第4話


 結論から言うと、俺が術を行使する必要は一ミクロンもなかった。


 王子襲撃事件は、ジルベールの活躍で終わっている。


 あのとき二人の襲撃者は王子の周りを氷が取り囲んだだけでは、あきらめようとはしなかった。すぐにその氷を破壊しようと刃を振りかざしたが、その刃が氷に触れる直前に背中から血しぶきがあがり倒れる羽目になる。


 やったのはジルベールだ。逃げまどう生徒のせいで、王子たちに近づくのは困難な状況で、あいつは驚きの速さで駆けつけ襲撃者を斬り捨てた。


 現役の騎士が何もできずにやられて、一生徒でしかないジルベールが王子を襲撃した犯人を倒す。

 現役の騎士よりジルベールの方が役に立っている。モブ騎士のメンタルが心配になるが、王子は無事だし一件落着だ。


 まああとの責任問題なんかは、大人たちで話し合いをすることだろうから一生徒である俺には何の関係もない。

 俺はいつも通りの日常を送っていた。……はずだった。


「城に、ですか?」


 そうなんの関係もないはずの俺が、サイジェスに呼び出されて来てみれば王子から城に来るようにとの命令があったと伝えられた。


「ああ、この前の試合の時に」

「俺を疑っているのですか? 俺は一切関与していませんよ」

「そうじゃない」

「ではなぜ城に赴くようにとの命令が下ったのですか? 疑ってないと見せかけて、牢屋に放り込むつもりですか」


 もしかして首謀者がみつからなくて、モブの俺に罪をなすりつけようとしているんじゃないだろうか。でなければ俺が城に呼ばれるはずがない。


「落ち着け! この前の試合のとき、王子をお救いしただろう。そのときの礼をされたいそうだ」

「襲撃者を切り伏せたのは、ジルベールですが」


 お前だって見たよね? と言外にこめて見返す。誰がどう見ても、あの状況で、王子を救ったのは、ジルベールだ。


「ジルベールも、呼ばれている。お前は術を行使して、攻撃を防ごうとしただろう」

「あの混乱した状況で、なぜ術を発動させたのが俺だと思われたんですが」


 生徒が逃げまどったせいで、かなり場が混乱していた。

あの状況で誰が術を使ったかなんて、冷静にみていた人はいなかったはずだ。なんで俺だって特定されたのか不思議に思っているとサイジェスが口を開く。


「ジルベールが断言した」

「はい?」

「あの状況下で冷静に判断を下し、術を正確に行使できるのは水の術者はお前しかいないと」

「ということは、ジルベールの発言だけで俺だと?」


 あのやろう、余計な事を言いやがって。ジルベールが断言したから俺がやったという結論に達したのなら、あいつがなにも言わなければ俺は城にいかなくてはいけない状況にならなかったということだ。


 モブ平民の俺が、権力者なんぞに関わってもろくなことにならない。だというのにあいつのせいで王子に直接会うかもしれない危機的状況に立たされている。


「俺ではありません」

「レイザード」


 ため息をつかれたがここで、肯定するわけにはいかない。認めたらお城にGOするはめになってしまう。


「俺はあの時、あの状況に動揺して術を発動させる事なんて思いつきもしませんでした。俺ではありません。あそこには水の術者は俺の他にもいたはずです。ジルベールの発言を、うのみにするのではなくもう一度調べなおした方がよろしいかと」

「レイザード」

「俺では……」


 しつこいが断言した理由がジルベールの発言だけなら言い逃れできる。このまま押しとおそう。


「もう一人、目撃者がいる。王子、ご本人だ」

 

 ――詰んだ

  

 なんであの状況で離れた位置にいた俺が、術を発動するのを見ていたのか。そんな余裕があるなら逃げろよ。と思わないでもないが、王子がみたと証言しているのにイヤイヤ違いますからと押し通せない。


 俺は身分の低い一平民でしかないうえに、ただのモブだ。こういう時に抵抗する術を持たない。不承不承、城に行く事に同意して頷いた。






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