第7話 天才妹

 昼からの授業は美術と音楽だったので、完全に消化試合だ。僕の高校は、進学校だから受験に関係ない授業は先生も適当だ。まあこのダラダラした雰囲気は嫌いじゃないけど。




 家に帰ると栗がテレビを見ていた。栗は家で全然勉強しないのに、学校での成績は常に10番以内、授業だけで十分理解できるらしい。



 僕が返ってきたことに気付いたみたいで、テレビを消して机を挟んだ僕の向かい側に座った。今から勉強するのになぁ。僕は栗と違ってしっかり家でも勉強しないと簡単に成績が下がってしまうから。




 栗はジーッと僕の顔を見つめてくる。構ってほしい証拠だ。無視してると拗ねるので仕方なく話しかける。



「卵サンドちゃんと全部食べたのかい?」



「ウザ、当たり前じゃん。食べ物残すとかありえないし」



 いや君が言い出したんだが。まあ食べ物を残したり捨てたりしないのはいいことだ。郷子さんがキッチリしつけてくれたから、母さんがあまり家にいなくても僕たちはグレたりしなかった。



「友達と一緒に食べたのか?一人じゃ食べきれないって言いてたけど」



「いや1人で食べたよ。アンタが暇そうにしてたから相手してあげようと思っただけだし」




 どこをどう見たら僕が暇そうにしていたのだろうか?


結局栗のわがままにふりまわされただけに感じたんだが。



「てゆーかアンタ、私の友達になめられすぎ。私が恥かいちゃったじゃない」




 おいおいそれは心外だ。僕は普通にしてただけだ。




「栗の友達が失礼なんだよ。一応僕が年上なんだから多少は礼儀をわきまえたほうがいいった伝えなよ」



「はぁ?全然違うし。アトリも美帆も派手だけど、めっちゃ礼儀正しいから。アンタがシャキッとしてないからなめられた態度取られるのよ」




 そうだったのか。あの二人に原因があると思っていたが、原因は僕にあったのか。




「悪かったよ。今度会ったときはちゃんとするよ」



「分かったんならいいわよ。あとそこの答え間違ってるから」



「え、どこ?」



「大問2番、そこの英文は二重否定だから主題自体は肯定してるのよ」



「これ高校生のテキストだよ。栗まだ習ってないでしょ」



「私の学校ではもう習ってるの。まったくアンタ私がいないと駄目ね。勉強見てあげるわよ」




 いくら僕でも2つ下の妹に勉強を教えてもらうのは嫌だ。それに栗が頭がよすぎるだけで、僕だってそれなりに勉強はできるのだ。




「いいよ、それより栗は自分の勉強しなよ」



「私はプライベートと学校はキッチリ区別する派なの」




 そうですか。その割にはよく僕を学校に呼び出すのは矛盾してませんか。


なんて言えるわけもなく、黙ってテキストに向かった。




 僕がこれ以上君にかかわりませんよという態度を出したので、栗は少し拗ねた顔をしていたが僕はそれを無視した。





 今日はお姉ちゃんに勉強を教えなければならない。いくらお姉ちゃんが頭がよくないといっても、僕より二つも年上だ。高校3年生の学習範囲は予習しないとわからない。もっともお姉ちゃんに教えるのは高校3年生の内容ではなく中学レベルの内容だが。



 栗は自分の部屋に上がっていったみたいだ。しばし黙々と勉強を続けていると




「ただいま」




という声が聞こえた。お姉ちゃんが帰ってきたみたいだ。


僕はどうせ今日教えることはないだろう参考書の内容をみて少しため息をついた。

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