みんないたんだっ!

 「……ええと!か、母ちゃん?子供はいる?」

 未だ状況把握しきれないのと、突然の平和な光景に、戸惑い気味のレオおじさんは、エルザおばさんにそう聞く。

 「あいたたた……。お前たち!ちょっとはあたしの気も考えな……。ったく、このやんちゃ坊主たちや、お転婆娘たちめ……。もう……。」

 「……。」

 聞いてはいたが、エルザおばさんはまだ、それどころじゃない様子。

 聞くのが間違いだったかもと、レオおじさんはポリポリと頬を掻き。

 「?レオおじさんたちどうしたの?子どもたち?皆いるよ!」

 「!……アビー……。ありがとう。」

 エルザおばさんの代わりに、アビーが言ってくれる。

 レオおじさんは、意外な人物からの回答に、少し驚くが。

 すぐにお礼を言い、頷く。

 なお、アビーの表情は、子どもたち同様、状況を理解していない。

 まだ、遊びの状態のままであり。

 「……ええと、アビー?回答ありがとうだけど、ちょっとね、ピンチだか、事件だか起きたんだ……。それで……。」

 「?事件?」

 補足として、俺が説明をし始める。

 アビーは、やはり状況を把握はしていない首を傾げてきて。

 「子どもが一人、谷に落ちて、流されて、河口にいたらしいんだ。それで俺は、レオおじさんとエルザおばさんを呼びに行ってさ。」

 「えっ?でも、皆いるよ?」

 「……。」

 説明を続けたが、理解したかどうかは分からずじまい。沈黙するしかない。

 「?谷ー?行かないよ!俺っち、危険な所に行くなって、母ちゃんに言われてんもん!」

 「行かなーい。」

 「皆、お兄ちゃんが言ったから、行かないよ、お母さん!」

 「!」

 状況を理解しているかどうかは別として。

 危険な場所に行ったかについては、子どもたちがそれぞれ言ってくる。

 ……特に、レオおじさんの背中に乗る長男には、説得力がある。

 「!!!!お前たち……。っ……。」

 エルザおばさんは、全員の言葉を聞き、安堵に軽く涙し、言葉を詰まらせる。

 「?よく分かんないや。でも、皆いい子だね!ちゃんと安全な場所にいたんだよ!良かった!」

 「……。」

 アビーは状況を理解はしていないが、フォローを言ってくる。

 エルザおばさんは言葉を紡がないが、涙堪えてか、頷くばかりだ。

 レオおじさんも、安堵の溜息をついて、胸を撫で下ろす。

 「ん?じゃあ、その子どもって……?」

 平和の情景にようやく馴染みそうな雰囲気の中、壊してしまうのが忍びないが、ふとした疑問が俺の口をついて出る。

 レオおじさんたちの子どもじゃないなら、じゃあ、その子どもは、どこの誰? 

 「あ……。」

 耳にしてレオおじさんは、安堵から一転して、何か思い当たるような風を見せてしまう。

 「!」

 エルザおばさんは、その音を聞き、耳をピクリと跳ねさせ、安堵から疑惑の瞳に変わる。 

 「……いや……。母ちゃん……?き、気のせいだ……!あ、そ、そりゃ、家に母ちゃん含めて、いるけど……さ?」

 「……。」

 睨まれてレオおじさんは、しどろもどろになりながら、弁解を告げるが、エルザおばさんの瞳が、元に戻ることはない。

 その疑惑、また、女を作ったかのことだろう。

 子沢山に、嫁沢山?というか、そういう悩みもあるのかな。

 どういうものかは、残念ながら分からない。

 そして、どうフォローを入れようかも、できないでいる。

 その疑惑蔓延する空気を壊してくれるのは、誰だろう?

