第124話 ご指摘のあれこれ(1)

 先日、現在執筆中の「少女剣聖伝」に関するご指摘を頂きました。

 友人の知り合いの方が読んでくださっているようで、カクヨム内のコメント等ではありませんが、友人が仲介して私の元へと届けてくれたのです。


 ご指摘の内容を要約するとこんな感じ。


「キャラとか魅力的だし、設定もしっかりしているんだろうけど、(文章から)それが見えてこない。キャラのビジュアルや、どういう場所にいるのかモヤがかかる」


 しっかり読んで頂けただけでもありがたい話なのに、こうして悪かったところを指摘して頂けるのは誠にありがたい限りです。せっかく頂いたご指摘なので、少し真面目に分析してみようと思います。


 まず、モヤがかかる=イメージが沸きにくいというのは、おそらく私が作中でカタカナ語を使わないことが大きな要因と思われます。


 カタカナ語を排すというのは、私が異世界ファンタジーを書く時のこだわりの一つで、固有名詞を除き、台詞や地の文を問わず、できるだけ外来語を使わないようにしています。


 日本語はひらがな、カタカナ、漢字が混在する世界にも類を見ない言語です。スピードやタイミングなどの外来語も日本語として扱ってもおかしくはないはず。むしろ、そういった特性があるからこそ文章表現が奥深くなるというもの。


 であるにも関わらず、どうしてそんなみょうちくりんな書き方をするのか。

 その違和感を自覚したきっかけは様々ありますが、一例をあげるとするなら、池波正太郎先生の「剣客商売」でしょうか。


 時代小説において登場人物の台詞であれ地の文であれ、カタカナ語を用いたものは少ないと思います。それは何故かと言われれば、その時代に存在しない(または普及していない)概念だからでしょう。戦国時代の武士が素早い敵に対して「なんてスピードだ!」なんて言った日にゃ、一気に没入感が覚めるというものです。


 ところが、剣客商売(新潮文庫版)を読んでいると、34pの真ん中あたりにこういう一文があります。


「これらの人びとはいずれも、秋山小兵衛老人の庇護者パトロンだといってよいのである。」


 いくら地の文とはいえ、外来語が登場した時はびっくりしました。作風と言えばそれまでなのでしょうが、とにかく私はその一文に妙な違和感を覚え、さっきまで私が居たはずの安永の時代から現代に呼び戻された気分になったのです。


 以来、私は作品で使う言葉というものを吟味するようになりました。異世界ファンタジーであっても、易々と外来語を使っていいのか。異世界ファンタジーというものは異世界ファンタジー語で書かれているものを読者側の言語に翻訳したもの、という体裁を採っているものだとしても、会話文において「を売ってくれ。このロングがいい」というように日本語と英語が混在していいのか。独自の言語体系を生み出した方がいいのではないか。それが無理ならば、せめて可能な限り漢字表現にした方がいいのではないか……。


 そうやって試行錯誤した結果が、現在の固有名詞以外はカタカナ語を排すというスタンスの正体です。ご指摘いただいた内容は、まさにこの制約下で執筆したが故のことではないかと思います。


 キャラのビジュアルのモヤについては、例えば、ローザリッタの髪型は金髪ロングのポニーテールですが、作中では「馬尾結い」という造語、または「馬の尾のように結った」という表現になっており、流して読むとイメージとして掴みづらいのは確かだと思います。もっと読者にとってなじみのある言葉選びをしていたら良かったのかもしれません。


 また、どういう場所にいるかのモヤについては、連載しているうちに生じた私自身の変化によるものと思われます。


 もともとこれでもかというくらい背景描写を書きこむタイプだったのですが、近代のネット小説では、地の文で異世界情緒を説明するよりも、キャラクターの掛け合いや内面描写に比重を置いた方が喜ばれると思い、背景描写はできるだけ簡素にして、登場人物の内面の解説を意図的に多めにしてきました。その結果、説明が不足し伝えたり情景を表現ができなかったかもしれません。


 もちろん、この分析が全くの的外れであり、「単純に私の文章が下手なだけ!」という可能性も捨てきれないのですが。


 色々言い訳じみたことを並べてしまいましたが、こういった指摘があるのは本当にありがたいことです。自分で添削するには限度がある。誰かに読んでもらうことこそが一番の添削であり、物書きとしての気づきに繋がります。


 それだけでなく、この御仁はさらにこうも仰ってくれました。


「もし、追加できるなら主要キャラと世界地理について短くてもいいから説明や設定枠があるとありがたい。世界観の膨らませ方や登場人物たちの見せ方で読みやすくなると思う」


 既に20万字以上書いているので、最初から手直しするのは少々骨が折れます。それを気遣っていただいた上でのお言葉でしょう。つまるところ、物語が始まる前に登場人物紹介のようなものや用語解説のようなものを前置きしておいたらどうかという提案です。


 漫画でも動画でも、導入というものは読者のハートキャッチプリキュアしてなんぼ。読者に続きを読みたいと思わせるものでなくてはなりません。

 そう理屈ではわかっていながら、なんだあの序章は。読者によってはアレを読んだ時点で続きを読むのを諦めてもおかしくない……と自分でも思います。


 そういった初見離れを少しでも減らすために、物語が開始する前章に登場人物紹介などを付け加えて緩和を測ろうというアイディアは、以前にエッセイでも述べた(と思う)ことですが、図らずもそれと同様のご指摘があったということは、やはり増設した方がいいという気がしますね。現在、書き進めているヴィオラ外伝が書きあがったら一考してみようと思います。


 それにしても、繰り返しますが、こういうご指摘は本当にありがたい。どんな些細なことでも構いません。どんどん欲しいところです。


 でも、罵詈雑言は辞めてね!

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