第118話 二次創作のあれこれ

 長らく小説を書いていると、時折、二次創作物を書きたいと思うことがある。

 とはいえ、思うだけで終わることが多く、実際に私がしたためた二次創作物は非常に少ない。


 理由はいくつかあるが、一番は、二次創作に注力したところでプロにはなれないということ。二次創作はその特性上、どうしても版権と絡む。プロになるということはお金が生じるということで、その力量を買われて別作品でプロ入りするケースもあるかもしれないが、その作品そのものが商品になることはまずないと思うし、掲載できる場所も限られる。


 そんなわけで、私は一次創作メインのカクヨムを活動拠点としているわけだが、やっぱり小説書きである以上、魅力的な題材を前にすると、「わしもこれ書きてぇ」という欲求が湧き上がってくる。困ったことに。オリジナルのウルトラマンとか仮面ライダーとか、どれだけ夢想したことか。


 そして、一度アイディアが生まれてしまうと、しばらくはそれをどう書いてやろうか、という思考に囚われてしまう。私の悪い癖である。やるべきこと、やらなきゃいけないことはたくさんあるのに、頭がそれで一杯になってしまう。


 本来なら、ここで話すべきことでもないのだが、私には創作以外にも趣味が多様に持っている。その一つがMTG。世界最古のトレーディング・カードゲームである。これについては過去に幾度か話したと思う。


 私は、このMTGという芸術品が世間に認知され、もっと盛り上がってもらいたいと切に願っている。私はMTGから多くのことを学んだ。いや、今も学ばせてもらっている最中だ。このゲームで言えた知識や考え方は小説でも大いに活かされている。私という創作家もどきを生み出した骨子の一つである。間違いなく。


 だから、いつか何らかの形で恩返しがしたいとずっと考えていた。

 どの業界もそうだが、その商品を長続きさせるためには新規層を継続的に開拓していかなくてはならない。既存のプレイヤーはどうしてもいつか辞めていくだけの存在なので、それを埋める新規層を獲得しなければ辞めた数だけ総人口が減っていき、それに比例して売り上げが下がるので、衰退の一途を辿ってしまう。MTGは全世界規模で展開しているし、国内における往年のファンも多いが、それでもこの業界に例外はない。


 近年、私がSNSでファンアートを掲載しているのは、イラストを通じて少しでも多くの人にMTGに興味を持ってもらいたい、あるいは参入するきっかけになってほしいからだ。私程度の画力でどうなる話でもないし、全世界に恥を晒すだけかもしれなかったが、わかっていても止められなかったのだ。


 しかし、私にとって絵を描くというのは過去の遺産。

 才能もなければ、練習時間も確保できず、これ以上の進歩はあまり望めなない。私が持ち得るスキルで最も精度が高いのは、やっぱり小説なのだと思う。


 書いたところで盛り上がるかは不明だが、MTGを題材にした小説を書きたい。

 だが、そう思っても、やはり冒頭で書いた理由が邪魔をして、なかなか執筆するには至らない。結局は脳内で妄想して楽しむだけ。発信できなければ――人の目に触れなければ、作品は完成しない。永劫未完の作品を運命づけられ、そのもやもやっとした感じが非常に辛かったりする。


 このままじゃいけないので、エッセイの場を借りて少し吐き出そうと思う。

 つまり、理由諸々を取っ払って、好き気ままに私が書くとするならどういうものになるのか、という思索である。



【傾向と対策】


 世の中にMTGの二次創作はたくさんある。

 大部分は漫画か動画だと思われるが、小説はどれほどあるのだろうか。ちょっと調べてみないとわからないが、調べ物に限られた休日を費やすのも虚しいので、過去の経験と情報をもとに考えていくが――私の経験上、MTGの二次創作物は『ゲームの対戦内容を記載したもの』が多数だと思う。


 そういった作品群に散逸される点として、主人公の動機が曖昧なものが多いことが挙げられる。


 なんとなくカードショップに立ち寄る。友人に暇そうだから手伝ってと誘われる。イラストを見て一目ぼれ。そういった理由の導入が多く、主人公の必然性が薄いように感じる物が目立つ。