 「ちょっと!!!!!誰よあんな轟音立てたの!!!!こっちにまだ、診ている子どもがいるのよ!!!!」

 マフィンだ。

 玄関の戸が、勢いよく開かれ、怒りの形相で仁王立ちに出現する。

 加えて、いつでも攻撃できるよう、スフィアがスタンバイ。

 だが、庭先にいる子どもたちの姿見て、驚愕の色に変わっていく。

 「子ども……がっ?!えっ?!皆、いる……?!」

 混乱のあまり、マフィンは口をパクパクさせてしまう。

 どうやら、こちらも状況を飲み込めないでいるようだ。

 「ええい!!!喧しい!!どこのバカの獅子だ!!家を壊す気か!!!」

 遅れて、家の奥から怒号を飛ばし、現れた村長さん。

 なお、マフィンとは違い驚愕してはいない。

 「!!ば、ばっちゃん!!う、……す、すまん……。」

 もちろん、轟音のような咆哮の犯人は、村長さんの気迫に押され、大男なのにたじろいでしまう。

 「!!そ、それよりもお婆さま!!……。」

 「何じゃ!マフィン!……。」

 勢いそのままだと、レオおじさんをこのまま、そう、ボコボコにしかねないと言えばいいか、防ぐために、マフィンは、気付いたことを耳打ちする。

 勢いは急に衰え、村長さんは、聞き入り。

 「?!」

 理解したなら、今度は急激に顔を赤くして。

 「……ぬ……。ぬぬぬぬぬぬ!!!!ぬぅうううう!!!!」

 唸り声を発しだした。 

 顔の赤は最初恥ずかしさのようであったが、やがて沸騰するほどになるなら、それは怒りであると分かり。

 ……どうやら、早とちりに怒りか。

 恐らくだが、その子どもは多分、他の子どもで、そう、ここまでの騒動は、全て、村長さんの早とちり。

 結果、恥ずかしさ生じ、必死さ、バカバカしさも混じり、混乱を拭い捨てる、その勢いとして、怒りを採択。

 向かうのは……。

 「えええい!!レオ、そこに直れ!!主の子は、紛らわしいんじゃ!今から、教えを授けてやる!!!」

 「?!はぁ?!か、勘弁してくれよ!!お、俺は悪くないぞ!!」

 レオおじさん。村長さんは、怒りのあまり、説教を始めるつもりで。

 振られたレオおじさんは、突然のことにまた驚愕する。

 子ども多さ故の疑いが、災いとなったか。そうであっても、誤解である、レオおじさんは、反発する。

 「……ぐぬぬ……。」

 のだが、村長さんに睨まれ、ぐうの音も出せない。

 仕方なく、説教に甘んじる。

 「……お……父……さん?」

 「「?!」」

 そういう、今にも燃えそうな中に、火と油が投じられる。

 騒がしさに、気が付いたか、誰かがマフィンの後ろから姿を現し、一言を。 

 場にいる一同は、一斉にその誰かに注目する。

 現れたのは、先ほど村長さんの背中に乗せられて、運ばれていた、ライオンの人の子、男の子。 

 レオおじさんの子どもだと、勘違いされたが、よく見ると、やっぱり違う。 

 着ている服装が、レオおじさんの子どものとは違い、装飾が施され、少し豪華な印象を受ける。失礼だが、……どこか身分が高そうだ。

 が、その男の子、言葉のその先を紡ぐことなく、倒れ込みそうになる。

 「!!」

 マフィンが素早く、その体を支えた。 

 「……。」

 マフィンは冷静に見ていて。 

 「……やっぱり、相当衰弱しているわ。無理したのね?」

 診断。衰弱していると分かり。

 視線をこちらに向けると。

 「……やっぱり休ませないと。ええと、あんまり、大音量で騒がないでね。静かにさせてあげて。」

 「……あ、うん。」

 「……ああ。」

 マフィンは冷静に、必要な指示をこちらに出した。

 その子どもの発言といいで、上の空ながら俺とレオおじさんは返事をする。

 マフィンは言った後、男の子を抱えて、奥へ引っ込んでいった。

 「……。」

 「……。」

 見届けた後、不気味に静寂が走る。 

 「!!ねーねー!!!父ちゃん!!あの子、どこの子?」

 「うちの子?うちの子???」

 「お兄ちゃん?弟?どっち?」

 「?!うっ?!……う~……あ~……と。」

 さて、まずそんな静寂を破ったのは、子どもたちで。

 目を輝かせて。

 自分たちの父親に、あのライオンの子は、誰なのかを口々に聞いてくる。

 これもまたいきなりなため、レオおじさんは上手く答えられないでいる。

 思い当たる節があり過ぎて、というのもあるのかもしれないが、何よりも、期待される目で訴えられたこともあり。

 その瞳の輝きは、新しい家族を予感してのものだろう。

 弟か、兄か。そうであって欲しいという、子どもたちは願い。

 「……ちょっとあんた……!」

 「……ひぃい?!」

 反対に、面白くないどころか、色々と怒りを発しているのはエルザおばさん。

 隣から来た怒りに、情けない声を上げ、思わずレオおじさんは飛び上がってしまう。

 エルザおばさんは、心配、安堵、驚愕、と来て、今は怒りに毛を逆立てて。

 また、子どもが増えたと、いう誤解にだろう。

 母親の気苦労というものはある。

 あれだけの子どもたちを相手にしているんだ、また増えたとなると。

 いや、それ以上の問題だ。

 もし、レオおじさんの子どもであったなら、つまり他に女性がいる、ということに他ならない。

 ここから先は、大人の女性の問題。

 レオおじさんには、奥さんが何人もいる、それが裏にはあり。

 このまま増えると、色々と衝突するかもしれない。

 仲良くなれればいいが、そうでないなら、それはきっと、その、家庭で色々な問題になる、ということ。

 エルザおばさんとて、一人の女性で、同じ立場の人が増えると、問題も起こりうるという、懸念を抱いているのだ。

 この際、はっきりさせないといけないと、感じる。

 「うぉー!母ちゃんが怒ったぞー!!」

 「きゃははは!!逃げろー!!さいきょうのおにが出たー!!」

 「きゃははははは!!!」

 「……。」

 大人の事情なんて、子どもにはまだ分からない。

 エルザおばさんの毛が逆立ったのを感じ、面白そうに逃げ出す。

 エルザおばさんに乗っていた子どもも、レオおじさんに乗っていた子どもも、一斉に駆け出して、近くの森やら草むらに隠れてしまう。 

 これからまた、遊びでも始めるような勢いだ。

 俺は、呆れやらで、何も言えない、静かに見守る。

 「!追っかけっこだねー!負けないよー!!!」

 「わぁー!!!アビーおねーちゃんがきたー!!!」

 「逃げろー!!!」

 「……。」

 いや、もう一人事情理解してなさそうなのがいた、アビー。

 子どもたちが逃げたのを見て、こちらもこちらで面白そうに駆け出す。

 俺はもう呆れ果ててしまった。

 やがて、子どもたちもいなくなったこの場は、静寂で。

 残ったレオおじさんと、エルザおばさん、村長さん、そして俺だけ。

 一瞬奇妙を見るような空気が漂うが、すぐに疑惑の目に変わり。

 エルザおばさんと、村長さん二人して、レオおじさんを睨んでくる。

 「ばっちゃん。あたしからも言わせておくれよ。全く。子供が増えるのは構わんが、女も増やすってのは……。」

 「あ、あの、……母ちゃん?ばっちゃん?ちょっと……。」

 続けることは、村長さんに続いて、エルザおばさんも説教を与えるらしく。

 レオおじさんは、二人に睨まれ、後退していく。

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