えーるをおくるねっ!

 「!」

 また誰か、草むらから出現する。

 赤茶色の髪の毛に、猫耳。……アビーだ。

 子供たち同様、アビーもまた、どろどろに汚れている。

 「はれっ?皆いた。えへへっ。お姉ちゃんの負けだね。」

 「……。」

 いつもの、らしく笑いながら、アビーは頭を掻く。

 俺は、らしいやと思うと同時に、呆れもある。  

 マフィンからもらったであろう服は、結局この日に汚れ果てて。

 これじゃあ、後でマフィンに叱られちゃうな。

 子供じゃあるまいし、なあ……。そう思ってしまう。

 「うん!揃ったね。それじゃ、帰ろっかね。」

 アビー登場を待って、エルザおばさんは言い。

 アビーを自分の子どもたちの輪に招き。

 アビーもアビーで、遠慮なく入っていく。

 「ほら!大和ちゃんも帰るよ!」

 「!」

 加えて、俺もまた手招かれ。 

 いきなり言われて、俺は目を丸くする。

 そうしたなら、マフィンに向き直り、目配せする。

 そこにいる子供が気になってしょうがない、このまま帰ってもいいかどうか。

 「!……いいわよ。私が診ておくから、あなたは帰っていいわ。だって、あなたといい、アビーといい、楽しそうじゃない。」

 察してマフィンは、そっと笑い、俺の背中を押す。

 「分かった。……ええと、色々ありがとう。あと、何だか任せっきりで。」

 俺は、お礼を言うのと同時に、申し訳なさも言い残してしまう。 

 マフィンは聞いていて呆れてもいる。

 「いいのよ。それに、あなたの真面目さ、別に嫌いじゃないし。」

 別に、気にすることはないと、マフィンは言い切る。

 俺は、頷き、背中押されるまま、荷物持ち、玄関へ駆けていく。

 「!」

 外のアビーは、俺が向かってくることを聞き、入れ替わりに縁側に駆け寄る。

 もうすぐ、帰ると悟っているから、面と向かって挨拶のために。

 「?!って、アビー!!あ、あなたね……!!!!!」

 「?ほぇ?」

 「……。」

 向かうがてら、マフィンの怒号を耳にする。

 俺は、何だかやっぱりな、という気がしてならない。

 折角用意した服が、その日の内に泥汚れまみれに。

 ……マフィンの気を考えたら、何だか可哀想に感じる。

 「……うぅううぅうぅぅ~……。今日は散々だわ……。折角用意した服も、私の服も、ボロボロ……。」

 その通りに。

 マフィンはしかし、怒る気力もとうになく。

 頭を抱えるかのような様子を醸している。

 エルザおばさんもそうだが、マフィンも疲れているようだ。

 その心中、察するよ。

 俺は、靴を履いて、玄関から出て、もう一度マフィンを見るために、縁側に回ると、やはりであり、頭を抱えていた。

 「!」

 丁度、エルザおばさんが気付いたようで。

 マフィンの様子と、俺の登場に。

 俺をちらりと見た後、アビーを見て、それから頭抱えるマフィンを見ては。

 「マフィンちゃん!気にしなくていいよ!あたしが洗う!大丈夫、大してボロボロじゃない!洗えばまた、着られるじゃないか!なははは。」 

 そんなマフィンの抱く悩みを、豪快に笑い飛ばす。

 別に着られなくなったわけじゃない。

 洗えばまた、着られるのだからと。

 ……だからといって、その言葉で気を取り直すわけでもなく。  

 「うぅううぅううぅ……。」

 頭抱えたまま、悩み果ててしまう。唸り声伴って。

 挙句、頭を振って、色々振り払う様子も見せて。

 「はぁあああああああああああああ……。」

 すっごく大きな溜息を出した。

 溜めた悩みも、今日抱いたもろもろトラブルからくる疲労も、その時吐き出した様子で、頭抱えるのをやめ、呆れたように顔を上げ、立つ。

 「エルザおばさまがそうおっしゃるなら……、ね……。」

 不満は未だあれど、仕方ないといった表情を見せて、マフィンは言う。

 「えへへっ!何だか、解決したね!」

 「……。」

 そうして、アビーは締め括るように笑ってはいたが。

 この場合、何か違う気がする。

 「……むかっ。」

 それは、マフィンも同じようで。一転、眉をピクリとさせ。

 「?!いひゃい?!」

 徐に、アビーの両頬をつねる。

 突然の痛みに、アビーは驚きながらも、変な声を出す。

 違和感、多分、アビーは気付いていない様子。

 そう、今この時に、落胆した最大の元凶が、何も分からず。

 のほほんと言ってくる、それは今のマフィンにとっては我慢ならないのだ。

 「あ~な~た~は~!!もぉおおお!そんな悪い子は、こうよ!」

 「?!ま、マフィンちゃん?!」

 マフィンはただつねるだけではないようだ、何かしだすつもりで。

 何か怖いものを感じ、アビーは涙目になって。

 「たてたてよこよこまぁるかいて、ぴょん!!」

 可愛く歌いながら、マフィンは縦横無尽に、アビーの頬をつねる手を動かす。

 最後、上に釣り上げて、離したら、今度は両頬を指で刺して。

 「すふぃあをひゃっこ!と~らせる!!」

 「?!あにゃぁ?!ま、マフィンちゃん?!お、おに~~!」

 ぷにぷに突いては、別の歌を歌い、完全に手を開放した。

 聞いて突かれて、アビーは青冷めて、涙目に。

 「……。」

 内容も内容で、何だか恐ろしそうだ。

 そのはず、スフィアを百個なんて、早々集められる物じゃないし。

 アビーの言葉借りるが、……鬼だね……。

 「ふぅ!」

