かんないけんがくと、うでずもう!

 俺は、何だか気まずくなり、ゆっくりとスフィアを後退させる。

 《接近中。このままでは、ロックオンされますが、いかがなさいますか?》

 「……いや、普通に後退しよう。敵じゃないし……。」

 その際、盾は言ってくるものの。

 ロックオンされたらどうとかと、何だか不穏な空気を漂わせた。

 相手は敵じゃないと、コマンドは言わないことにする。

 「……ええと。攻撃してきたら、どうするつもり?」

 ただ、盾はどう考えているかは、気になる。聞いてみる。

 《はい。手始めにスフィアを介してシールドバッシュを行い、その次に、相手にショックを与え、怯ませます。怯まない場合は、レーザーを照射、対象を消滅させるまで使います。》

 「……。」 

 淡々とした口調で、盾は答えた。

 その言葉たるや、正直物騒過ぎて、聞くんじゃなかったと後悔する。

 いわゆる防衛に能力を全振りしているんじゃないか、そう脳裏にて思う。

 「……実行しなくてよかったよ。あと、マフィンは敵じゃない。このまま、注視し続けて。」

 《了解しました。》

 そう言い、俺はマフィンたちの動きを注目することにする。

 盾も、素直に聞いてくれた。  

 マフィンは、怪しげなスフィアだと、じりじり歩を進めて行き。

 また、アビーは面白いもの見たさで、後ろからついてきていた。

 《何々~!!》

 《……。》

 アビーは相変わらず興味津々に見ていて。

 マフィンは、訝し気な表情湛えながら、徐々に距離を詰める。

 距離を縮めたうえで、だが、手があてがわれた場所は違う。

 「!」

 そこは、俺がいる部屋のノブだった。

 《ちょっと……!》

 「ちょっと……!」

 「……あ、ごめん。驚かせた?」

 扉が開かれたなら、画面の声と、現実のマフィンの声が重なり合って、響き。

 つい俺は、とぼけたような感じで言ってしまう。

 マフィンは、怪訝そうな顔をしていたが。

 部屋に立ち入り、俺が見ていた場所を見て、今度は目を丸くする。

 「!!大和ちゃん?……っ?!」

 マフィンの後から、アビーが顔を覗かせたなら。

 俺の見せる光景に、興味深々とした顔は、なおさらその色に染まり。

 言葉は、途端区切られて。

 「すっごーい!!!」

 お得意の言葉を述べるに至る。

 「……す、すっごーい……。」

 マフィンはマフィンで、目を丸くしたまま。 

 アビーの言った言葉を真似て、口にする。

 「なにこれなにこれ~!!!!大和ちゃん、どうしたの~!!」

 当然、アビーがその表情なら、俺が何をしたのか聞いてきて。 

 「!ああこれ?ええとね、盾に聞いたら、こんなこともできるって。だから、やってみたんだ。」

 俺は嬉しそうに答えた。

 「……私、夢でも見てるんじゃないかしら?」

 一方のマフィンは、まだ信じれないでいる。

 浮ついた言葉を述べながら、おろおろしていた。

 「ふぇ?マフィンちゃん、寝ぼけているの?じゃあ、起こしてあげる!」

 「?!い、いや、アビー。多分、違う意味だと……。」 

 真に受けたか、アビーは聞いて。

 マフィンを見るなら、起こしてあげると、親切にも言ってくる。

 しかし、真に受け過ぎだと俺は言ったが、遅い。

 もう、アビーは動き、マフィンの前に出ては、笑顔を浮かべて。

 徐に、その両頬を握った。

 「みにゃ?!」

 「たてたてよこよこまぁるかいてぴょん!ほっぺにいっぱいゆめいっぱい!」

 「……。」

 「みにゃぁ?!い、痛い痛い!!!」

 何をするかと、大体予想はついていたが。

