第93話 火熾しのあれこれ

 異動かぁー。したくねぇーなぁ……(げんなり)。

 これまでにもあっちこっちに飛ばされてきた私ですが、従来の異動はセブンイレブンのA町店からB町店に配属が変わるような、前回のスキルをそのまま流用できる席替えの的なものが主だったのですが、今回はセブンイレブンからファミリーマートに転属するような感覚。


 両者ともコンビニで、やっていることの大枠は同じでも、方針から何から違うためどうしても異動先のやり方を新しく自分にアップデートする必要に迫られる。さすがにこの歳になると、新しいことを覚えるのに時間がかかるというか、抵抗がでかい。きっと苦痛の連続であることは間違いないでしょう。いや、別に私の仕事はコンビニ経営じゃないんですがね。


 ……と、愚痴っても現実(異動)が変わるわけではないのですが、愚痴らずにはいられないほど精神的にグロッキーな私。


 だからというわけではないのですが、今回はかねてよりやってみたかった原始的火熾しをやってみました。


 いわゆる摩擦法による発火。

 よくアニメとかで見かける、木と木を擦り合せて火を点けるアレ。


 人類の歴史は火あってのもの。

 自発的に火を熾すことで人々は暖を取り、闇を照らし、肉を焼き、鉄を鍛え、文明を発展させてきました。所詮、人間は猿の亜種。火なくしてはここまで自然界で幅を利かせることはなかったでしょう。


 火と言えば、私はギリシャ神話のプロメテウス関連の逸話がとても好きです。


 プロメテウスは闇を恐れ、獣に怯え、寒さに震える地上の人間たちを哀れに思い、彼らに火を与えようとしました。


 しかし、火は神々の宝。人間がもし火を手にしたら、我々同様の力を得て、オリュンポスを荒らしくに来る。戦争の絶えない時代が来る、とゼウスはそれを止めます。


 ですが、プロメテウスはそれでも人間に対する愛情から、ゼウスの目を盗んで人類に火を与えました。


 プロメテウスの行いにゼウスはキレますが、彼は「一度与えたものは神であっても奪うことはできない」と嘯き、自分のやったことを誇りながら大岩に縛られる罰を受けたそうな。

(文献によって経緯に差異があるでしょうが、私が最初に読んだものはだいたいこういう表記だったと思います)。


 火は神殺しの概念。

 かの名作、「仮面ライダーアギト」においても、主人公の最終形態が炎と光なのはルシフェルの暗示です。

 光を司る堕天使は拡大解釈すれば太陽、すなわち火の権化。その力を以って神の支配からの脱却、人類の自立の象徴として描かれたものでしょう。


 まあ、そういった薀蓄は聡明なカクヨム読者様には釈迦に説法かも知れませんが、とにかく火というものは神から与えられた素晴らしいものなのです。


 ということで、私も人類の端くれ。小説の資料集めも兼ねて、実際に文明の利器を使わずに火を熾してみよう。


 今回やってみるのは舞錐式火熾し。

 弓錐式とは違い、フライホイールを搭載したぶんぶんゴマのような感じの発火器具です(ぶんぶんゴマって知っている人いるの?)。


 自作しても良かったのですが、時間がなかったので学校教材として売ってあるものを通販で購入して使用。というか、今の子供たちはこういうのを授業でやるのか。いいなぁ。


 あくまで聞いた話ですが、2011年の東日本大震災以降、学校教育においては従来の学力一辺倒の授業ではなく、有事の際に生き抜くための知識や体験に力を入れているそうです。自分たちが信じていた「安全」というものが幻想だったと思い知らされた出来事でしたからね。無理もないでしょう。


 汗だくになりながら擦り続けること3分ほど。

 摩擦面から白い煙が上がり、黒々とした火種ができあがりました。それを燃えやすい柔らかい紙(今回はティッシュペーパー)の上に溜めて、ゆっくりと息を吹きかけけると、そこからじんわりと燃え広がって発火。ライターもマッチも使わずに、生まれて初めて火を熾すことができました。


 所要時間は5、6分。

 意外と短く感じますが、結構な仕事量。昔の日本で火事が多かったのは、この作業を何度もしたくないから種火をできるだけ長く保管する風習があったからだ、という説もあながち間違いじゃない気がしてきた。


 せっかくなので、それをBBQグリルに移して炭火を熾し(さすがに着火剤を併用しましたが)、マシュマロを焼いて食べることに。


 マシュマロうまー。


 さすがに室町時代くらいの文明レベルで設定しているサーガ世界では火打式発火が一般的だと思われますが、ミランくんあたりなら普通にできそうですね。


 いつか大自然の中で渓流釣りでもしながら火を熾したいもの。「どうだ、調子は」とか言いながら、差し入れを持ってひょっこり現れてくれそうな気がします。

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