第147話 創作にまつわる検証のあれこれ(5)
この季節になると、道の駅のお肉コーナーのジビエ肉が豊富になります。
なんといっても、実りの秋。
農作物の収穫を楽しみにしているのは農家の皆様だけでなく、近辺に生息している野生の動物たちも同様。彼らは丹精込めて作った農作物を食い荒らす厄介な存在ではありますが、同時に作物の食べごろを教えてくれる存在なのですね。
とはいえ、黙って食べられるわけにもいきませんから、農家さんはそれはもうあの手この手で被害を防ぎます。その戦いの成果が、道の駅のジビエコーナーでこうやって並んでいるわけですね。きっと。たぶん。
日々、作品の資料として風変わりな食事を探求している私としては、ジビエ肉の流通が豊かになるのは嬉しい限り。珍しいお肉が入荷していないか、ついつい足を運んでしまいます。
しかしながら、ジビエ肉というのはどうしても単価が高いもの。所帯を持った身ですから、お財布のひもは独身時代のように緩くありません。
シカやらイノシシやらのメジャーどころは体験済みなので、今回はパスして新規のみに絞りたいところですが……どうやら、今日の私は運が良い様子。
今回発見したのは二種類。「アナグマ」と「アライグマ」です。
■今回の食材
アナグマ。
食肉目イタチ科アナグマ属に分類される食肉類。
古い言葉では
イヌ科タヌキ属のタヌキと混同されることがありますが、『同じ穴の狢』の言葉通り、別種の生き物です。
混同されるようになった経緯もなかなか面白い。
アナグマは巣穴を掘って生活するのですが、アナグマの使ってない巣穴をタヌキが勝手に使うことがあり、アナグマを獲ろうと猟師が巣穴に罠を仕掛けたものの、実際に獲れたのがタヌキだったために、同じ穴に住んでいると考えられるようになったのだとか。へー。
アライグマ。
食肉目アライグマ科アライグマ属に分類される哺乳類。
すっかり日本に定着してしまった特定外来生物。農作物や水産物を食い荒らしたり、ねぐらとして利用するために家屋等の建造物を破壊したりと、割かし深刻な経済被害を与えてくれる厄介者……とはいえ、後先考えずに持ち込んだぶっちゃけ人間が悪いんですがね。
一度定着した種を生態系から完全に切り離すことは困難だし、人間にとって都合が悪いからといって絶滅させるのもまた傲慢。あくまで防除。個体数管理のために狩猟し、仕留めた分、しっかり食べていくのが一番だと思います。人間本位かもしれませんがね。
ちなみに、私はどちらも野生で遭遇したことはありません。
イノシシにシカ、イタチやタヌキはあるのに。
■いざ調理
食べたことがない肉は、そのままの味を楽しむために焼くに限ります。
せっかくなので、比較検証として半分を素焼きに、残りの半分を酒に漬けてから焼いてみたいと思います。
どうして酒に漬けるかって?
臭み抜きとか、肉を柔らかくするためとかいろいろありますが、酒は私の作中世界に間違いなくあるからです。
実は、香辛料や調味料の設定についてはそこまで細かく決めていないんですよね。世界観的に醤油や味噌はあってもおかしくないんですが……でも、醤油や味噌なんて使ったら『和風ファンタジー』じゃなくて、ただの『和』である。実にジレンマ。
でも、酒は間違いなく存在しているので、酒で処理した焼き方は、現状でも作中の料理表現の資料として活用できるはず。
さて、そんなこんなで実際に焼いてみたわけですが、アナグマは脂身が多いので、ただ焼くだけでめっちゃ脂が出る。そして、脂がものすごく獣臭い。
こりゃあ、一回焼くたびにフライパンを洗わないと臭いが混在して正確なデータにならないな。面倒くさいけど、しょうがない。じゃないと嫁からいてこまされる。
逆にアライグマは赤身がほとんどだったからか、まったく脂が出ない。
馬肉みたい。でも、こちらも獣臭い。鉄分が多いのかな、焼いた後がレバーのそれになった。
いざ、実食。
まずは、アナグマ(素焼き)。
確かに獣臭いけど、脂身が美味しい。豚の脂身に似てて、濃厚で甘い。普通に塩をかけただけで、かなりいける。
次いで、アナグマ(酒)。
あー、かなり獣臭さは減じてる。まったくないわけじゃない。口の中に入れたらやっぱり香る。でも、心なしか柔らかくなっているし、料理としてはこっちが美味しいかな。さすがに。
せっかくなので、嫁にも食べてもらった。
嫁「イノシシよりは臭くない。ショウガとかニンニクでごまかせると思う。すき焼きとかにしたら美味しいんじゃないかな」
私の世界に醤油があるかは定かではないけれど、ショウガやニンニクみたいな香辛野菜はあってもおかしくはないので、生姜焼きみたいな食べ方はできそうだ。
そして、アライグマ(素焼き)。
うーん……個人的な感想としては、レバー。やっぱり鉄分が多いのかな、獣臭とも合わさってすごくレバーな感じがする。でも、肉質はあっさりしていて美味しい。
最後に、アライグマ(酒)。
やっぱりレバー。アナグマ同様、臭いは減っています。美味しい。
嫁「私は馬肉って感じがする。ジンギスカンとかにしたら美味しいんじゃないかな。脂身が少ないからジャーキーとかに向いていると思われる」
ジャーキーと言われると、ミラン君が非常食で作ってそうだ。
田畑を荒らす害獣はイノシシだけじゃないだろうから、収穫の時期にはミラン君は大忙しと思われる。そうやって狩った獲物を干し肉にして貯蔵するミラン君……書いてはいませんが、秋の日常のシーンとして容易に想像できますね。
そんなことを考えながら、あっという間に完食。
資料としてはとても有意義だったと思います。
ただ……二つ合わせて、おおよそ五千円の出費かぁ。資料集めも安くはないなぁ。ここでやめるつもりもないんですが、せっかく投資したのだから、これらの体験はどこかで活用したいところです。
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