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彼の判断は決して間違えてはいなかった。だがそれは、都市が平時の状態であればの話だった。いまの混乱しきったウィスフェンドで最適な配置を行い、的確な行動を選択するのは難しかった。しかしそれでも、それ以外に生き残る術がないのなら、できる限りのことを行うしかない。
思案した後、残留兵リストを持ってきた兵士を一瞥すると、フランキスカは告げた。
「女と子供は分散して軍事拠点に退避させておけ」
「は。非戦闘員の領民はどういたしますか? 彼らも武器を持たせれば、戦力になるかと」
「限りのある物資を素人に渡してもどうしようもあるまい。それに、戦いに慣れていない者が戦場に出れば、恐怖で動くこともできまいよ」
マナはそれを聞くと、妙案が浮かんだようにぴくりと反応した。
「あっ、じゃあさ、召喚者を配置するってのはどう? 私たちなら恐怖で動けなくなることもないし、緊急クエストって名目でギルドから募集すれば、それなりに人が集まると思うんだよね」
「うむ……だが、領民と召喚者はいま、最悪の嫌悪状態にある。この二つをまとめて混成部隊を作るのは、いささか問題が多いと思うが……」
「でも頭数が足りないんでしょ?」
「まあ、な」
どちらかの長所を取れば、どちらかの短所が伸びてしまう。一長一短の選択に、二人は腕を唸った。そこへ、リズレッドがおずおずと告げた。
「私は、召喚者を決戦に投入すべきだと思う」
「ふむ、その根拠は?」
「まず召喚者には、曲がりなりにも防衛線で共闘している実績がある。力量に対する不満はあるようだが、それでも魔王軍の討伐に従事してくれているという事実は代わりない。この点を見ても、きちんとした褒賞さえ出せば、彼らもこちらの指示に従ってくれることがわかる。そして領民側の問題だが、こちらはそもそも考え違いだ。召喚者と手を組むのは領民ではなく、兵士なのだからな。普通の一般人ならいざ知らず、私滅奉公を訓練されたウィスフェンド兵ならば、私怨で召喚者とトラブルを起こすことは少ないだろう」
「むう……なるほど……」
「万全の状態で戦いに臨めるなら別の方法もあったかもしれないが、足場をまんまと崩されてしまったいま、使える物は使うしかないと私は思う」
フランキスカは腕を組みながら目を細めて虚空を見た。そのなにもない空間に、戦いの絵図を想像し、頭のなかでシミュレートをしているようだった。果たして彼は、ふう、と一つ息を吐き出すと、
「これは全く恐れ入った。確かに嬢ちゃんの言う通りだ。わかった、すぐにバッハルードに緊急クエストの手配をさせよう」
大げさな手振りで天を仰ぐと、降参するように言った。
「それで、バッハルード殿はいまどこに?」
「ギルドだ。この騒ぎで、あっちも相当仕事が立て込んでるからな。受付嬢のロズも、騒動によって起こった傷害事件の犯人探しや、盗難品奪還の相談にきた依頼主の対応で寝ずの作業だそうだ。全く、よく働いてくれる」
「そうだったのか……ではその伝言、私が受け持とう。バッハルード殿には、他にもやるべき職務があるのだろう?」
「それは……」
「? なんだ、まさかまだ私をここで監禁しておくつもりか?」
「いや、そうではない。お前への疑惑は晴れたし、もはやラビのパートナーを捕らえたからと言って、どうにかなる状況でもないからな」
「ではなぜだ?」
ソファに座る大男が先ほどまでの泰然とした様子から一点し、しどろもどろどとなった。マナはそれを見てなにかを察し、顎に手を乗せながら、冗談交じりに告げた。
「ははーん、さてはフランキスカさん、サボろうとしてたでしょ?」
途端、肩が大きく揺れた。
「な、なにをバカな! 街が大変なときに領主のオレがそんなことをするはずがないだろう! ……ただちょっと、ウェイトの軽い仕事をして気分転換しようとしただけだ」
最後のほうは明らかに声が小さくなり、やましい気持ちがあったことが明白だった。向かい合う女二人は半目でそれを睨みつけ、鍛え抜かれた体躯が、肩身を狭くしてソファの上で縮こまった。
「……まあ、フランキスカ殿の気持ちもわからなくはない。貴殿も昨夜からずっと働きづめなのだ、少しくらいの息抜きもしたいだろう。だが今日は、いつ何が起こるかわからない。領主ならば当然、ここに残るのが当然だろう。息抜きだって、ここでも行えるはずだ」
「……そ、そうだな。ううむ、ならば仕方あるまい。だが外はいまだに守旧派に煽られた領民が、召喚者排除の運動で躍起になっている。くれぐれも気をつけるんだぞ。できればそのリングは、あまり人目につけないほうが良いだろう。グローブを貸そうか?」
「……いや、遠慮しておこう。私の顔はすでにここの者たちに知れ渡っているからな。隠そうが隠すまいが、結果は同じだ」
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