第134話 カラーパイのあれこれ
カラーパイという概念をご存知でしょうか?
もし、ご存知の方がいれば私と同好の志。ご存知でない方は、せっかくなのでこれを機にちょっと興味を持ってほしいと思います。
カラーパイとは、世界初のトレーディングカードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」に登場するゲーム概念です。
簡潔に言えば、コンピュータRPG作品によく登場する【属性】のようなもの、とお考えください。
マジック:ザ・ギャザリング(以下MTG)において、プレイヤーは『プレインズウォーカーと呼ばれる魔法使いである』という設定を持っています。
無限に連なる
その雰囲気を守るため、ゲームで使用するデッキ(対戦に使うカードの束)をライブラリー(呪文書が収納されている図書館)と呼びますし、現代まで続くカードの新弾セットの発売も『新しい次元が発見されたよ。君がプレインズウォーカーなら足を運んで当然だよね』という導入であるため、拝金主義的な嫌味がない。ただのおもちゃ販売にこれだけのこだわりを見せるあたり、さすがメイドインUSAと言ったところ。
そんなわけで、現実世界の私たちはカードをテーブルにペシペシと叩きつけているだけですが、脳内のイメージ映像では妖しげな呪文を高らかに唱え、巨大なドラゴンを召喚したり、荒れ狂う炎で敵の軍勢を焼き払ったり、精神を狂わせて敵対する魔法使いの詠唱を妨害したりしているわけです。
そして、我々(?)が使う魔法はそれぞれ固有の色を持っています。
例外はありますが、基本的には白の魔法、青の魔法、黒の魔法、赤の魔法、緑の魔法の五種類が存在し、それぞれに得手不得手、価値や判断、行動の基準となる考え方があります。冒頭で登場したカラーパイという概念は、それぞれの色に対応した機能的な特徴、ならびに背後にある思想関係を指す言葉なのです。
ということで、以下に各色の思想と関連性を列挙してみましょう。
詳しい解説は本家にお任せするとして、私の所感を交えつつ、簡潔に記したいと思います。
◆◆◆
【白の魔法】
キーワード:秩序、集団、平等、善悪。
代表的な呪文効果:天使や騎士の召喚、信仰による加護、敵生物への粛正。
白は平和を求める。社会全体が互いに助け合い、道徳と法を守ることで全ての人々が平和に暮らすことができると考えている。そのため個人より全体を重視し、全体のために奉仕することが個人ができ得る美徳だとしている。
積極的な侵略はしないが、秩序の維持するために戦うことは否定しない。また、共同体の和を乱す者には厳しい処罰を行う。一人一人は小さな力しか持たないが、法と秩序によって五色の中で最も規律を持った軍隊を作ることができ、集団戦法を得意とする。
そういう性質なので、個人の利益のために法を破ることも厭わない『黒』や、めいめいにやりたいことをやり始めて足並みを揃えられない『赤』とは仲が悪い。
【青の魔法】
キーワード:研究、向上、知性、未来。
代表的な呪文効果:敵対呪文への妨害、時間・精神操作、知識の蓄積。
青は完璧を求める。全ての存在は無地のキャンパスであり、その方法さえ知っていれば誰でも望む未来を手に入れられると考えている。その実現のためには知識を収集し、技術を研鑽しなければならない。また、目的を達成するためには確たる人生の設計図が必要であり、感情を排して理性的に物事を進めることを善しとする。
そのため必要以上の戦いを好まず、優位な土壌を築いて相手を攻めさせない、妨害工作を駆使して敵の戦意を削ぐなど、戦わずして勝つような戦術を得意とする。
そういう性質なので、衝動的で快楽主義の『赤』や、本能に従って発展を求めない『緑』とは仲が悪い。
【黒の魔法】
キーワード:結果、損得、自立、支配。
代表的な呪文効果:悪魔や死者の召喚、敵生物の殺害、代償を伴った万能性。
黒は力を求める。徹底した利己主義であり、自分の利益を最大限優先する。目的のためには手段を選ばず、それが目的を達成する最短の道筋であれば他者を犠牲にすることも厭わない。時には死者を弄ぶこともする。しかし、『黒』はそれを悪とは思っていない。人間は誰だって利己的な生き物であり、誰もが自分の利益を最大化しようとして生きているのだから。
力があれば何でもできるという考えは資本主義の体現とも言え、事実、『黒』の魔法は金=力=魔力さえあれば、おおよそ大抵のことができる。それこそ、死んだ恋人を蘇らせるような奇跡でさえも、代価さえ支払えれば可能なのだ。
そういう性質なので、法や道徳を押しつけて手段を制限する『白』や、我が子の食糧として自身を提供するといった利害関係のない愛情を体現する『緑』とは仲が悪い。
【赤の魔法】
キーワード:感性、行動、正直、熱意。
代表的な呪文効果:ドラゴンやゴブリンの召喚、稲妻や火球による攻撃。
赤は自由を求める。自分の感情に従い、それを成すことが個人が幸福であるための手段と考えている。非常に行動的で情熱的な色で、何かをしたいと思ったら即座に実行に移す。後先のことなど考えない。考えているうちにチャンスを逃したらどうするのだ。例えば、学校で早弁をするのは正に『赤』の行いである。昼休みまで待て? 俺はいま食べたいんだ。
どのような理由があっても自分の行動を邪魔されるのを好まず、それを破壊してでも押し通ろうとする攻撃性も持っている。集団を形成することはあるが、規律が取れていない烏合の衆であることが多い。
そういう性質なので、集団のために個人を法で押さえつける『白』や、感情を排する『青』とは仲が悪い。
【緑の魔法】
キーワード:調和、伝統、本質、自然。
