ふるさとがあぶないの。
そのまま揺り動かされ、視界はがくがく揺れ、混乱。
それもあるが、興奮のあまりに、言っていることが、たどたどしく。
理解できないこともあって、余計に。
「あ、あわわ!ちょ、ちょっと落ち着きなさい!」
「?!うわぁ!!」
「!……っほ。」
揺さぶられる俺だが、マフィンが引きはがして。俺は安堵する。
引きはがされても、だが、子どもはなお、俺を求めて。
マフィンの腕の中で、もがいている。
「うー!うぅー!!」
唸りもあり、……興奮からか、どうも話をしてくれる状態ではない。
「……。」
俺も俺で、自身の驚愕を沈めて。その上で、そっとその子どもに向き直り。
「?!」
子どもの頭に、手を添え撫でる。
子どもは、突然のそれに、目を丸くして。
そうしたなら、興奮も、幾分か低減してくる。
「……ウィザード……。その……。」
「落ち着いた?」
「……。」
ならばと、俺は子どもにそっと、言ってやり。
すると、子どもは次第に落ち付いてきた。こっくりと頷いて、その意思を示す。
ゆったりと、向き直っては、落ち着いたように話そうとして。
「……。」
悟った俺は、聞き入るために、座りながらも、向き直る。
他、マフィンもアビーもそうだ。
俺たちが、そういう風に、聞き入る姿勢を取ったというタイミングで。
子どもはゆっくりと話しだす。
「……僕……ウィザードに助けてほしいの……。」
話し出すことには、いきなり、助けてほしいということで。
「……それは、また……。」
「……どうして?何かあったの?」
最初に、そのように来たため、被ることになったが。
マフィンと共に、頼みを聞く前に、理由を問う。
「……ええとね……。」
たどたどしいながらも、説明を始める。
「……王国が、襲われてて……。それで、皆離れ離れになって。そしたら、僕のスフィアから、バスーおじさんの声が聞こえて、ウィザードを探せって。そして救ってほしいって……。」
「……。」
「……。」
「?」
子どもらしい、たどたどしい説明。
そのために、聞いていて、マフィンと俺は、分からないという表情をする。
アビーは露骨、首を傾げていた。
「……ええと……。ええと……?」
伝わったか?
そんな不安が子どもから読み取れる。まだ、言っていないが、その通りで。
「……ごめんなさい。よく分からないわ。もう少し、具体的に、そうね、忘れていたわ、私たち、あなたのこと、よく知らないの。話途中で悪いけれど、まず自己紹介から、始めない?」
「!!」
「……そうだね。」
代表として、マフィンが出て。
分からないその理由を、かいつまんで言う。
そうとも、俺は、俺たちは、例の、この子どものことをよく知らない。
まずは、背景といい色々と、聞かなくてはならない。
子どもは、はっとして、申し訳なさそうな顔をする。
「……!あのね、私たちはあなたを責めているんじゃないのよ。まずは、何があったのか、知るためにも、背景とか、詳しく教えてくれないかしら?大丈夫、私たちは、あなたに酷いことしたりしないわ。」
「!」
それが、責められていると勘違いさせている。そう悟ったマフィンは、諭すように言う。
子どもは、また、はっとなるも、申し訳ない表情ながら、たどたどしく語る。
「ご、ごめんなさい。つい……。ええと、僕、シンと言います。ライオンの王国、リオンキングダムから来ました。」
「……へぇ。」
「なるほど。」
最初に、子ども自身の名前、シンという名前が分かり、次に、出身地も。
俺とマフィン共に、頷いて。
聞き入り、理解してくれていると思うと、例の子ども、いいや、シンは、続けるようで。
「その……リオンキングダム、僕の故郷がね、ある日、帝国っていう人たちに攻撃されたんだ……。」
「……。」
「……今まではね、僕たち、奴隷みたいな扱いだったけど、それでも、平和に暮らしていたんだ……。でも、ある時、突然、帝国が攻撃してきて、僕たち皆を襲って、追い出して……。今、……バラバラに……。う、うぅ……。」
「!」
続くことには、リオンキングダムの内情で。
大まかには、耳にしていたが、それほどとは。
が、それ以上に、よほど、怖い思いをしたのだろう。
途中から、涙声、かつ、涙目になり。
俺は気付いて、慰めたりとか、落ち着かせたりしたく、手を伸ばす。
けれど、シンは、頭を振り、その先を紡ぐみたいで。勇気だし、その先を。
「……と、父さんが、皆の盾になって、守って。ぼ、僕は、ただ見ていることしかできないし、足を踏み外して、谷に。それで、流されてしまって。気が付いたら、ここにいたの。……うぅ……。」
やはり辛いか。
先を紡いだが、辛そうで。涙ぐむ感じさえあって。
「……そう。それは辛かったわね。よく、ここまで無事でこれたわ。……もしかしたら、スフィアの導きかもしれないわ。」
そんなシンを、マフィンは慰めてあげる。
頭を撫で、シンの持つスフィアによる、幸運であったとも加えて。
「……。」
シンは、だが、涙ぐむだけではない。顔を上げたなら、俺を見据えて。
「!」
抱き着いてきた。
「お願い!!ウィザード!!皆を、助けて!!!」
