第128話 裏事情のあれこれ(3)

 時折、RPG作品を作りたいなぁと切に思います。


 ゲームの利点は、遊ぶ感覚でストーリーに触れてもらえること。

 小説では、そもそもにおいて活字というハードルがあります。普段、活字を読まない人はまず小説を読みません。しかし、小説は読まなくてもゲームはするよという人はある程度いるもので、小説の身で活動するよりは手に取ってもらえる機会は増えるでしょう。


 また、ゲーム作品に内在する情報量の多さも魅力です。

 例えば、武器や魔法の説明。村人の何気ない会話。ストーリーの主軸に沿わないお使いイベント等の番外的なエピソード。そういう無駄な情報を書きこめるという点においては、労力こそかかるものの、「ストーリーに必要な情報以外は書くべきでない」とされる小説よりも、設定書きの性分に合っていると思います。


 一番のネックはその作業量。

 ベースとなるシナリオ。イベント管理。素材の用意。デバック。私の経験では、クリア時間一時間程度のゲームを作るのに、仕事をしながらとはいえ2~3ヶ月を要しました。


 同じ時間をかけて、真面目に小説を書けば「長編一本行けるんじゃない?」という手応え。はてさて。どちらがより喜ばれるのか。


 最近はそんなことを考えてばかりですが、ゲームにまつわる話でちょっと思い出したネタがあったので、私自身の忘備録も兼ねてエッセイに書こうと思います。



◆◆◆◆


 現在不定期連載中の少女剣聖伝において、「ベルイマン古流剣術は、神代より存在した対神戦闘技術を対人にまで格落ちさせたもの」という表現が出てきます。


 じゃあ、それ以前の「対神戦闘技術」とはどういうものだったのか。おそらくこれを作中で書くことはないと思うので、私が憶えているうちに吐き出しておこうかと。


 エインセル・サーガの世界観において神とは、世間一般におけるオーバーロードを指しません。そういう存在がいた場合はカミサマと表現します。


 作中世界には『古の信仰』と呼ばれる土着の宗教観があり、樹齢何百年の大木や苔むした岩、とりあえずその地の人間が「なんかすげー」と感じたもの神様として扱われます。自然信仰や精霊信仰に連なる素朴な宗教観です。日本と一緒ですね。


 そういった神の定義には、人の手に余る巨大で凶暴な生物も該当します。具体例を挙げるならば夏になると海を渡ってやってくる【渡り竜】や、冬眠に失敗した巨熊【穴持たず】などがそうです。


 そういった巨大な獣は荒ぶる神として時折、人里に下りて被害をもたらします。環境破壊をテーマに取り扱ったファウナの庭では、人間が森への敬意を忘れて、単なる資源としてしか見なくなり身勝手に開拓を進めると、その傲慢を罰しに現れるとされています。実際は、森のエサがなくなったり、棲家を追われたりした結果ということも有り得ますが、基本的にその土地の人々はそう考えます。


 そういう『祟り』に対して、一般的には供物や生け贄を捧げたりして怒りを鎮めてもらうものではありますが、一部の脳筋かつ好戦的な部族は「自業自得とはいえ、こっちもただ殺されるわけにはいかないから討伐しよう。でも、神を倒して恨みを買うのは嫌だから、人間でない者にやらせよう。大丈夫、ちゃんと反省するから」と考え、人為的に怒れる巨獣を倒すための役割と技術を与えられた一族が生まれました。それが神狩りです。

(※詳しくはファウナの庭を読んで頂けるとありがたいです。)


 さて、その神狩り達が使っていた戦闘技法こそが『対神戦闘技術』です。

 この設定の大元は、私がかつて作成していたRPGツクール産の自作ゲームに端を発します。


 このゲームでは、よくある炎や水などの属性相性の代わりに、エネミーが有する特性と、それに対する武器の効果の有無が採用されていました。


 例えば、空を飛んでいる有翼系のエネミーには飛び道具(弓矢)が、機動力と突進力を持つイノシシなどの四足歩行系のエネミーには槍が、刃物が通らないような硬い鱗や殻を持つ甲殻系にはハンマーが有効……というように、武器によってダメージ効率が変動するようなシステムです。


 この敵にはこうやって対処する、あの敵はこうやって仕留める……という誰でも実行できる対処法マニュアルの確立は、試行錯誤を積み重ね、それを継承して純度を高めていくという人類の文化の象徴ですね。


 それに対し、神狩りは使う道具にはあまり影響されません。

 ミラン君は基本的に弓矢を使いますが、それは生活のための狩猟で使っているので一番手に馴染んでいるから、というだけです。神狩りの戦闘を支えるのは動植物の知識と、どんな環境でも十全に戦える肉体の強度と操作性にあります。つまり、武器の利点を身体能力で補うということに他なりません。


 神狩りの技は準三次元機動である「空渡り」を基礎として、そこから「羽食み」「牙折り」「殻砕き」という三つの技に派生します。


 羽食みは対空格闘。

 牙折りは相手の突進力を利用したカウンター。

 殻砕きはわずかに脆い個所を的確に捉えて、そこを破壊するガード崩し。


 手にした道具が何であっても弓、槍、ハンマーそれぞれと同質の攻撃ができ、相手を選ばないというのが、神狩りというジョブの真の強味なのです。


 更に、これら三つの技の熟練度が高まると「竜屠り」という奥義に開眼します。

 回避できない速度、防御できない角度、耐え切れない威力で放つという、まあ、そんな感じの技ですが、何せゲームの中の設定ですので、術理的にどういう意味なのかというのは今の私でもわかりません。


 少女剣聖伝では「空渡り」のみが奥義としてフィーチャーされていますが、それ以外の技たちは、より人間に対して効果のある形にコンバートされ、ベルイマン古流から暖簾分けされたとされるハイデンローザ流では「風の爪」「花の棘」「鳥の嘴」「月の牙」「雪の息」という五つの技に変化しています。


 名前の由来は花鳥風月と雪月花。薔薇の騎士ローザリッタに始まり、薔薇つながりから野薔薇ハイデンローザに転じ、そこから自然関係の名前になったと思われます。


 どこかで書きましたが、私の中で剣術のベースになっている鹿島神道流が生まれたのは茨城県。これまた茨=薔薇にまつわる要素が多いのは、本当に偶然でした。いつかこれらの設定を活かせるようなエピソードを書けるといいのですが。

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