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 一同が息を呑む。俺よりもレベルが上のホークですら、アミュレからのサポートを受けてなんとか耐え忍んだ奴の攻撃を、今度はひとりで受ける必要があった。リズレッドはなにか物申したい顔が浮かべたが、この状況ではそれ以外に方法はないと悟ったのか、押し黙って肯定の態度を示した。だがひとつだけ、意味深な言葉を告げた。


「一つだけ聞きたい。その……君が祈りを捧げた、クリスタルは無事か?」

「クリスタル? ああ、無事だと思うけど……」

「……そうか、それなら良い。では行こう」


 そう言って俺の隣に立つ彼女。


「いや、待ってくれ。リズレッドには兵士を担いで一緒にここから逃げてほしい。いくらホークでも兵士二人を担ぐのは無理だ」

「断る。私は君が大事だ。命に代えてでも守ってみせる。それにそこに寝る兵士なら、まだ自力で歩行することは可能だろう」

「……本当か、ホーク?」


 俺にはボロボロになって横たわっているようにしか見えないのだが。


「……足は折れてはいないし、肺も無事だ。安静にしなければいけない状況だが、この切迫した状況ではそうも言ってられないだろうな」

「……すまん、無理を言う」

「気にするな。民を守るために俺たちがいるんだ。足手まといにになるくらいなら、いくらでも体に鞭を打つさ」


 そう言って豪胆に笑うホーク。本当にこの戦場で出会った仲間が彼で良かったと心から思いながら、俺に対して武運を祈る兵士に力強くうなずくと、全力で仲間から離れるために走った。


「ラビさん! 必ず、必ずウィスフェンドでまた会いましょう! 約束ですからね!!」


 アミュレが叫んだ。それに手振りで応える。

 ここでホークも、アミュレも死なせるようなことがあってはならない。一人の素晴らしい兵士をこんなところで散らせる訳にはいかないし、少女の救済の旅を、奴に終わらせる訳にはいかない。だから走った。できるだけ遠くに。彼女たちに被害が出ない距離まで。


 だが、決して俺はひとりではなかった。心強いことに、後方にはぴったりくっつくようにリズレッドが同行してくれている。もはやバッハルードとの約束を果たすことに拘っている場合ではなかった。彼女にも助力を乞い、いかなる手を使ってでも窮地を脱するしかなかった。しかし当のリズレッドは狼狽えた様子で、必死に俺に何かを伝えようとしていた。


「ラビ、簡単に死のうだなんて考えるなよ。無限の命とて、今は安全とは言えないかもしれない」

「え、それってどういう……」


 先ほどから含みのある言葉を発する彼女に疑問を投げかけようとしたとき、地響きが起こった。ノートンへの攻撃のあと、地中に潜っていたロックイーターが、再び行動を開始したのだ。そう理解したとき、前方の土が勢いよく上空に吹き飛んだ。その中心から、間欠泉のように天へ昇る巨躯が姿を表す。


『ギョォォオオオオオオオオオオオオ!!』


 地中で傷を回復させていたのか、奴は罪滅ボシのダメージを完全には回復さえてはいないものの、直撃直後よりも随分動きに余裕があるように感じられた。奴は顔をこちら向けると、ぞっとする鳴き声を発しながら威嚇を行ってきた。そしてそのまま高く持ち上げられた尻尾を力任せに地面に打ち付けてくる。まるで天から振り下ろされた巨大な鞭のようだった。俺たちは寸前のところでそれを避ける。だが息つく暇を与える気は、どうやら向こうにはないようだった。今度は矢継ぎ早に体をうねらせ、巨体で擦り潰そうと滅茶苦茶に暴れ始めた。


『ギィィィイイイイイイイイイ!!』


 歯を食いしばり、憎悪を露わにする竜蟲。どうやら先ほどの罪滅ボシで、俺への怒りに湧いているようだ。その証拠に巨躯から繰り出される攻撃は、その全てがリズレッドではなくこちらに向いている。こいつは強く、厄介な敵ではあるが、知能が通常のモンスター程度しかないのが救いだった。無限の命を与えられた俺に攻撃が集中してくれれば、それだけ他の仲間の安全が確保される。誰も死なずにこの状況を切り抜けられる。窮地の中に唯一の光明が見え始めたとき、新たな炸裂音が遥か先で響いた。


『ギィィィアアアアアアアアア!!』


 人の悲鳴のような鳴き声を上げ、突如大地から現れたのは二体目の竜蟲だった。

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