 どうやら、今度こそ完全にストレスを発散できた様子で。

 満足の溜息を洩らした。

 「うぅ~。……お洋服汚して、ごめんなさい~~……。」

 アビーはようやく理解して、マフィンに謝った。

 ただ、両頬をさすりながら、であり、実に痛そうだ。

 「……ええと。まあ、とりあえず、何事もなかったということで、今日はこれでいいか、な……?」

 さてと。さっき締め括られたが、どうも締まりが悪い。

 アビーのトラブル発生に、場、特にマフィンに怒りが生じて、終わりがどうもグダグダになってしまった。

 それに、雰囲気的に、終わりそう。

 ここにきて、状況的にようやくまとまりそうということで、俺は声を上げた。

 「!まあ、そうね。……詳しいことは、どの道、あの子が目を覚まさないことには何にもならないし。」

 「ま、あたしも特に言うことないし。ちょっとはトラブルもあったが、一応、子供たちも無事元気だったしね。」

 「がははは!締めに言うな!さすがは、この村発の英雄だ!」

 「……うぅ~。こんなに痛くしなくても……。けど、あたしは楽しかったかな皆と遊べて……。」

 俺のその言葉に追従する形で、皆それぞれ今日のまとめを言ってきた。

 今日の別れ、挨拶までもう少しの所になった。

 それぞれが、それぞれ、見つめ、笑い合い。マフィンに視線を向けた。

 「!」

 と、その時、子どもたちが一斉に縁側まで駆け出していく。

 「?!あ、あなたたち?!」

 突然何を始めるのか、状況掴めないマフィンは、折角の雰囲気を壊しかねないと懸念、冷や汗をだし。

 「ちょっと待って、父ちゃん、母ちゃん!」

 子どもたち、特に、先頭に立つ長男は、視線を真っ直ぐ縁側に向けながらも。

 何かあるのか、待ってと言い残す。 

 「!」

 そうして、縁側から中に、身を乗り出して。

 他、子どもたちも追従する。

 「ちょ、ちょっと!!!その子は……っ!!」

 マフィンは、緊張に引きつった声を上げる。

 その子どもたちの、視線の先には、広間に寝かされた例の子どもがいて。

 何をするつもりだ? 

 「!」

 「!!お、おいい!」

 何をするか分からない。

 いたずらだとつい思ってしまう。

 そのため、予感した俺は、阻止のため駆け出し。

 また、後にはエルザおばさんと、レオおじさんも慌てて続く。

 「なあ!」

 俺や、レオおじさん、エルザおばさん辿り着く直前のことだったが。

 長男含む子どもたちは、そこから先に進むことはない。

 別として、声掛けを始めるみたいだ。 

 長男は、その子に向かって口を開き。

 「その……ええと。えええと。誰だっけ?ええと、お前!!」

 「!」

 長男は、失礼な感じだが、指をさし、何か伝えようとしてくる。

 子どもたちを捕らえる前に、成り行きを見守ろうと俺は、直前に停止。

 もちろん、レオおじさんも、エルザおばさんも、それから、マフィンも。

 「元気になれよ!!兄弟とか、そんなの関係なしだ!同じ、ライオンだ!だから、元気になれよ!なってさ!俺っちたちと遊ぼうぜ!」

 「あそぼー!!あそぼー!!」

 「お兄ちゃん?弟?ううん!ともだちー!!」

 「!!」

 長男が言い切り、……レオおじさんと似たように、にいっと笑って言ったなら他の、兄弟姉妹たちも追従して、声を掛けていく。

 それは、エールだった。

 突然来た、自分たちと同じ年、背格好、同族の子どもに、親近感を抱いた子どもたちは、そうして声を掛けてきたのだ。

 物珍しさがある。

 状況を理解していない無垢。

 けれども、ぐったりしている子どもを感じて、何もしないわけにもいかないと。

 思い立ったのが、この行動だった。

 エールを送ったなら、子どもたちはきゃいきゃいとはしゃぎながら、縁側から、庭に戻っていき。

 また、マフィンに向き直る形になる。

 なお、俺と、エルザおばさんや、レオおじさんは、すぐ側で向き直る。

 「ええと、その。今日は色々、お騒がせしました。その、今日は、さようならということで。」

 「あ~。あたしも、同意。すまんねぇ。うちのやんちゃな子供たちが、大量に押しかけて。」 

 「俺からも、だ。わりぃな。マフィン。」

 「!」

 向き直ったなら、今日の日にさよならをそれぞれ言い出す。

 聞いていたマフィンは、やはり呆れ気味になり。

 「いいわ。今日は色々あったけど、ね。あと、あの子、私が診ておくから、心配はしないでね。……さようなら。」

 微笑し、言っては別れの挨拶をする。

 「!マフィンちゃん!服、ありがとー!それと、さようなら!」

 「!……はぁ。アビー……。はいはい、さようなら。またね。」

 遅れて、アビーが手を振って、別れの言葉を告げる。

 マフィンは、アビーを見て、……とっても呆れ気味だが、手を振って応える。

 「マフィンおねーちゃーん!じゃあねー!」

 「また、遊びに来るねー!」

 子どもたちもだ。

 「……うっ。……ええ。歓迎するわ。できれば、大人しくしてくれたら、いいのだけども……。それじゃあね。」

 子どもたちのことには、やや引きつった様子で応じる。

 こうして、マフィンと別れ、皆帰路に就く。マフィンは、俺たちの姿が見えなくなるまで、見送っていた。

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