「?!」
その上で、願い事を言ってくる。
先の、慌てふためきながら抱き着いてきた状況と、全く同じだ。
「……ま、待って。急に言われても、すぐできるもんじゃない!な、ちょっと落ち着こう。冷静に考えよう。」
もちろん俺も俺で、成されるがまま、というわけにもいかない。
まず、情報の整理が必要だ。
俺は、俺で、シンを引き離し、落ち着かせようと宥める。
「話は、まあ分かった。」
俺が話し始めることに、とりあえず、話は分かったと。
実際、見たわけじゃないし、体験したわけじゃないが。
幼い子どもが、これほどひっ迫しているのだ、相当なことがあったに違いない。
「……待ってほしい。いくら何でも、それだけじゃ、俺も動けない。」
そうであっても、迂闊に動くわけにもいかない。
……前科がある。
そう、無茶振りもいいことをして、マフィンに叱られたことがあるんだ。
丁度、シンと同じぐらいの子どもが、自分の母親の帰還を願って、スフィアを集めている事態に遭遇し、最初、帝国の基地に攻め入ったが、いなかった。
ならばどこだったかといえば、帝国内だった。
連れ戻すなんて、無謀にも言ったことがある。
恥ずかしながら、ウィザードと名乗ったのも、そこで。
何せ、連れ戻すとは、帝国と争うこと同じ。
迂闊にもほどがある発言をしてしまった。まあ、そんな無謀が、時に道を切り開くきっかけになったし、結果としては、連れ戻せた。
真の、英雄とも称されもした。
……今思ったら、なかなか無謀で。
流石に何度もその無謀をするのも、気が引ける。
「……うぅ……。」
子どもは、聞いて、何だか絶望したみたいな顔をする。
……少し、言い放つような発言だったかな?心配になってくる。
「!」
マフィンが俺の肩を優しく叩いてくる。
「……大和、あなたも少しは成長したようね。」
「!あ、ありがとう……?」
何事かと見たら、褒めてくれた。
褒めてくれたことに、頭を下げるものの、何だかしっくりこなくて。
首を傾げてしまう。
「……その、ええと、紹介が遅れたけれど、私はマフィン。それと、あなたがさっき抱き着いたお兄さんは、大和。一応、ウィザードと呼ばれているわ。それから、そこにいる、赤茶色の髪の子が、アビー。」
「!あ、うん。よろしく。」
「!よろしくね!」
褒めた後には、何か話があるという感じではあったが、その前に、自分たちが何者であるかを、告げる。
自己紹介、そういえばやってない。
マフィンが代わりに自己紹介をしてくれたので、気付き俺は頷き挨拶を。
アビーは手を振って、挨拶をした。
「うんうん。で、率直に言うけど、いきなり言われても、難しいわ。そこの、お兄さんが、そうだったように、迂闊にすると、それこそケガだけで済めばいいけど、命を落としかけないわ。それじゃ、だめでしょ?」
マフィンは、それから諭すように言ってくる。
シンは、少し、不満そうだ。
満足のいく回答じゃない。
彼にとってみれば、助けに向かうことが、欲しい回答で。
そのような様子、マフィンもまた見通している。
根気強く、諭すつもりだ。
屈んで、子どもと同じ目線になっては、さらに紡ぐ。
「いい?私はね、まだ長じゃないけれど、いずれはこの村の長になるの。だから、村に住む人が、迂闊にやって、ケガでも、ううん、命を落とすなんて、見ていられないし、あわせちゃいけないと思っているの。確かに、あなたたちが危険な目にあっている、というのは分かっているの。助けに行きたいわ。でも、それ以前に、向かわせる以上、危険があるの。そのためにも、ちゃんと準備したりしないといけないのよ。……そこは、ごめんなさい。」
「……うぅ。分かった。」
諭す言葉は長く。
シンは理解できたか分からないが、諭されて頷く。
「……それでもね、私はお礼を言いたいわ。」
マフィンは続けて、今度はお礼をまず述べる。
「その、窮状を訴えてきてくれたの、ありがとう。今、世界の情報は錯綜してて、情報がなかなかまとまらないの。だから、どこの誰が、救援を必要としてるのか、分からなかったわ。きっと、あなたが言わなかったら、来てくれなかったら、あなたの故郷のこと、ずっと知らなかったかもだから。」
それは、現状においてのことで。
実感はないが、どうも外の世界はまだ、情報が錯綜しているようで。
それこそ、帝国の崩壊以降、色々とありそうだとは思っていたが。
そこに今、俺たちの目の前に、窮状を訴えてくる人間が来た。
マフィンとしてもこれほど有難いことはない。
「私はね、嫌だとは、言ってないの。いい。待っててほしい。早く、対策を採るよう、頑張るわ。私たちを信じて。そして、スフィアが導いたこと、信じて、ね?」
これら、拒否ではない。
準備がいる、だから、待っていてくれ。締め括りには、信じてほしいとして。
マフィンは首を傾げて、失礼ながら、らしくなく、可愛らしく首を傾げて。
「!!うん!!!」
拒否ではないと理解したなら、シンは元気よく頭を下げた。
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