第39話 裏事情のあれこれ

 資料集書きたい症候群、発病中。

 えぇ……なにその奇病……。

 ご存知の方はご存知と思われるが、私は「私の世界」を表現し、かつ、いつの日かどこかの誰かにシェアしてもらいたいと願って執筆活動を行っている。


 そういう特殊な目的であるせいか、正直に言えば、小説よりも設定資料集の方が書きたい。書きたくて書きたくてしょうがない。


 普段は頑張って小説を書いているが、だいたい12万字を超え始めるとこの症状が発現する。

 原因としては、長編小説の単行本1冊が原稿用紙300枚くらいで、文字数に直せばだいたい12万文字。なので、本来ならばそろそろ書き終わって資料集を書いている頃合いだからである。


 しかしながら、現在執筆中の少女剣聖伝は短編連続長編形式で、累計すれば30万字を越えると予想される。まだまだ道半ば。ここで誘惑に負けて資料集を書いたら、きっと自己満足に陥って執筆ペースが落ちる。踏ん張りどころだ。


 とはいえ、息抜きは必要。何事も。

 なので、今回は少女剣聖伝の執筆時の裏事情のようなものを語ろうと思う。



■双剣聖。

 初期構想ではローザリッタの父、マルクスにはテオドールという弟がおり、両者とも剣の天才だっために『双剣聖』と謳われているという設定があった。


 兄であるマルクスは家督を継ぐために現役を引退しているので、王国最強の称号は弟のテオドールが担っており、ローザリッタが旅に出る条件として課された試練は、王国最強にして双剣聖の片割れである叔父から勝利をもぎ取るという最高難易度のものだった。


 ところが、初期構想版の一章を友人たちに読んでもらったところ、「家庭事情の情報が多すぎる。もうちょっとシンプルじゃないと初見の読者は混乱すると思う」という指摘を受けた。


 そこで情報量削減のために兄弟設定を廃止し、だいたいの設定をマルクス一人に統合・合併することにした。試練に関しても、王国最強に勝ってしまうのはさすがにやりすぎ(今後の戦いでローザリッタが苦戦するたびに、マルクスの強さが相対的に下がる印象を受けるため)ということで、より精神的な課題である『灯篭切り』に変更された。



■旅の仲間に三人目がいた。

 ローザリッタは貴族の娘。おまけに男爵家の跡継ぎである。

 そんな重要人物が危険極まりない武者修行に出るとなれば、可能な限り護衛をつけたいと思うのが親心だし、家臣的にも安心だろう。


 となると、どれくらいの人数を護衛にするとリアリティが出るのか。

 かの剣豪、塚原卜伝は弟子80人連れて諸国を巡ったとされるが……私がそんな人数を書き分けられるかというとそうではない。リアリティを求めすぎても、それが私の技量以上であればいずれ破綻する。私が書き分けられる程度に、何とかして人数を減らさなければならなかった。


 逆に、私が何人くらいなら同時に書き分けられるかを考えた。

 これまでの作品から読み取るに、主人公チームは概ね三人。

 うーん、少ない。本当に15年も書いてきたのだろうか。とはいえ、すぐに技量は上達するわけでなし、自分の腕以上のものを求めてもしょうがないので、とりあえず三人で考えよう。そもそも、あの水戸黄門だって助さんと格さんしかお供いないじゃん(風車の弥七とかうっかり八兵衛とかもいますが)。


 ローザリッタは主人公なので確定として、残り二枠。

 身の回りの世話をするメイドで一枠、そしてボディガードで一枠。ボディガードをめちゃくちゃ強くして80人分を補ってもらうことにしよう。


 ……と思っていたのだが。

 上記でも指摘された「読者が最も目を通すであろう第一章でキャラクターを出し過ぎれば、読者に負担がかかる」問題もあって、メイドにボディガードを兼任させて更に枠を減らすことにした。ヴィオラがメイドのくせに妙に強いのはそういう理由である。


 え? たった二人だと説得力がないって?

 それを突っ込まれると私もつらいのですが……リアリティの喪失よりも、読者に負担をかけるほうが嫌だったのです。やっぱり、読んでもらってなんぼ、読み続けてもらってなんぼなので……。


 ボディガード役は没になったが、二人だと話の幅が狭まるので、後半で登場する予定だったリリアムを三人目の旅の仲間として宛がうことにした。


 敢えてリリアムを持ってきた理由はもう一つあるのだが、現段階ではネタバレになるので秘密。



■リリアムは男になる可能性もあった。

 少女剣聖伝の初期プロットを切ったのは7年前。

 その時からリリアム(に準ずるキャラクター)は女の子だった。

 しかし、いざ書き始める直前、リリアムを男性にするアイディアが浮かんだ。


 ローザリッタは女の子なので、身の回りの世話をする人間は同性でなくてはならない。よって、ヴィオラが女性であるのは必然であるが、旅の仲間の三人目は男でも問題ないだろうと考えたのである。女ばかりでは会話にも偏りが出てくるし、男がいるとラッキースケベ……ごほんごほん、恋愛描写を描きやすい。


 しかし、第一章を執筆しているうちに考えを改めた。

 ローザリッタには友達が必要だと思ったからだ。


「男と女の間に友情はあり得ない。情熱、敵意、崇拝、恋愛はある。しかし、友情はない」というオスカー・ワイルドの格言にあるように、男では恋人になることはできても友達になることができない。


 そんなわけで、リリアムは予定通り女の子として登場し――予定通り貧乳で弄られ続けている。



■ファムはオネェだった。

 現在、絶賛活躍中(?)のファムは書き始める直前までオネェだった。

 オネェ版は身内から非常に好評で、あの私の趣味全開のバニースーツの披露回も不思議といやらしくない。もちろん、オネェ版ファムもバニースーツだ。


 なのだが、幼少期にさんざん見たクレヨンしんちゃんの影響で「オカマとオネェは基本的に善人」という理屈で女性になった。つまり、それが何を意味するかというと――



 ……あー、ちょっとすっきりした。

 さあ、頑張って続きを書こう。

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