ゆうがただね!かえろー!
鬼の形相に怯えて震え。ついでに、縋るような瞳を俺に向ける。
「う……。」
俺は、二人の気迫を感じて、こちらも怯み、何もできず。
「た、頼む。うぃ、ウィザード……?いや、大和……。た、助けて……。」
加えることには、涙目でとうとう懇願してくる。
村一番の大男には、似つかわしくない姿。知れば、幻滅する者もいるか?
「年下に頼むな!!それでも村一番の男かい?!」
「関係ない人間を、巻き込むでない!貴様!!根性叩き直したる!直れい!」
「うひぃいいいい!!」
そんな懇願、二人が許すわけがない。
ともかく、関係のない人間まで巻き込むな、という叱責から、説教が始まりそうな雰囲気になる。
レオおじさんは、らしくなく悲鳴を上げる。
「……。」
俺は、どうしようか迷ってしまう。
諫めるか、弁護するか、取り繕うか。
このような状況に対し、判断したことのない自分に、しかし何もアイデアが浮かばないのが悔しい。
「!」
と、玄関の先から、誰か手招いてくる。
気付き、俺は向かうと。
そこにいたのは、心配して見に来たマフィンだった。
「ええと、マフィン?!……何か……。」
「……やめておきなさい。あなたじゃ、対応できないわ。あれは、レオおじさまの問題のようなの。残念だけど。」
「……。」
耳打ちしてくることには、対応できる問題じゃないということで。
悔しくてならないが、どうしようもない。
多分誤解だろうけど、解こうにも俺では不可能な、そう、家庭の問題なのだ、何もできやしない。
俺は、……そっと手を合わせた。
祈るように。
「?!か、勘弁してくれぇ~……!かーちゃーん!!」
その光景を見たかどうかは別として、丁度いいタイミングで説教が始まりあれこれ言われ、とうとう泣き言を吐く。
「……。」
俺は、見守るしかなかった。
「!あ、あと。あの子どもは?」
それとは別に、気付くことが一つ。
例の子どものこと。
俺は、マフィンに振ると。
「……衰弱は相変わらず。けど、休ませて、栄養を与えたら大丈夫かしら。」
「そっか。」
マフィンはそう答える。
内容から、命に別状はないとして、少しホッとする。
あれこれ急いでいたが、勘違いか早とちりか、振り回された一日で。
結局、俺は元の広間に戻っている。
側には、布団が敷かれ、子どもが一人寝かされていて。
時折、うなされる声を上げるが、その後はまた、安らかな呼吸をして。
ただ、どこの誰であるかは、未だ分からないでいる。
マフィンも付きっ切りで見ている。
だからで、また静寂だ。
やることないがため、仕方なく耳をすませば、外からだが、遠くに子供たちの歓声。
近くには、説教受けて、項垂れる様子を思わせる会話。
両方、まだまだ時間は掛かりそうだ。
視線を戻して、例の子どもに。よく観察してみると、育ちが良さそう。
特に、来ている服は、ライオンの人らしい、色合いや風合いこそ、レオおじさんの子どもたちと同じではあるが、彩られている刺繍の類は、この子にしかない。
流れる様な刺繍に、丁度胸辺りには、咆哮する獅子のエンブレム。
力の象徴を思わせる。
「!」
また、ネックレスもしていることに気付く。
それなりの大きさのスフィアを施してある、簡素だが、決して安くはなさそうな品物。
もしかしたら、結構な身分の人間なのかもしれないと、思ってしまう。
「……。」
俺は、マフィンに視線を送る。
「!」
マフィンは気付き、俺を向いた。
「ええと、何だか身分が高そうな子どもだけど、……分かる?」
「!」
そうして、マフィンに声を掛けると、マフィンは考え込むように、顔を逸らし顎に指を当てて。
「……〝リオンキングダム〟……?」
「!」
ぽつりと呟いた。
その呟きの後、マフィンは顔をこちらに戻したなら。
「……私の予想だけどね。」
「ああ。」
推測から、マフィンは何かを語るらしく。俺は、聞き入るように、顔を近づけた。
「……この子がもし、王族だとするなら、ライオンの人の王国、リオンキングダムの出身で、王子だということかしらね。」
「へぇ。その根拠は?」
「……胸元の獅子の紋。これは、王族にのみ許された印。この印を持つのは、かつてのリオンキングダムだけだっと思うの。」
「……なるほど。」
聞くと、リオンキングダムなる所の出身で、王子だと。
相槌がてら、聞き入って。
「……で。その、リオンキングダムって、どこ?」
次なる疑問は湧いてしまう。
つい、興味が出てしまい、俺は続きに、どこにあるのか聞く。
「私もよく覚えていないわ。……ええと、ここから西の果て、海を渡った先、覚えている?」
「!……帝国があった場所だね。」
その場所とは、の途中にマフィンが言うことは、帝国に関わることで。
帝国。
確かに、この地域から西の、海を渡った先、大陸の中央に位置していた。
ほぼ全体が砂漠になっていて。
巨大な城壁のような物が隔てていて、そう、長城のような。
ビストを認めない、ヒトだけの組織だった。
……だったのだが、城壁を突破、破壊され、挙句、内部の防御機構まで反動で破壊されてしまい、ついには共和連邦に降伏した。
どれぐらい続いたか分からない戦争だが、ついこの間終結、今は、平和になった。
それから先は、……俺は知らないでいる。
「そう。帝国。その帝国領土を、遥か西に、海に突き当たる場所まで進んで、南に大きく進んだ先に、存在している、いいえ、いた王国ね。」
「うんうん。ん?〝いた〟?」
マフィンが続けるが、途中気になることを口にする。
存在して〝いた〟、という気になる言葉。
俺は、オウム返しに聞く。
「そうなの。私も詳しくは知らないけれど。帝国が始まってから、吸収されて、確か、自治区のようなものになっていた、と思うの。あんまり、大っぴらに国を名乗れないから。だって、国は、それこそ帝国だから。それ以外は、何て言うか奴隷とか?かしらね。」
「……。」
帝国の領土として、吸収されたらしいと、マフィンは返答する。
俺は、沈黙して。
そのため、引っ掛かる言い方であった。
吸収された、ということは、今はもう存在していない、ということで。
なら、この眠る子どもは、何だか可哀想になってきた。
「……けどね。どういう事情があるにせよ、それはこの子が目覚めないことには分からないわ。私も、詳しく知らないの。」
「そっか。」
締め括りにマフィンは、分からないということだった。
俺は、頷く。
何も言うことはなく、結果として、俺はまたマフィンにお茶をご馳走になる。
お代わりだね、皮肉にも。
「……ふぅ。」
今日色々あったことがあり、やっとの思いで安堵。
マフィンが淹れた、不思議なお茶のおかげもあり、俺は溜息をつく。
静寂が、心地よい。言葉のないこれが、懐かしくも思う。
昨日といい今日といい、騒がしかったからね。
「……!」
気が付けば、夕日が俺の顔に射し込んできて。
時間はもうそれだけ過ぎたかと、つい思ってしまう。
そんな折に、縁側に立ち、身を乗り出して外の様子を確認すると。
「……全く。誤解を招くようなことするのがいけないんだよ!」
「……ほんっと、すんません……。」
「……。」
説教は続いている様子。いよいよ終わりか、どうも誤解は解けたようで。
レオおじさんは、見事な土下座を、エルザおばさんと村長さんに向けていた。
俺は、何も言えないでいる。
遠くながらも、憔悴している様子だ、掛けようにも、言葉が思いつかない。
「!っと。もうこんな時間。はぁぁぁああ!全く。今日は散々だねぇ。麓から村長の家までかっ飛ばして来てみたら、誤解だわ、旦那に説教するわ。ああもう全く!疲れたー!」
傍ら、エルザおばさんは、こんな状況に不平不満。
吐き出すように顔を上げて言い、腰を叩いて伸ばす。
憔悴ではなく、エルザおばさんの場合、疲れたといった感じだ。
それだけ長時間、くどくど言っていれば、疲労もする。
「ぬぅ!もうこんな時間か。わしも疲れた!……説教も終わりじゃ。帰る。」
傍ら、村長さんも言って、同じように腰を叩き、ゆっくりと踵を返し、玄関、家の方へ向かって行った。
「ほら!」
「?!」
エルザおばさんは、村長さんがこの場から出るのを見送ったなら、レオおじさんに手を差し出す。
レオおじさんは手を伸ばし、掴む。
そうしたなら、エルザおばさんは、レオおじさんを立たせた。
エルザおばさんは、呆れながらも笑顔を見せて、そんなレオおじさんを見る。
そこには、先ほどの怒りはない。もう、いつものエルザおばさんだ。
「……がはは。母ちゃんには、敵わないや。」
呟いたレオおじさんもまた、笑いながら言う。
「さぁてと。帰るか。ほら、子供たち呼びな。」
レオおじさんが立ち上がったなら、手を放し、自分の腰に組むと、時間も時間だし、自分たちも帰るとして、レオおじさんに言ってきた。
「!ああ。……でもよ、どこにいんだろ?」
エルザおばさんに言われ、早速取り掛かる感じにはなったが、問題が。
子どもたちはどこに行ったのだろう。
説教が始まるその時に、皆一斉に駆け出し散り散りに行ってしまったのだから。
「!」
など思っていたら、辺りからガサガサ音が聞こえ。
次々に、噂の子どもたちが姿を現してきた。いいタイミングで、だ。
騒がしさが、ここぞとばかり蘇ってくる。
姿現した子どもたちは、木の葉や泥汚れだらけ。
そのわんぱく、お転婆っぷりを晒している。
気にする様子はない、皆楽しそうにしていた。
「!!あ、あんたたち……。」
エルザおばさんは、皆がそんな姿で帰って来たのを見て、言葉失い。
「?」
「母ちゃんどしたの?もうカラスがなく頃だから、戻って来たよ!」
「かえろーかえろー!!」
口々に言ってくる子供たちの姿見て、やがてエルザおばさんは言葉を戻し、呆れたように笑顔を見せてくる。
「……あーあ!全く。泥だらけ。洗濯する身にもなんな!」
「きゃはははは!!」
呆れながら続けるものの。
子どもたちは、エルザおばさんを困らせ、喜んでもいる。
エルザおばさんも、言葉では困っているが、表情は困っているわけでもない。
子どもらしくあるそれに、エルザおばさんは、母親らしく慈しんでいる。
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