 真に受けたアビーがすることには、眠気覚ましにとばかり。

 歌いながらマフィンの両頬を縦横無尽に引っ張り回し。

 最後、赤く腫れた頬を突っつくことで。

 やられた本人は、たまったものじゃなく、涙目に、思わず声を上げてしまう。

 アビーは歌いきって、手を離したなら。

 今度は反撃とばかりに、マフィンが素早くアビーの頬を掴んできて。 

 「うにゃぁ?!」

 「痛いじゃない!!!やり過ぎよ!!!!」

 反撃に、マフィンはアビーの頬をつねった。

 「?!な、なに……?」

 「!」

 俺は、そんな騒動をただ遠目で見ているしかなく。

 また、その一騒動は、やがてこの部屋に寝ていた、シンをも起こす。

 シンは、起きたなら、俺が見せている投影に、マフィン同様目を丸くして。

 さらに続くことには、顔を明るく、興味津々にして。

 「す、すっごーい!」

 アビーに教わった通りに、目を輝かせて、興奮に両腕を上げて。

 セリフを述べてきた。

 「……。」

 何もコメントできないでいるが。

 だが、シンが開口一番に言ってきたおかげか騒動が鎮まり。

 アビーもマフィンも、ピタリと止まった。

 「う……。起こしちゃったかしら……。ご、ごめんなさい。」

 マフィンは恥ずかしさに顔を赤く染めながらも、言い。

 申し訳なさそうに、耳を垂れさせて。 

 「うわぁ!ご、ごめんね!起こしちゃった?」

 アビーもまた、同じように申し訳なさそうに項垂れては。

 けれどシンは、顔を横に振り、そうじゃないと。

 「それよりも、大和お兄ちゃん!どうやったの?」

 「!そうだわ。」 

 それよりも驚きなのは。

 俺がどうやって、このように投影しているのか、ということで。

 シンが言って、場がそれにより俺へと注目になっていく。

 マフィンもアビーも、どうやったのか聞きたいといった具合。

 「!ああそうだね。……これね、さっきマフィンに聞いたことの続きになるんだけど、盾にも聞いてみたんだ。そうしたら、できるってことで。」

 言われて俺は気付き、簡単に説明する。

 「……その盾、ほんと便利ね。名前、十徳盾や、なんとかアーミーシールドとか、付けてあげたら?」

 「……どうだろう。」

 俺の説明聞いたなら、マフィンは状況に呆れたようなコメント紡ぐ。

 俺は、どうだろうかと首を傾げて。

 何でもできちゃう魔法の盾……ねぇ……。そう心の中で思ってしまう。 

 「ねねね!それよりも!これだったら、ここにいながら、見れちゃうの?見れちゃうんだよね!」

 「!あ、うん。」

 アビーはそれよりも、映像の方が気になっていて。

 俺に何やら急かすような感じに言ってくる。

 仕方なしに、色々と動かして見せた。

 映像は、その通りに動き。

 「ねぇ!」

 「!な、何?アビーお姉ちゃん。」

 アビーは、俺が動かす傍ら、シンに何か言いたそう。

 「これならシンちゃん!一緒に見れるね!ねぇ、見よ?」

 「!」

 言うことには、一緒に見ようとのことで。

 「うん!見る!」

 言われたシンは、元気そうに頷いた。

 「お!じゃあ、あたしも!」

 「!」

 シンが元気そうに頷いたなら、賑やかさにエルザおばさんも部屋に入って。

 俺がしているのを目にして、こちらも興味津々に。

 「エルザおばさま!」

 「エルザおばさん!いいよ!」

 気付いたアビーやマフィンも注目。

 歓迎しては、俺がいる部屋は、一つの映画館のようなものに。

 いや、違うな。

 俺は動かすことから、ある意味、ドライバー?かな。

 そんな様相にて、俺はスフィアを動かし、艦内見学を始めた。

 