代表的な呪文効果:エルフやビーストの召喚、急激な成長、人工物の破壊。
緑は受容を求める。自然の体現であり、ありのままの世界を愛している。生命は遺伝子や本能によって役割を与えられており、それに応じて生きるのが正しいと考えているため、食うことも食われることも、その役割に殉じた結果に過ぎない。
とはいえ、弱肉強食の理を持っているため、食べるために獰猛に戦い、また自分を食べようとする相手には力強い抵抗を示す。
そういう性質なので、自分の役割を自分で設計し、文明を発展させようとする『青』や、自然の役割を超えて自分のためだけに必要以上に奪う『黒』とは仲が悪い。
◆◆◆
こう書き出すと、『白』の魔法、および『白』の魔法使いは正義のヒーローという感じですし、『黒』の魔法使いは目的のためには手段を選ばない悪逆非道な敵役といった感じを覚えますよね。
しかし、それは一側面だけ。カラーパイの重要なところは、各色の長所だけではなく短所を明確に規定しているところなのです。
例えば、一見すると正義の『白』ですが、見方を変えれば、全体主義のためには個人は容赦なく切り捨てられる。法で定められたことは、個人の生命の危機であっても例外処置が取れない融通の利かなさがあります。この特色が強く出ると世界は
対して、『黒』はいかにも邪悪という感じではありますが、個人の利益を追求することは一概に悪とは言い切れません。そもそも現代の会社組織などというものはまさに自社の利益がすべて。経営者が利益を得るからこそ、そこで働く社員は給料をもらえるわけですから、経営者が利益を追求しなければ社員は路頭に迷ってしまいます。往々にして悪の組織が資金潤沢なのは、個人の利益を追求した結果であります。
更に付け加えるなら、『赤』は衝動的で後先考えない快楽主義的な側面を持ってはいますが、同時に『敬愛する君主を逃がすために、たった一騎で敵軍の中に飛び込む』とか『全世界を敵に回してでも愛する人を守るために戦う』といった打算のない献身を発揮する一面を持っています。これが『青』なら、「その選択はコスパが悪い」と割り切って見捨てるところです。
どの色の魔法にも長所と短所がある。最強の色はなく、また正しい思想もない。
よって、どれか一つに偏らず、これらの色が万遍なく存在し、循環していくことが安定した世界である。五行説にも似た世界の在り様を表す哲学なのです。
それは実際のゲーム内の効果にも表れており、MTGにおいて最強のデッキは存在せず、その時々で最適な選択があるのみ。弱いとされていたカードが環境の移り変わりで強くなったり、それに対抗するためのカードが脚光を浴びたり、それによって新しい戦術が開拓されたり――常に流動し続け、停滞しない。それはまるで一つの世界のように。
火とか水とか風とか、ファンタジーにおいて定番の四大元素にせず、思想によって属性を大別するという手法は、MTGを始めて20年が経っても感服しっぱなしです。この思想性があるからこそ、MTGは長きに渡って繁栄してきたのでしょう。
何分、学生の身分から嗜んできたゲームですので、私の創作においても多大に影響を及ぼしています。せっかくなので、自分の作品のキャラクターをカラーパイに当てはめてみましょうと思います。
■ファウナの庭より、ミランくん。
彼は間違いなく『緑』です。
造形している時から明らかにMTGのカラーパイの影響が見られており、作中でも人だろうと獣だろうと在り方を損なった相手を見ると違和感を覚えています。
一応、村社会に属してはいるので『白』要素もあるかもしれませんが……騎士嫌いだからきっと緑単色な気がする。能力的には弓使いなので到達。森に棲んでいるので森渡り、タップ能力でビーストか熊に4点のダメージとかかなぁ。絶妙に弱い。
■ファウナの庭より、ファウナ。
彼女は『緑』『白』『青』の友好混成色。
国立組織、人類の発展を促す研究者、そして自然を愛する三つの性質を持っているため三色マルチカラーに設定。
共同体のためだけでなく個人の完成のために動物を研究する姿もだけれど、時空系の魔法を使えるところも『青』要素か。
■せめて炊き立てのご飯をより、師匠。
彼女は『白』。
剣術なんてものは自分の身を守れる程度でよく、また、剣術を学ぶ人が減って貧困に喘いでも、それだけ世界が平和な証拠だと喜ぶ社会正義の人。
また、流派の掟を破ったレヴォルを、剣の師として粛正するのは『白』の行いとしてはとても正しい。
■せめて炊き立てのご飯をより、レヴォル。
彼は『黒』。
社会正義よりも個人の利益(母親の治療費を稼ぐ)を優先し、流派の掟を破って悪行に手を染めたため。掟を破った自分がいつか討たれるだろうという将来も見据えていたので、衝動的で無計画な『赤』ではありません。
■少女剣聖伝より、ローザリッタ。
彼女は『白』『赤』の敵対混成色。
王国貴族としての社会正義の理念は持っているものの、貴族としての理よりも個人の感情や信念を優先して(割と力づくで)武者修行の旅に出ていますので、立派に『赤』を含んでいます。周囲が止めているのに盗賊を迎え撃ったり、バニーガールになったりするのも『赤』要素でしょうねぇ。
……書いていて思ったのですが、カラーパイとは関係ないものの、この『白』と『赤』というワードは本編でも登場予定するかも。
みなさんも、自作品のキャラクターをカラーパイに当てはめてみて遊んでみてはどうでしょうか。書いている時には想像していなかった、意外な発見があるかもしれませんよ。
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