第3話
――3日後、学園内 闘技場
前もって用意されていた騎士の制服を身にまとったジルベールが、闘技場内に足を踏み入れる。
するとすぐにその姿を確認した女生徒たちから、耳が痛くなるほどの黄色い声があがった。
逆に男子生徒からは、恨みがましい視線を送られている。
俺は男子生徒諸君に、はげしく共感をする。もてる同年代の男なんて主人公が絡んでいなければ、ムカつくだけである。
さすがにジルベールと言えど王子が来る試合で、いつも通り着崩した格好はできないのだろう。どこも崩すことなくきっちりと騎士の服を着こなしている。
いつもと雰囲気が変わり、清廉な印象をうける。
ただ服を着くずことなく着用しているだけだというのに、美形と言うのはつくづく得な生き物である。
いつものだらしない格好ではカッコイイと言われ、普通に服をきれば清廉な印象を与える。
いますぐ術を発動し、体中の水分を蒸発させてカラッカラにしてやろうかと思う位にはむかつく……いや妬ましい。モブの普通面の俺は、あいつのように着崩せばある意味女子に対してセクハラだし、きちんと着たってただ服を着ているだけである。まあ着崩した時に、違う意味で悲鳴はあがるだろうが。
女生徒に、にこやかに対応しているジルベールと視線が合う。片目をつぶり笑みを向けられたせいで、不快さに眉間にシワが寄る。同時に、鳥肌がたった。
これで顔を赤らめたりする主人公を尊敬する。俺は寒気しかしない。
そのまま闘技場を見渡すと、簡素な闘技場に置くには違和感しかない立派な椅子が置かれているのが見える。きっとあそこに王子が座るのだろう。
それにしても王子が来るというのに、生徒の見学が制限されている様子が見られない。闘技場の周りや入口に生徒がたむろしている。結構自由に見られるような感じの様だ。
生徒の見学が可能なのは、警備上問題な気がするが大丈夫なのだろうか。この中に、制服を着こんだ不審者がいても判別するのは難しい。
もし俺が王子を狙うなら、目立たない様に制服をきて生徒に紛れて隙が出来るのを待って襲撃しようと考えるだろう。
まあでもこの世界は、ダークファンタジーじゃなくてライトな明るめファンタジーだ。きっと王子暗殺なんてグロイことはおきないだろう。
「レイザード、ジルベールこちらに来い」
闘技場の真ん中にいるサイジェスから、声がかけられる。手には試合用の模造剣が握られていた。
「試合では、これを使用するように。それと前もって言ってあるが、術の使用は禁止だ。王子が怪我をされると一大事だからな」
危ない目に合わせたくないなら、学園になんて来させなければいいだけの話だ。
既に警備の薄い学園にきている時点で、危険にさらされている。
安全面を考慮するなら、こんな学園内の狭い闘技場じゃなくて、城の立派な闘技場で高いところから見下ろして試合見物でもさせればいいだろうに……なんて一生徒である俺には言えるわけがない。とりあえず短く返事をするにとどめる。
「王子のお出ましだ」
ジルベールが視線を向ける先には、王子と護衛の騎士が2人……2人だけだ。見学の生徒は、ざっと50人ほどいるというのに危機感が仕事をしていないらしい。
王族に何かあれば学園の責任も問われるだろうに、学園からは護衛がついているようにも見えない。
だが何かあったらと、そこまで考えてやめる。
ここはあくまでライトな魔術と、剣のファンタジーな世界だ。ゲーム中に暗い展開もなかった。ここで王族が襲われるようなイベントなどおこらないだろう。何度か同じ思考のループを繰り返しているのに気づき、強制的に考えるのを止める。
学園のお偉方が、王子に挨拶をしている。それが終わるのを待って、俺とジルベールは王子に礼をすると剣を構えた。
「楽しもうな、レイザード」
余裕の笑みを浮かべて俺に声をかけてくるジルベールと違い、俺にはそんな余裕はない。
さてどちらが勝つだろうか。普通に考えればモブと攻略キャラなら後者が勝利する。
純粋な力ならジルベールが上だ。術を組合せて戦えるなら、もしかして勝機があるかもしれない。だが今回は使えない。体力もジルベールが上、というかほとんど奴の方が上だ。
俺はちょっと術の研究に没頭しすぎている気があるから、わずかに魔術に関しては奴より上……だと信じたい。
それを考慮すると初撃を必要最低限の動きでよけて、すぐ懐にはいれれば勝てる可能性がある。ものすごく低い可能性でしかないが。だいたいモブはメインキャラに勝てない。故にモブなのだ。だから本来なら、こんなメインイベントみたいな大会などに出るべきでない。
上段で構えるジルベールの動きを注視する。隙の大きくなる上段でかまえるなんて、俺がジルベールより格段に弱いからできる芸当だ。だが純粋に、腹が立った。
「始め!」
立ち合いの合図を、サイジェスがだす。
同時にジルベールが上段から、袈裟切りで切り付けてくる。すんでの所でよけ、わき腹に一太刀あびせようと瞬間、全身の毛孔が開き怖気たった。その直後、視界の端で護衛の騎士達から血しぶきが舞うのが見えた。
血の伝う刃を持っているのは、学園の制服を着ている二人組だった。こちらからは、後ろ姿のため顔までは視認できない。
「キャー!!」
女子生徒が悲鳴を上げると、恐怖が伝染したように生徒たちが我先にと逃げ出す。
だが俺は、慌てていなかった、何故ならこんな一大イベントのときに、狙われるのは決まって主要キャラだ。ここでいうなら、王子が一番に狙われる。
こんなとき一々モブを狙う奴などいない。ということはだ、俺は安全だ。
そうと決まればすることは一つだ。俺は術を構成する。水を生成し固さを強化した厚めの氷へと変化させる。その氷を王子と、王子の傍で倒れているモブ騎士達を囲むように形作り一気に取り囲んだ。
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