻撃しようと、その攻撃は虚しく宙を舞うだけで、まるで捉えることができない。
「こんなことを行ったら怒られそうだけど、僕はあまり戦いが好きじゃなくてね。だからいつもこうやって逃げて隠れて宥めすかして――そして」
巨大な尻尾の剛撃をかわしながらエレファンティネは己の剣が届く範囲まで接近すると、リムルガンドから採取される玉鋼から作られた軍剣が流れるように走った。
『ギュォォオ!?』
「そして、この街に仇なす敵を斬ってきたのさ」
リズレッドの攻撃を雷撃のごとき疾さと鋭さと表現するなら、彼の攻撃は流水のごとき滑らかさだった。斬るのではなく縫うと言えるような剣さばきが、竜蟲の鱗をいともたやすく剥がす。
戦況は圧倒的にリズレッドたちが有利だった。第二形態にさえならなければ、本来なら彼女一人でも倒すことが可能なレベルだ。もっとも、街への被害を考えれば、エレファンティネと組むのが最適解ではあるのだが。
後ろに控える義勇軍が、二人の勇姿に勝利を見出だし始めたとき、それは来た。
「……あらあら、随分手酷くやられてるわねぇロックイーター」
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