第89話 友人Kからのお題のあれこれ
今回はプライベートから流れてきたお題。
「もし、白武士道が野球漫画を描くなら、どんなものになるのか?」
誤字ではない。「漫画」である。
文章書きである私に向けて、よりにもよって漫画に関する質問である。
これを送ってきたのは私の古い友人なのだが、彼は未だに私を漫画描きと思っている節がある。もう漫画なんて十何年も書いていないし、逆に小説は十何年と書いているというのに。
とはいえ、その発言自体が面白いので採用することにした。
私は野球漫画は嫌いではない。
父が野球部出身であるせいか、実家には野球漫画がそれなりに揃っており、小さい頃、一緒に読んでいたのだ。
有名どころで言えば水島新司先生のドカベンや大甲子園。ちばあきお先生のキャプテンやプレイボール。さだやす圭著作のなんと孫六。うーむ、実に昭和のラインナップ。もっとも、読むのが好きなだけで実地は全然好きじゃないのだが。
さて。
野球漫画を描くのだとすれば、まずは主人公のポジションを決めねばらない。
例外はあるものの、野球漫画の主人公の多くは投手である。
野球における九つのポジションに優劣はない。なのになぜ、ピッチャーばかりが主役になるのかと言えば、漫画的表現を行うにはうってつけだからだ。
投手は攻守で言えば守りのポジションであるが、演出的には打者との一騎打ち――戦闘そのものである。
加えて、一試合で登場する回数が限られる打者と違って、毎回マウンドに立つピッチャーは読者が最も目にするポジションだ。心理的な駆け引き以外にも、剛速球が武器だったり、コントロールに特化していたり、あるいは魔球と呼ばれる特殊な球種を会得していたりと、他のポジションと比べて何かと差別化しやすい。
逆にそういうピッチャー以外のポジションの主人公こそ小説に向いていると思う。エラーの一つが勝敗を分かつスポーツ。内面描写をじっくりとできる小説なら、内野手の心理的プレッシャーをねっとり描いてドラマが引き立つと思うのだが……とはいえ、今回は漫画を描くならというお題なので、やっぱりピッチャーかな。うん。
主人公をピッチャーにするからには、やはり特殊なスキルを与えたい。
定番ではあるが、ここは魔球にしよう。
野球漫画における魔球離れが久しい昨今、逆に新しいかもしれん。
が、新しい球種を生み出すことは並大抵のものではない。
私が思いつくようなものは世の中の数多くの漫画が先にやっている。
おまけに、私が若かった時代よりも格段に球種が増えている。増えたというよりは細分化しただけなのだが、とにかく、新たに魔球なんて生み出す余地がないほど、現代野球の球種は多種多様だ。
他のスポーツから何か参考にするかと思いもしたが、野球ほどボールに変化を加えるスポーツは存在しない。
かつて、私が読んでいたサッカー漫画では、野球のナックルをヒントに「ブレ球」という技を編み出すというシーンがあるが、野球からヒントを得ることはあっても、野球が他スポーツから着想を得ることはまずない。
人類最古の戦法は槍投。
柔軟な肩甲骨。器用な指先。それを最大限駆使して遠距離から武器を投擲することで、古の人類は何倍もの体格のマンモスを狩り尽くしたのだ。野球の投球はそれに最も近い。野球を超える球種を持つすスポーツは生まれることはないだろう。
漫画であるということを利用して、現実では実現不可能な魔球にするというのも手である。というか、野球漫画の魔球のほとんどが現実に不可能なものだ。でも、そういうの嫌いじゃろ、君。軌道が二回変化するとかさ。
せっかく剣豪小説(もどき)を書いているのだから、身体運用の面から攻めてみるか。縮地のように予備動作をキャンセルして相手に初動を悟らせないとか……って、投球フォームのどこが省略できるんだよ。リリースポイントを隠蔽するくらいじゃないか。
それとは別に、個人的に面白いと思うのが不正投球。
ボールに傷をつけたり、ワセリンを塗ったりして、通常ではかからないような回転や変化を与えるもの。もちろんルール違反。やったら怒られるじゃすまない。
しかし、主人公がそれによって魔球を知らしめ、周囲を疑心暗鬼に陥らせ、調子を狂わせることで投げ勝つ(実際には使わない)。水島新司的な心理魔球だが、不正投球そのものをテーマにしたものは、あんまりないのではないだろうか。
友人Kよ、こんなところだが、どうだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます