まよわずにいこうっ!

 「えへへっ!マフィンちゃん優しー!」

 アビーは、マフィンのその言葉聞き、優しさに感嘆の声を上げた。

 「ふぅ……。」

 マフィンは、言い終えたと満足げに、一息ついて。

 体を上げて、ストレッチがてら、体を伸ばす。

 俺もまた、よかったと安堵の息を吐く。 

 「んぅ~……。」 

 マフィンは、体伸ばしたほぐれからくる、らしくない変な声を出す。

 それは、寝不足からくる疲労もあったのだろう。

 解消に、も。

 今日はやたら、珍しいマフィンを見た。

 そうだとばかり、俺も微笑ましく思うが。

 それ以上に、アビーもまた、そう思って笑みを浮かべる。

 「ええい!まごまごせんでいい!!頼ってきたら、行けっ!それが、英雄の務めじゃろうが!」

 「?!」

 そんな空気をぶち壊すように、突如出現する、村長さん。

 いきなり広間の入り口に現れては、そう言って空気を変えてしまう。 

 そんな突然のため、俺もまた目を丸くしてしまい。

 「?!お婆さま……?!あ、いた?!」

 マフィンもだ。

 そんなこと言われたとの驚きに加え、反動か。

 うっかりか、過剰に伸ばし過ぎて、痛みに悲鳴を上げてしまう。

 「い、いたたたた……。」

 「……。」

 痛みに耐えかね、今度は体を崩して、四つん這いになり、背中をさする。

 俺は、あまりに痛そうにしていることから、驚きから一転して。

 痛そうと、口に手を押さえて、見入ってしまう。

 「ひっひっひ……。わしが許可する。他色々は、心配せんでええ!運命に忠実に、遂行するのだ!ひっひっひ……。さて、わしはあの荒獅子にでも言ってくるかのぉ。」

 「……。」

 そんなマフィンを気にも留めず、村長さんは、強引だが。

 戦いのための許可を出し、踵返し、玄関へ向かって行く。

 何の音一つ立てず、やがて気配は消えていった。

 毎度のことだが、どうやって気配を消しているのだろうか。

 今でも気になってしまう。相当すごい、術者なのだろうか?

 その答えは、残念ながら未だ分からない。 

 始めて見るであろう、シンは、ポカンとしていた。

 無理もないか。

 「い、いつつつ……。」

 「……。」

 視線を、マフィンの方に向けて。

 こちらはこちらで、未だに痛みから立ち直っていない。

 「!」

 ピンとくる。 

 そっと、手を動かしたなら、スフィアを操作し、マフィンの腰にあてがう。

 痛む部分を撫でるように、動かしたなら、スフィアから淡い光が出てきて。

 痛む部分を、労わる、優しい光が、包み込んでいく。 

 「?!んにゃぁああ?!」

 こそばゆいか、マフィンは変な声を上げ、体を仰け反らせてしまう。 

 「!!ま、マフィン、ちょっと!それじゃ、痛みが……?!」

 「……っ?!……っ?!」

 「……。」

 腰を痛めてただろうに、余計悪化するよ。

 俺は、止めるために、言おうとしたが。

 マフィンは、声にならない叫び上げ、その場に倒れ込んでしまった。

 痙攣していることから、ショックを受けたようだが。

 そうであっても、このままなのも、何だか悪く。

 スフィアを追加して、彼女を労わってあげた。 

 こそばゆさに、時折びくりと軽く跳ねながらも、治療はすぐ終わる。

 「よし。」

 終わりに、俺は言う。

 「?!」

 と思ったら、マフィンは体を上げ、徐に、俺の両頬をつねってきた。

 「?!い、いひゃい?!」

 思いっきりだ、痛みについ、声を上げてしまう。

 「……っ!……っ!!うぅう……。」 

 一方のマフィンは、唸り声など噛み殺した声を上げていて。

 表情も、どうしていいか分からない、混乱している様子。

 なお、俺にされたのが恥ずかしいか、それとも、変な声を上げたのが恥ずかしいのか、赤く、複雑な様子も見せていた。

 「?」

 「う、うぅうぅうぅ……。」

 が、観念したのか分からないが、すぐに手を放し、項垂れてしまった。

 よく分からないが、どうしたんだろう、俺は首を傾げてしまう。

 頬をさすりながら、マフィンを見て。

 「あの、……マフィン?ええと、その、急でごめん。」

 どう声を掛けていいか、分からないが。

 急に治療をしたのも、悪かったのかもしれない、俺は、頭を下げる。 

 「……い、いいの。わ、私も言い過ぎたわ。」

 マフィンは、気付いてくれた。

 くれた上で、項垂れながらも、俺に謝ってくれて。

 「……。いぅぅ……。変な感じだわ……。」

 腰を落ち着かせて、座り込むものの、違和感からか、腰をさすっていて。

 「……私が教えたけれど、こんな時にやられるなんて、複雑だわ。しかも、腰を痛めた、って状態でね。うぅう……。」 

 顔が赤いままだが、複雑そうに言っている。

 「すっごーい!さすが、ウィザード!」

 「……あはは。」

 見入っていたアビーが、そんな俺に黄色い声援を。

 俺は、少しだけ、照れ笑い。

 「……。」

 「!」

 また、同じく側にいた、シンは、ぼんやりしていて。

 「!ええと、ええと……!」

 我を取り戻したなら、あたふたし始めて。

 「!シンちゃん!こういう時は、こう言うんだよ!すっごーい!」

 「!!!す、すっごーい……。」 

 そんな俺に、どう声を掛けようかしていてだが。

 アビーに指導されるように、同じセリフを口にした。

 「……ありがとう。」

 たどたどしいが、声援だ、俺は、素直にお礼を言った。

 「……ふぅ。さて……。」

 「!」

 傍ら、マフィンが息をついて切り替え。何か、話したそうにしていて。

 気付いて俺は、マフィンを向いた。 

 自分を落ち着けたらしいマフィン、いつもの彼女らしい表情だ。

 「……シン。」

 「!あ、はい。」

 その表情で、始まりにまず、シンを呼び。

 言われたシンは、緊張気味に、体を強張らせてしまう。

 「……そんなに緊張しないで。叱るわけじゃないから。そのね、お婆さまにああ言われたら、早く準備しないとね。そう、行くのよ。あなたの故郷に。」

 「!!!!!」

 緊張を解く言葉を続けたなら、今しがた決まったことを口にした。

 行く。

 そう、シンが欲しがった言葉だ。 

 聞いたシンの顔は、希望の色に染まっていく。

 そうとも、その言葉こそ、欲しかった言葉。行く。ウィザードが行く。

 希望へと染まっていく、シンは、やがて嬉しさに、涙ぐみ。

 「あ……。あ……!ありがとう!!!!」

 涙を流しながら、お礼を言い、マフィンに抱き着く。 

 「……。」

 抱き着かれたマフィンは、そんなシンの頭を優しく撫でて。

