第137話 創作にまつわる検証のあれこれ(3)

 年度末は地獄でした。

 そして、年度始めもなんやかんややることが多くて地獄。

 気がつけば、最後にエッセイを更新してから一ヶ月が過ぎようとしています。


 まあ、仕事が忙しかっただけではなく、月初めに身内の不幸があって、通夜やら葬儀やらで奔走していたというのもありますが、このひと月はとにかく何か書くという心境ではございませんでしたのだ。


 とはいえ、何もしなかったかと言えばそうではなく、凝りもせずに変な肉にチャレンジする元気はあったようです。

 今回は、そんな元祖ゲテモノのあれこれ。


 かねてより、ヘビ肉にリベンジしたいと思っていました。

 生まれて初めてのヘビ肉は、素材の味を確かめたいとシンプルに焼いてしまったせいか硬すぎて美味しく頂けず、それがいつまでたっても心残り。煮たり揚げたりすれば、うまくいったのではないか。今度は調理法による違いを検証してみようと思い、もう何度目か分かりませんが、車を飛ばして変な肉を扱っているお肉屋さんへ行ってきました。


 ところが、店内のどこを見渡しても、イノシシやシカ、ワニはあれど、ヘビのお肉がまったくない。

 止むを得ず店員さんに聞いてみると、コロナの影響か、全然入荷しないので取り扱いをやめたのだと。


 ぬーん。非常に残念でなりません。私の行動範囲で行ける、唯一のヘビを取り扱うお店だったのですが……。


 とはいえ、手ぶらで帰ってはガソリン代がもったいない。せめてものお土産にイノシシ、シカ、ワニ肉を購入しました。まあ、このあたりはジビエでも鉄板ですね。


 さて、こいつで何を作ろうか……そうだ。シチューにしよう。

 文明水準が低い時期の食べ物は、基本的には汁物。私の作中では獣肉はもっぱら焼いていますが、農村の食事形態を考えれば鍋が基本スタイルと思われます。


 牡丹鍋、紅葉鍋は定番としても、ワニ鍋はなかなかあるまい。

 それはそうとして、なぜシチューかと言えば、私が三年ほどシチューを食べていないからです。


 私はホワイトシチューもビーフシチューも大好きなのですが、どういうわけか私の周囲にはシチューが苦手な友人が多く、付き合っていく中で、自炊でも外食でもシチューを選択することが減りました。覚えている限りでは、最後に食べたのが三年前だと思います。カレーはめっちゃ食べるのですが。


 しかし、せっかく手に入れたワニ肉ですから、たまには自分のためだけに手間暇惜しまず好きな料理を作ってみましょう。なあに。ワニ肉なんて鶏肉とさほど変わらないのですから、シチューにしても美味しいはずです。


 案の定、ワニの肉は脂っ気がなく、想像以上に淡泊なシチューになりました。

 しかし、全然食べれます。美味しい美味しい。食感はまんま鶏肉ですよねぇ。ちょっと繊維のほぐれ方が鰤っぽいですが。


 しかし、ワニが食卓に並ぶ描写をすることがあるのだろうか。ワニが生息してそうな巨大な水源を舞台にする物語とか書く機会があれば良いのですが……。


 さて。三種の肉とは別に、お店で興味を惹かれたのがイノシシの

 出汁を取るためとは思いますが、骨を売っているのはなかなかないのではないか。豚の仲間だし(厳密には豚がイノシシの仲間)、やはり出汁はとんこつ味なのか。ちょっと興味がわいたので、これも検証してみることに。


 エインセル・サーガの世界観――特にファウナの庭や少女剣聖伝などの舞台となっている地方において、日々の調理において出汁を使うのはスタンダード。何せ内陸ですので、塩をぜいたくに使うことができません。なので、素材の味を最大限活かすような形に集約されると想像できます。


 だとすれば、出汁の意義はものすごく大きい。

 出汁が出る陸のものといえばキノコ類や豆類。日本ベースの食文化ではあるものの、幸いなことに(?)仏教由来の食材制限はございませんので、動物の骨からも出汁を取ることも当然のように行われているはずです。だったら、害獣駆除の結果、食卓に並びやすいイノシシからも出汁を取っているんじゃないかと。


 検証前の懸念としては、とんこつ出汁は取り出すのにめちゃくちゃ時間がかかるということ。ネットで調べたところ、八時間ほど煮出してようやく取れるそうです。イノシシも豚とそんなに変わらないだろうと推測できるので、そんな長時間火にかけるとなれば薪代がすごいことになりそう。あまり現実的じゃないかな?


 何はともあれ検証開始。ネットでとんこつ出汁の取り方を見てみると、まずは骨を砕けと書いてある。


 骨を……砕く……?

 やってはみましたが、これが砕けない。いやもう、本当に砕けない。よく漫画なんかでモンスターを一刀両断するシーンがあるけれど、骨ごと断つってマジで生半可じゃない力がいる。おまけに、手持ちに適した道具がない。お手上げです。


 しょうがないので、骨はそのまま鍋にぶち込み、臭み取りにネギを放り込んで、着火。強火でグラグラと煮出します。


 一時間経過。ちょっと味を見てみる。ネギの甘みがわずかにあるものの、まったく味がしない。

 二時間経過。ちょっと味を見てみる。まったく変わらない。

 何度も水を注ぎ足し、結果、三時間粘ったものの……私はコンロの火を落としました。


 いや無理。ガス代が怖い。車の保険料だって払わなきゃいけないのに、本当に八時間もぶっ通しで火にかけるなんて蛮勇は私にはなかった。覚悟が……足りなかった。


 でも、鶏ガラが一般的に使われるようになるのがわかりますねぇ。二、三時間くらいで済むのなら、そっちがお手軽ですもの。


 こりゃあ、私の世界でとんこつスープが庶民に定着するのは難しいか?

 案外、高級料理なのかも知れぬ。とはいえ、臭いから宮廷料理とかには向かないな。うーん。一考の余地がある。まあ、それが体感できただけでも収穫でしょう。


 途中とはいえ、せっかく作ったのでスープは頂きます。

 そのままでは味気がないので醤油と酒で割り、ついでに麺をぶち込んで即席ラーメンにしてみました。結果、全然食べれます。


 とんこつかと言われると否ではありますが、ちょっと臭みとコクがあるので、微量ながら出汁が取れたのではないでしょうか。でも、これは醤油が凄いという話でしょうね……。


 次回があるなら、骨を粉砕できる道具と八時間煮込んでも大丈夫な環境を用意して再チャレンジしたいと思います。あー、見切り発車で実験するものじゃないなぁ。

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