第10話 好きなもののあれこれ(1)
生態系が好きである(結論)。
自然や生き物の営み、生命が物質という船に乗って、ぐるぐると円環する様子がたまらなく愛しい。死骸に群がるアリを見て「お前たち、生きているな」と30分近く路傍で眺めている私ははっきり言って変質者だと思う。
こんなおっさんになったのは、幼少期、どっぷりとNHKの教育番組を観賞していたからだろう。
最も古い記憶は「地球SOSそれいけコロリン」であろうか。環境問題についての教科書として、今でも私の心に根強く残っている。
その後に続く天才テレビくん内で放送された「恐竜惑星」「ジーンダイバー」「ナノセイバー」のバーチャル三部作も、幼い私にとても大きな影響を及ぼした。
小さい頃はけっこうな虫捕り少年で、近所の原っぱを中心に毎日間日昆虫採集に熱を上げていた。我が家では犬・猫禁止だったので、虫しか捕まえて飼うことができなかったのである。
特に好きだったのはカマキリだ。私的にはとても飼育がしやすかった。好き過ぎて卵からチビカマキリを孵化させたこともある。バッタやセミも同じくらい採った。
ご近所さんの庭に植えてある柑橘の葉っぱにアゲハチョウの幼虫がいると聞いた時は歓喜して捕まえに行き、持ち帰る途中で誤ってサナギを潰してしまい、手がドロドロになったこともある。
なので、サナギの中が液状だということは小さいころから知っていた。クイズ番組で蝶のサナギの中はどうなっているでしょう、みたいな問題があった時、「なんでこんな簡単なのが問題になるんだ?」と首を傾げたものだ。どうも、知らない人の方が多いらしい。逆にビックリである。
昆虫の王様であるカブトムシやクワガタももちろん飼育していたが、残念なことに私が住んでいたのは平野部だったので、森に生息する昆虫を自力で捕まえたことは少なかった。
唯一、車で10分くらいの場所に小さな雑木林があって、父が夜中に何度かカブトムシ捕りに連れて行ってくれた。そこで無事カブトムシを捕まえることができたのだが、一緒にゴキブリやムカデが樹液にむらがっていたのにはびっくりした。いい思い出だ。
それから数年が経ち、自転車に乗れるようになると、自分でその雑木林に足を運ぶようになった。
ある時、昆虫学を研究しているらしい大学生がフィールドワークをしていて、ガイドとして近所の虫取りスポットを案内したことがある。例の雑木林で一緒にコムラサキを捕まえた。専門的な捕虫器を使っていたので、とてもかっこよかった。現代であれば、知らないおにいさんと一緒に虫捕りとかあり得ない光景だろう。
いま書いていて気づいたのだが、「ファウナの庭」のイメージボードはこれなのかもしれない。無意識ってすごいな……。
「ファウナの庭」のエピソードでも書いたセミの羽化は、私の無念だ。
私は羽化前のセミの幼虫を捕まえたことがある。家に帰って、羽化の瞬間を見ようと虫かごに入れて待っていたのだが、子供らしく寝落ちしてしまった。
目が覚めた時、虫かごの中にはすでに変態し終えたアブラゼミがいた。羽化直後の真っ白な体を直接見る機会を逸したことは、今でも後悔している。
そんな昆虫大好きな私だったが、ある時を境に虫捕りをぴったりと辞める。
それは念願のスーパーファミコンを手に入れたから……も、あるが、一度大きな失敗をやらかしたからだ。
当時、何度目かわからないカブトムシの幼虫を飼育していた私は、どうしてもサナギが直に見たくなった。好奇心を抑えられなかった私はサナギの時期になると虫かごの中の土を掘り返して、サナギを見た。まるで宝石のような、赤みがかったオレンジ色が綺麗だった。触るとぴくりと動いた。中身がドロドロでも、生きているのだ。私は生命の神秘に感動した。
しかし、その時、うっかりと蛹室を壊してしまった。
そっと土を戻してみたものの、羽化したカブトムシは甲殻が変形した状態で成虫になった。あれでは飛べない。体も弱かった。しばらくして死んだ。餌も環境も十分だったのに死んだ。私の好奇心が一匹のカブトムシの人生を台無しにしたのだ。
(「蝶のサナギを潰した時は何も思わなかったの?」と言われると辛いが、あの時はこれよりももっと幼かったのだ。それに、「殺した」ことよりも「不幸」にしてしまったほうが、私には衝撃が大きかった)
人間は一時の感情や感傷で、生態系に関わるべきじゃない。
それに気づいた私は、TVゲームや他の友達との付き合いも楽しくなってきた年齢だったこともあって、きっぱり虫捕りを辞めた。
それから数十年。今でも生命を飼おうとは思わない。生き物や、その営みが好きなだけの、ただのおっさんを続けている。
と、何だか自然愛護者のようなことを言っているが、私は自室にわいたアリは根絶やしにするし、侵入してきたゴキブリは圧殺するし、ベランダに巣を作りやがったアシナガバチは容赦なくスプレーで薬殺する。
人間とはかくもエゴイストなものである、と伝わったのなら幸いだ。
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