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 それでホークは、ついに観念したように目をつむって首を縦に振った。というよりも、最初から自分も異論などなかったのだと言いたげだった。ただ公務上、仕方なく進言しただけであるという感情が、浮かんだ笑みから見て取れた。

 彼もまたロックイーターとの共闘により、リズレッドの力を信頼し、恩義を感じていたのだ。


「いやあ、やっぱりホーク君の言う通り、戦線に赴く前にリズレッド殿と会って正解だったね」


 やれやれといった感じで呟く彼に対し、リズレッドが首を傾げた。


「なに? どういうことだ?」

「俺にあなたの存在を教えてくれたのは、なにを隠そうホーク君でね。ロックイーター戦での君の活躍が、よほど目に焼き付いたらしい」


 そう告げるや、傍にいる当の本人が盛大にうろたえた。礼節を重んじてびしっと伸びていた姿勢が、途端にぎくしゃくとぎこちなく崩れる。それどころか、「た、隊長!」という、情けない声のおまけまで付いた。


「そうだったのか……あの戦いではあまり良い所を見せられなかったと思っていたが、そう言って貰えるとなにやら救われるな。ありがとう、ホーク殿」


 リズレッドが振り返って礼を述べると、ついに彼は声をうわずらせて叫んだ。


「い、いえ! 一人の武人として、尊敬の念を示しただけですっ!!」

「そ、そうか?」


 まるで心臓が飛び上がるような思いを彼は生まれて初めて味わった。ウィスフェンドの守り人として剣を振るい続けてきた純朴な青年にとって、月光に映えるリズレッドは、まるでこの世のものではないほどに美しく見えた。生まれて初めて異性に対して湧き上がる感情に、彼女から好意を寄せられる人がいるとすれば、それはなんて幸せなことなのだろうと心の底から思った。


 部下のそんな幼い恋慕をよそに、エレファンティネは街への帰還に進路を取る。

 こちらはこちらで、初めて会ったときと変わらぬ蹌踉そうろうさだった。そういった感情など、すでにどこかで落として無くしてしまったのだという感じだった。

 そんな彼にアミュレが近寄ると、神妙な声で問いかけた。


「一つ、わからないことがあります」

「なんだい?」

「エレファンティネ様は、どうして私たちの居場所がわかったんですか? この広いリムルガンドで、しかも夜に、私たちの居場所を的確に見つけられるなんて、そんなスキル聞いたこともありません」

「様はつけなくていいよ。子供にかしこまった敬称をつけられるのは苦手でね。そして、答えは簡単さ。この広いリムルガンドで、いまこうやってほっつき歩いている三人組は、君たちくらいなものってだけでね」

「え?」

「だってそうだろ? なんたってここはもう最前線の一歩手前だ。そんなところをうろつくのは、命が惜しくない召喚者くらいなものだ。それも、俺たちと契約していない……ええと、ノーバディというんだっけ? とにかく、そういった連中だ。つまり、ほとんどがソロか、もしくは三人よりもっと多くのパーティを組んで動いてる。必然、三人で固まって動く気配を察知して当たりをつけていけば、探し出すのはそう難しいことじゃないよ」

「……とは言っても、三人組のノーバディだって、それなりにいると思いますけど」

「うん、確かに君の言う通り。でもそういう奴らと君たちとでは、行動パターンに違いがあるんだ。他の召喚者はレベル上げが主な目的でね、敵を探すために、せわしなくうろちょろと動き回る。それに対して――」


 アミュレは、はっとなって、つい口を挟んだ。


「そうか! 私たちは調査のために、動きが一定時間止まる!」


 エレファンティネはゆっくりと頷いた。まるで姪っ子に勉強を教えて、うまく解けたことを賞賛するような振る舞いだった。


「君たちがどういった行動を取っているかは、事前に調査して把握していたからね。なぜ一定時間同じところに留まっているのかは知らないが、いつ敵軍と遭遇するかわからない状況で、そんな目立った行動を取れば、どんなにノーバディがいてもすぐにわかるさ」


 アミュレは目を見張った。状況を的確に判断して自分たちを探しだしたことに対する感心さもあったが、それ以上に、


『こいつ、危険だよ』


 頭の裏からそんな声が響き、思わず額を抑えた。

 自分よりも冷静に周りを判断する者がいた場合、最初から敵対しないか、もしくは排除する。

 少女の生まれ育った死の街で教え込まれた教訓が、もう一人の自分となって助言してきた。


「どうか?」


 エレファンティネが、急に頭を抑えた彼女を気遣って声をかけた。

 アミュレは慌てて、精一杯の笑顔を作った。


「いえ、大丈夫です! お気遣いありがとうございます! それにしても、私たちを見つけた慧眼もですが、それを可能にした索敵スキルも凄いものがありますね!」

「隠密と索敵は仕事上よく使うもんでね。まあ、他の隊長たちからは気持ち悪がられてるし、さっきその片方は君に見破られちゃったけど」

「そんなことないですよ! 私が索敵できたのは、隣にホークさんがいたからです。エレファンティネさんの気配は、本当に微弱にしか感じられませんでした」

「そうかい? そう言ってくれると助かるよ。さすがにお嬢ちゃんくらいの歳の子に見破られたのは、結構ショックだったからね」

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