第15話 小説を書き始めたきっかけ(4)
よし。いったん考えるのを止めよう。そう思った私。
今日はいろいろあり過ぎて、あまり執筆のことを考えられなかった。
無理して考えてもろくな結果にならないので、ここはすっぱり諦めよう。
明日はオフだが、明日は明日で用事がある。プライベートも大事だ。
用事とは何かと聞かれれば、友人との呑み約束だ。
私はお酒を飲むのも好きである。何でも飲むが、専門でいえばスコッチだろうか。好きな銘柄はラフロイグ。あのピート臭がどうにも癖になる。
ただ、一人酒はあまりしない。
一人暮らしなので、いざ急性アルコール中毒になっても倒れても誰も助けてくれないので、酒を飲む時は保険もかねてだいたい友人と飲む。
その友人――Iは、友人Sと同様に私の高校時代からの仲であり、HPを運営していたころのメンバーの一人だ。小説を書き始めたきっかけ(3)でも少しだけ語った、もう一人である。
Iは私やSと違って、イラストレーター志望だった。
なのでHPでは主にイラストを担当していた。それだけではなく、私が挿絵用に描いた線画にも着色してくれる良い奴だ(私はアナログな人間だったので、CG着色はおろか、ペンタブさえ使えなかったのである)。
優しいタッチの絵柄が特徴で、彼から描いてもらったエインセル・サーガのイラストは今でも私のデスクトップに大切に保管してある。
残念なことに、今は仕事の都合で創作から退いているが、交友関係自体は続いている。彼の住んでいる場所と、私の住んでいる場所が近いことも大きいだろう。
Iは私をいろんな場所に連れ出してくれる。
彼との付き合いがなければ、小洒落たバーでスコッチを嗜むような人間にはなっていなかっただろう。私はもともと内向的な人間で、休日に部屋から一歩も出ないことなど日常茶飯事だ。
彼が酒の楽しみ方を教えてくれなければ、今年の春にカクヨム三周年の企画で書いた「紙とペンとバーテンダー」も実現しなかった。あれは彼と飲み歩いた経験が如実に表れている。
私が仕事以外で社会との関わりを保っていられるのは彼のおかげだ。
作品というものが筆者の人生経験の切り売りだとすれば、切り売りするだけの経験を積むきっかけを彼から与えてもらった。私に喝を入れてくれるSと同様に、なくてはならない友人である。
明日は懇意にしているお店の二周年記念。
お世話になったバーテンさんが独立して開いたお店で、一周年記念にも二人して顔を出した。今年もIと一緒にお祝いをするつもりだ。
「仕事変わったんよ」
「知ってる。失業保険ががっぽり入ってきたこともな」
「今度の仕事、時間に余裕があるから、また絵を描こうと思っているんだ」
――嬉しいことは重なるものである。
それはいいけど、私が以前描いた線画を送りつけるのやめてくれないか。
十年以上前の絵柄を見るのは、さすがに恥ずかしいんだが。
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