 ルートは、ソードから教えられたルートを辿るような物だが。

 先も言ったが、体を動かすよりも、狭い艦内の移動は楽だ。

 狭くて急な階段も元々浮遊しているスフィアなら。

 上り下りは単なるスフィアの上下移動で十分事足りる。

 「あ。」

 ソードと一緒に通ったルート上、ちょっとした空きスペース。

 そう、小物が置いてあり、時には物販もできそうなエリアにて。

 俺は、誰かの姿を見付ける。

 隊員さんの誰かだけれども、言った通り、サボっている様子。

 「……。」 

 スフィアの浮遊音で起こさないか心配だけれども。

 ……日常使用でも気付いているが、微かなために聞こえないでいる。

 そこに安心して、俺は先に進んだ。

 次に進んだのは、格納庫。

 先ほどとは違い、戦闘機が何機かいなくなっている。

 何だか、ソードが呼ばれていたことと関係することなのかな。

 そうして広くなった格納庫内では、小さいながらテーブルが置かれ。 

 その上に隊員さんたちが二人ほど、腕を組んで、力を込め合っている光景がある。

 腕相撲だ。

 また、周囲にはギャラリーがあり、それぞれ応援していた。

 「!」

 「あ……。あんた……。」

 そんな中、こちらも興味津々かと。

 見覚えある姿が現れ、俺とエルザおばさんは声を出す。レオおじさんだ。

 何より、エルザおばさんは、何が始まるか予見していて、頭を抱える始末。

 何を予見したか、まだ分からないが、見て見ようと思う。

 レオおじさんは、そんな集団に歩み寄ると。

 楽しそうだから、自分も参加させてくれないかと、言っている。

 言われた隊員さんたちは、最初躊躇ってもいたが。

 だが、ウィザード一行であるとのこともあって、次第に興味を持ち。

 ならばと、レオおじさんを、その腕相撲の闘技場に誘った。

 誘われてレオおじさんは、腕っぷしを見せてくる。

 剥き出しになる二の腕が、力込めたなら。

 血管を浮かび上がらせ、筋肉が膨張し、腕がさらに太くなった。

 ある種威圧である。見せつけて、レオおじさんは大笑いを見せた。

 「はぁぁぁ。あんなバカ旦那持ったのが間違いだったわ。……恥ずかしいったらありゃしない。ケガしても知らないよ、あたしゃ。」

 「……。」

  変に格好つけるレオおじさんに、エルザおばさんは呆れて。

 大きく溜息をついてしまう。俺は、苦笑しか出せず。

 視線を戻したなら、対戦相手の登場。

 こちらは、海軍仕込みと言われてもおかしくないほど、鍛え抜かれた肉体で。

 おまけに、レオおじさんと同じく、二の腕を見せたなら、血管を浮かび上がらせ筋肉を膨張させる。

 太さは、引けを取らないほど。いかにも海の上で鍛え抜かれた人だ。

 同じように笑みを浮かべて。

 その笑みは、歴戦を潜り抜けたであろう人間が見せる。

 威圧感もあり、強さも感じさせるもの。 

 両者向き合ったら、その小さなテーブルにつき、片腕を出し合い、組んだ。

 それは少しの時だが、緊張と静寂を呼び。

 ギャラリーも、その一瞬だけは押し黙る。 

 《レディ!ファイッ!》

 レフェリーを買って出た人が、やがて静寂に一石を投じる。 

 掛け声を皮切りに、レオおじさんと相手は、一斉に力を込めだした。

 凄まじい力のぶつかり合いが生んだか、筋肉の軋む音も響き渡ってきて。

 相当な力だろう。

 《?!うおぁ?!》

 《なっ?!》

 拮抗していたが。

 耐えきれなくなり、テーブルが凄まじい音を立てて、崩壊してしまった。

 《ドロー!》

 レフェリーが、結果を述べた。

 ……さて、その結果聞いた両者は、睨み合うような雰囲気を醸したのち。

 にんまりと笑みを浮かべて、それぞれの肩をポンポンと叩き合った。

 男同士の戦いに、満足したか。

 両者とも、やがて歓喜交じりの大笑いを浮かべるのだった。

 「……はぁぁ……。通じ合ってる。なあ、あたしゃ思うに、二人とも何だか、頭悪いんじゃなかろうかねぇ……。」

 「……あはは……。」

 そんな二人の対決見届けたエルザおばさんは、呆れに呆れ、頭を抱えて言う。

 俺は、苦笑しかできない。

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