 これは道理で、筆者が見せたいものは『対戦内容』なのだから、キャラクター描写にかける時間がもったいないという判断だろう。読者側も対戦描写が読みたいわけだから、さっさとキャラ紹介を終わらせて、試合をしてくれた方が望ましい。そういう事情なのだろう。


 そして、人物描写に反して、ルール説明が長い。

 これも上記と同様の理由で、書きたいことが『対戦内容』だから。こういう試合を見せたい。こういう戦術を考えたから見てほしい。そのためには読者に対してカードの説明やルールの説明が必要になってくる。


 MTGはルールとルールのぶつけ合い。

 有名な文言にして、カードゲームの基本原則、『カードはルールに勝つ』を提唱したのもMTGだ。通常、MTGではプレイヤーのライフポイントが0になったら敗北するが、『敗北しない』と書かれているカードを使えば、0になってもマイナスになっても敗北したことにはならない。これがカードはルールに勝つ、である。


 なので、まずは従うべきルールを、そして、それを覆し得るカードの説明をしなければ作中において解説・描写することができない。ましてや絵による視覚効果を全く期待できない小説であれば、なおのこと解説が多くなってしまうのもやむなしと思われる。


 しかし、個人的にはこの行為は矛盾していると思う。

 いや、効果的ではない、か。

 既存プレイヤーは詳しく書かずともある程度内容が理解できるので、過剰な解説はただ読み進めるテンポを削ぐだけ。反面、MTGを知らない読者はその情報量についていけず、読むことに抵抗が生まれ、離れていくと思われる。


 ここのバランスが非常に難しい。もう絵でやってくれという話だ。

 と言って投げてしまっては思索の意味がないので、一応の結論は出そうと思う。


 まず、読者層を絞る。

 私はMTGが盛り上がってほしいという動機で書くのだから、ターゲットにすべきはMTGを知らない読者である。


 だとすれば、前述のようにルールや効果の解説は最小限に留めて、最後まで読んでもらうことを目標とする。MTGの最大の魅力は優れたゲーム性であるのは疑いようのない事実だが、興味を持てば勝手に調べてくれると思うので、いかに興味を持ってもらうか、その演出に注力すべきだろう。


 ここで名著『ヒカルの碁』を思い出して欲しい。

 あの漫画は囲碁漫画だが、解説らしい解説は最小限で済ませている。漫画という媒体の違いもあるが、一から十まで状況を説明せず、人間ドラマ・ヒカルの成長譚に比重を置いている。ここもやはり計算的で、囲碁という奥深く面白いが、(率直に申し上げて)地味で迫力に欠けてしまう題材を、メイン読者である小・中学生に興味を持ってもらうために、まずストーリーを重視したのが窺える。


 つまり、私が取るのもこの路線であるべき。

 そのことを踏まえ、実際にプロットを立ててみようと思う。



【大まかなプロット】


/1


 自分に自信がない女子高生・ぎゃざ子(仮)。

 特に男性が苦手で、目を合わせることもできない。

 電車通学をしているぎゃざ子は、うっかり寝坊してしまい、家を出るのが遅れてしまった。一本遅らせても登校時間には間に合うが、その時間帯は通勤ラッシュ。


 ぎゅうぎゅう詰めの車内で、ぎゃざ子は痴漢に遭ってしまう。

 嫌悪感と恐怖心で心がすくみ、助けを求める声も出せない。このまま成すがままにされてしまうのか。その瞬間。

「――そこのあなた、そんなことしていると痴漢と勘違いされるわよ」

 そんな声が響いた。



/2


 次の駅で、痴漢はそそくさと降りて行った。

 助けてくれたのは、同じ学校の、名前を知らない生徒だった。


 礼を言うぎゃざ子。生徒は自らをマジ子(仮)と名乗り、「ああいう時、痴漢ですって叫ぶと、相手を刺激してもっと酷いことをされるかもしれないからね。こういうのが一番スマートね。いわゆる魔法の言葉ってやつよ」と笑った。


 目的の駅で降りた二人。マジ子はぎゃざ子を気遣って学生鞄を代わりに持つ。

 ぎゃざ子は内心を吐露する。発育が早かった自分は昔から好奇の目に晒されてきたこと、でも、内向的な自分はそれに異を唱えられなかったこと。自分に自信がないこと。変わりたい、と切に願う。自分を助けてくれたマジ子は、自分のなりたいかっこいい女の子そのものだった。


 学校についた二人は違う教室へ。

 ぎゃざ子は自分の教室で鞄を開くと、内容物からマジ子の鞄と入れ替わっていることに気づく。その中にMTGのデッキが入っている(その時点では興味はない)。


 ぎゃざ子はマジ子のクラスまで赴き、鞄を交換する。

 マジ子は安堵し、デッキの中身を確認。「同じ学校でよかったわ。これがないと今日の大会に参加できないところだった」とこぼした。


 放課後、ぼんやりとさっきの言葉を反芻するぎゃざ子。

 帰りの電車に乗るのが恐かった。魔法の言葉を教えてもらっても、今の自分にそれが言えるとは思えなかった。また一緒に乗ってくれないかと今日出会ったばっかりのマジ子に頼むのも気が引ける。それに大会があると言っていた。


 そういえば、何の大会だろう。さっきのカードと何か関係があるのか。ぎゃざ子はスマホで大会について調べる。近所のカードショップで平日大会があるようだった。


 ここにいけば、また会えるかもしれない。あわよくば、一緒に帰ってもらえるかもしれない。ぎゃざ子は行ったこともないカードショップに向かった。



/3


 ぎゃざ子はスマホで調べたカードショップを訪れる。

 店内には男。男。男。ぎゃざ子は今朝のことを思い出し、逃げ出したくなる。

 もう帰ろうと思った時、対戦テーブルでカードを繰るマジ子を見つける。


 自分よりも明らかに年配の男性を相手に、マジ子は物怖じせず攻め立てる。

 ぎゃざ子にはまったくわからない専門用語を言いながら、勝利。

 マジ子は互いに健闘を称える握手を交わす。体も大きくて、年齢も上の男をまったく恐れず、対等に。

 その姿を見て、ぎゃざ子はマジ子への憧れが確固たるものになる。


 試合を終えたマジ子がぎゃざ子の姿に気づくと、ぎょっと目を見開く。「男嫌いのあなたがなんでこんなところに」と慌てて店外へ連れ出す。


 落ち着いた場所で、ぎゃざ子は「自分もあなたみたいになりたい! このゲームを始めたら、私もあなたみたいになりますか!?」と気持ちを伝える。


 かくして、ぎゃざ子はマジ子の指導の下、MTGの世界に足を踏み入れることとなる。



/4


 目標はMTGで男性プレイヤーと戦って、勝ち、自信をつけ、男に対する恐怖感を払拭すること。


 幾多の練習の末、ぎゃざ子は大会に参加する。

 男性プレイヤー相手でもしっかりとした意見を述べられるようになり、勝利をもぎ取った。戦績は振るわなかったものの、自分の成長を実感する。その瞳に、以前の小動物のような弱々しさはなかった。


 その帰り道。

 夕日が眩しい街路を歩きながら、ぎゃざ子はマジ子に言う。


「ちょっと調べたんですけど、MTGのプレイヤーも次元渡りの魔法使いプレインズウォーカーって設定じゃないですか」

「それが?」

「自分を変えるきっかけをくれたあなたこそが、わたしにとっての魔法使いだったんだなって」

 はにかみながら、応えるぎゃざ子。

 マジ子は照れながらそっぽを向く。



/終


 後日、ぎゃざ子は再び痴漢に遭う。

 今の自分は、昔の自分ではない。もらった勇気がある。模範すべき姿がある。勇気の原型がそこにある。


 わたしは、痴漢撃退のための魔法の言葉を口にした。



 という感じになるだろうか。

 あるいは、終章は数年後、ぎゃざ子が誰かを助ける魔法使いになるエンドもいいかもしれない。

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