第122話 ゲテモノのあれこれ(6)
去年の10月末、私の職場でコロナの陽性騒ぎがありました。
もともと外出自粛が定着していた時世ではありますが、職場から「さらに徹底を」ということで輪をかけて人が多い場所に行くことが憚られるように。
まあ、もともとインドア派の人間なので、外出制限など痛くも痒くもない。これまでどおり、ヲタライフを満喫すればいいだけの話。
ところが。
その直後、いろいろあって、昼の間は屋外に出なければならない状況が発生。具体的には10時~15時まで部屋に籠ることができなくなりました。しかも、期間は二週間。結構長め。
三密の回避。外出の強制。「両方」やらなくっちゃあならないのが「社畜」のつらいところだな。
そんな板挟みにあった私が、無い知恵を絞って出したのが、ダム散策でした。
ダムは基本的に山の中にあるので人気が少なく、されど人工設備なので道路もあれば駐車場もあり、更にはトイレも設置してある。場合によっては自販機もある。三密を回避しつつ、けれども外出しなければならなかった私にとって、これ以上ないほどのお出かけスポットでした。
構造物としてのダムにはあまり関心はありませんが、元来が生き物が大好きな性分なもので、自然豊かなダムの近辺は、ただそこを歩いて回るだけで様々な動物や植物を眺めることができる素晴らしいもの。越冬前のミヤマクワガタを見つけた時はもう幼少期に戻ってしまったのかと思うほど興奮しました。
以来、私は時間を見つけては車で行ける範囲でダム散策をするようになり、その過程で川へ赴くことも増えました。なんせ、ダムというものは川を堰き止めているわけですから、ダムへ行く過程で何本も川をまたぐのです。
そして、ふと思いました。
そうだ。サワガニを食べよう、と。
――ということで、今回のゲテモノ紀行はサワガニ。
これまでのゲテモノは購入がメインでしたが、遂にハンティング&イートを決行することに。
本当は前段階でザリガニ案とタニシ案もあったのですが、周囲から「絶対駄目」と強い反対があり、今のところお蔵入りなんですよね。
え? なんで駄目かって? あいつら寄生虫がヤヴェのですよ。
いろいろ交渉した結果、サワガニならいいとのこと。
まあ、サワガニなら私も母方の祖父とよく捕まえに行っては食べてたのでオーケーが出たのでしょう。いや、こいつにも寄生虫はいるんですけどね?
あーあ、タニシやりたかったなぁ。
池波正太郎先生の剣客商売に出てくるタニシの味噌汁とかシジミの味噌汁より美味しいらしいし。私の作中でも登場した沼貝も、もちろんタニシがイメージソースなわけで、一度くらい淡水貝を食してみたかった。
とはいえ、周囲を心配させてまでやることでもないですし、ここはサワガニで手を打ちましょう。
そんなこんなで、以前、サワガニを発見した川の上流域へ訪れた私。
下流域でもいいですが、なるたけ綺麗な水質に棲んでいるやつらが気持ち的に安心できますからね。
数年前に購入したバードウォッチング用のブーツを履いて、意気揚々と河原へ。
ハンティング開始直後に、浅瀬を歩いていた一匹をそのまま捕獲。
二匹目はでかい岩の隙間に逃げたのでロスト。残念。
三匹目はちょっと水深が深いところ。必殺兵器の網を伸ばして、反射的に鋏で網を挟んできたところをそのまま回収。なに、君。食われたいの?
まだ二匹。もうちょっと欲しい。
ちょっと離れた場所に移動するとアブラハヤが泳いでいるのを見つけ、サワガニそっちのけで捕まえようとして目的を見失う。
そんな私を正気に戻したのがカラスの声。
随分近くで鳴いているなと思ったら、カラスが私の荷物を荒らしているじゃありませんか。全力でベースに戻って追い払う。おのれ。鳥獣保護法がなかったら食ってやるのに。
あまり拠点から離れると荷物がカラスに狙われるので、二匹で我慢することに。
さて。いかにしてこいつらを幻想飯っぽく食ってやろうか。脳みその中にミラン君に問いかけてみる。
◆
ミラン「淡水の蟹? あいつら、実なんてほとんど詰まってないんだから、素揚げで殻のまま食べるしかないだろう?」
私「一応、あの時代の世界にも搾油のための植物も技術は用意しているけどさ、街の人間はともかく、ミラン君がいるような辺境の村じゃ、なかなか揚げ物って食べられないんじゃないの?」
ミラン「……蛇は揚げ物に限るとか、俺に言わせてなかったか?」
私「あの時は考えが足りなかったんだよ。中世日本で油が貴重だったのは、西洋ほど搾油植物が生産されてなかったからで、逆に、それさえ用意すれば揚げ物が身近になるじゃんって思って。ミラン君に揚げ物って言わせたのは、この世界には搾油植物が生産されてますよって暗喩表現であってだな(以下略」
ミラン「で、今の設定では違うと?」
私「違うというか、回を重ねるごとにミラン君のイメージが狩猟採集の文化の男になっていって、とりあえず自給自足できるものを使うって感じ。揚げ物するだけの油を用意するのは、ミラン君個人じゃ難しいでしょ?」
ミラン「それはさすがに手間だな。つまり、油を使わずに淡水の蟹を食べろということか。じゃあ、もう汁ものしかないな。実を食べるというより、出汁として使うんじゃないか?」
私「つまることろ味噌汁?」
ミラン「そういうことだ」
私「じゃあ、サワガニの味噌汁を作ろう。食べたら作中に反映するね」
ミラン「終わった作品はいいから、早く少女剣聖伝の続き描いてやれ。何年放置する気だ」
◆
という、事前に濃密なシミュレーションしていたにも関わらず、味噌を忘れるという失態を犯した私。しかたないので、素揚げで食べます。
母方の祖父とサワガニはよく獲っていたと前述しましたが、肝心の調理はいつも祖父が行っていたため、私にとってはこれが人生初のサワガニ調理です。
ペットボトルに入れていた綺麗な水でサワガニの表面をざっくり洗い、水気を切ってから加熱した油に投入。すると、一瞬で色が変わり、甲殻類のすげぇいい匂いが漂ってきました。確かにこれは美味しそう。
でも、それは最初だけ。なんやかんや寄生虫が怖いので五分ほど揚げましたが、ここまでくると風味は消し飛び、ちょっと焦げたような色合いに。でも、安全第一。
余分な油を切って、軽く塩コショウ。熱いうちに殻ごとボリボリ。
感想としては、ウナギの骨せんべい。うまい。うまいけど、だからこそ味噌を忘れてきたのが悔やまれる。今度は絶対味噌汁にしよう。野草とかも入れて。
終わりに。
もし私が連絡途絶した時は、肺吸虫症に罹ったものとお思い下さい。
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