第6話 二人の小悪魔
栗の学校についた。暑い。前髪が汗でぬれている。
まだ5月とはいえ、昼は25度近くになる。だから自転車漕ぐのは嫌だったんだ。
それともう一つ栗の学校に近付きたくない理由がある。この学校は女子がとっても多いんだ。
栗の通っている学校は、もともとお嬢様大学の付属の中高一貫校だったので、女子校だった。
共学になったのは5年前ほどだった筈だ。
栗は頭の良さと見た目の良さから、スクールカースト上位に位置している。以前栗の友達が家に来た時、全員の容姿のレベルの高さにビックリしたものだ。性格はあんまりよくなかったが・・・
「あれー、あの人が栗がいっつも話してるお兄さん?けっこーイケメンじゃん、根暗っぽいけどw」
「あーマジじゃん、悪くないじゃん。根暗っぽいけどw」
「ちょっと、アンタなんでリビングにいんのよ!今日友達来るから、外出てて言ったでしょ!」
「悪かったよ、忘れてたんだ。今から出るから」
「あれーお兄さん、尻に敷かれてるんですかぁ?ダメですよ栗はリードされたい派なんだから」
「栗ちゃんはぶらこんだからねぇー」
「二人ともウザい!アンタもさっさと出てってよ」
・・・うーん普通初対面の人間に根暗なんて言うかなー。いま思い出しても少し怒りがわくぞ。
今日は会いたくないなぁ。学校に入るのは嫌だから校門前まで栗に来てもらうか。
「今学校に着いたよ。校門前にいるからお昼取りに来なよ」
すぐに既読が付いた。しばらくして校舎からムスッとした顔の栗が出てきた。
「遅い!ラインしてから何分たってんの。お昼休みあと20分しかないじゃない!」
「仕方ないじゃないか。僕の学校から栗の学校までそこそこ距離があるんだから。これでも全速力で来たんだぞ」
「ウザ、言い訳しないで。それよりご飯、何買ってきたの」
いちいち語気が強いなぁ。僕はカバンから卵サンドを取り出して栗に渡した。
「ふーん、アンタの学校の卵サンドか。まぁ悪くないチョイスじゃん。いーよ、これでチンタラ来たのチャラにしてあげるよ」
「チンタラ来てないって。僕も昼休み時間があるんだから全速力で来たよ」
「はいはい分かった分かった。てゆーかアンタまだ時間あんの?」
「10分くらいはあるけど」
「んじゃー中庭で一緒に食べれるよね。卵サンド3つも食べれないからアンタも食べなさいよ」
「いやいいよ、僕はもう学校戻るから」
「なにアンタ、いつも私に偉そうに朝ごはん食べろって命令してるくせに、私が卵サンド食べきれなくて捨てることになるのには目をつむるのね」
「別に捨てなくてもいいだろ、いいよ、それじゃあ卵サンド一切れ持って帰るから」
「駄目!もしかしたら全部食べたくなるかもしれないじゃん。あんたが持って帰ったら食べれなくなるじゃん」
なんだよそれ。食べきれないって言ったり全部食べれるって言ったり。
校門前で栗がギャーギャー騒いでるせいか、生徒が何人か出てきた。全然知らない生徒は、栗と僕のほうを一瞥して戻っていったが、2人歩いてくるのが見えた。
見たことのある顔だ。額から引いてきていた汗がまた噴き出てきた。
「あれ、栗のお兄さんじゃん。おひさー。今日も陰気な顔してるねw」
「栗ちゃん今日もお兄さんとラブラブですねー。コンビニに卵サンド買いに行ったんじゃなかったんですかーw」
やっぱり以前うちに来た栗の友達だ。一人目の子はアトリだったか。変な名前だったから覚えてる。二人目は何だったか。
「アトリ!美帆(みほ)!ウザいこと言わないで!てゆーかアンタいつまでいんの。さっさと帰りなさいよ!」
あーそうだ美帆だ。この二人、この学校には似つかわしくない派手な見た目だ。アトリのほうは髪を明るく染めピアスを開けている。
美帆のほうは、一見普通だが化粧をし中学生には見えないくらい垢抜けている。
この二人と比べると、栗は少し幼く見える。見た目は割と大人びているが、普段の言動が幼いからそう見えるだけかもしれないが。
「てゆーかお兄さん、栗のためにわざわざ学校までお遣いに来てあげたんですかぁ?」
「アトリやめてあげなよ、この人シスコンなだけなんでしょww」
この二人、ほんとに失礼な奴らだなぁ。さっさと消えるか。
「僕はもう帰るから。卵サンド全部食べ切れなかったらそこの二人に食べてもらいなよ」
「えー私たち残飯処理班ですか、ひどー」
「栗のお兄さん、シスコンなだけじゃなくてデリカシーもないよ」
あれ、栗のやつなんか機嫌悪そうだな。卵サンド持ってきたときは割と機嫌よさそうだったのに。
もうここに長居することはない。栗とアトリ、美帆がギャーギャー言い合いを始めているのを尻目に僕は学校に戻った。
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