 それから、俺に視線を向けて。

 「いいわよね?」

 「!」 

 同意を求めてきた。

 「……マフィンが言うなら。」

 俺は、拒否しない。

 マフィンが言うなら、と頷いて。

 「うん!あたしも、いいよ!頑張る!」

 アビーもまた、同意して、気合を入れて、拳を作り、ポーズを見せた。

 「……。」

 マフィンはそんな俺とアビーを見て回り、だが、無言で。

 志は、一つならと、間をおいて思考。

 「……なら、早速準備しましょう。」

 「!ああ!」

 「!うん!」

 ならば早速と、マフィンが言ってきた。

 俺とアビー、頷き、まず心を準備しようとする。

 見ていたマフィンは、らしい雰囲気に、立ち上がり、こちらに指示を出すようで。

 「一応、スフィア狩りの道具でいいわ。後は、人数と、輸送手段。」

 早速準備に取り掛かる、そのためにそう言って。

 言われたなら、俺とアビーは二人して、頷く。

 スフィア狩りの道具でいいのなら、準備は簡単だ。

 「……。」

 「?」

 そこまで言っておきながら、マフィンは押し黙り。

 口に手を当て、また思考を始める。

 何か、引っ掛かっている様子だ。 

 首を傾げていると。

 「……人数は、問題ないんだけど、輸送ね。」

 「あ……。」

 マフィンは、思案し終えてか、懸念していることを口にする。 

 聞いて、そう言えばとなってしまう。

 輸送手段。

 「……やっぱり、何か問題、あるんだよね?」

 何となく、想像はできるが、念のため、聞いてみる。

 想像できる問題。

 それは、手段がない。

 やれ、航空機やら、空母やら存在するこの世界でさえ、輸送する手段がない。

 奇妙に思えるかもしれないが、何となく想像できる。 

 「そう。輸送手段がないの。これが一番の問題ね。海路でも、空路でも、全く存在しないの。今までもそうだけど、今もまた、ね。何より、帝国の崩壊以降、混乱している状態なのよ、可能性が低いわ。」

 俺の問いに答えてくれる。

 その回答も、やはりで。マフィンは、せっかくの所、水を差すと気を悪くし。

 「?あれあれ?マフィンちゃんなら、解決できそうだよ!だって、ほら、飛行艇とか出したりとか、できない?」

 「……はぁ……。アビー、あなたね……。私を何だと思っているのよ。」

 「……。」

 傍ら耳にしていたアビーは、一応アイデア出しを手伝ってくれている。

 らしく、能天気な意見だけど。聞いていて、マフィンは呆れ顔。

 俺もまた、同様に、呆れて。

 「……あのね。個人所有のそんな物、いくらすると思っているの?持てないわけじゃないけれど、それ以上に、敵はおろか、場合によっては、味方の共和連邦にまで攻撃されかねないわ。未確認飛行物体扱いでね。残念だけど、難しいかもしれないわ。」

 「そっか~……。」 

 アビーの能天気なアイデアに、マフィンはやや痛烈な意見をする。

 言われて、アビーは頭だけなく、耳まで垂れさせてしまい、残念そうだ。

 俺もまた、何となくだが同意見な気が。

 味方である共和連邦、そうであっても、味方であると認識されなければ、容赦なく攻撃してくる。

 ……実際、経験がある。

 帝国から奪ったマキナを使って、脱出を試みたが。

 途中、共和連邦の戦闘機に撃墜された。

 アビーと一緒に脱出して、事なきは得たけれど。

 一歩間違えたら、どうなっていたやら。

 仮に、マフィンが飛空艇を所有していても、場合によっては、同じように攻撃される。そうなると、二の舞だね。

 「!う~んと。けど、軍関係者を当たってみようかしらね。言ってみて、何となく閃いた。」 

 「!お~!」

 マフィンは、意見を言った側から、何か閃いたらしく。

 どうやら、軍関係者を当たってみるということに行きつく。 

 聞いていてアビーは、感嘆の声を上げた。

 「分かった。マフィン、なら俺たちはいつも通り、スフィア狩りの準備をして待つよ。」

 マフィンが当たるということで、俺たちは俺たちで、準備しよう。

 宣言に、マフィンは頷き。

 「そうして頂戴。私も、準備しとく。」

 言って、早速取り掛かるつもりだ。

 「えへへ。また、スフィア狩りだね。」

 アビーはお気楽なものだ、呑気なセリフを言って、立ち上がり、服を整えた。

 合わせて俺も、立ち上がり、整えて。

 「ええと……。ええと……。」

 「!」

 残るは、子どもであるシンだ。

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