第2話
「王子の御前で試合をしてもらう」
「俺が、ですか?」
講義の終わったあと、学園で講師主任をしているサイジェスに呼び出された。
講師のしかも主任を務めているサイジェスに呼び出されるほど、俺は問題をおこしたつもりはない。なんの用かと訝しみながら主任室まで来てみれば、開口一番に面を食らう事を言われた。
「ああ、学園を代表してお前とジルベールが行う事になった」
この学園は、国が優秀な人材確保の為に出資している教育機関だ。
だから定期的に、ほおら優秀な人材が育ってますよ。お金出してもらっている成果はきちんとだしてますよ。ということ示す為に、お披露目会のようなものを催すのだ。
その来賓は大体が王族や国の重要な役職についている連中だ。
だがそんな催しにでるのに、ジルベールを選ぶとはミスキャストにもほどがある。
「風紀的に代表にして問題ないのですか」
「……職員会議で実力的に代表として適しているのは、お前たち二人だという結論に達した」
ジルベールは優秀だが、素行の面ではあまりよろしくない生徒だ。いちおう数種類あるうちの既定の制服は着用しているが、かなり着崩している。それに遠目に見えるときは、だいたい周りに女子をはべらせている。
サイジェスもその点については思う所はあるのか、目をそらしながら言葉を続ける。
お上品な方達を呼んで見せる試合なら、多少実力が見劣りしても品行方正な生徒を選んだほうが無難だ。
だがサイジェスも主任といえど講師でしかない。決定権はないのだろう。
「いえ実力云々ではなく、風紀の面で代表にしたらかなり問題があると思うのですがそこは考慮されているのですか」
だがそれとこれとでは話が別だ。
俺はあまり攻略キャラと、関わり合いになりたくない。主人公の絡まないイケメンなど、ただのむかつく野郎でしかない。このまま追求してジルベールを代表から降ろしたい。もし変わらないのなら。俺が辞退する方向にもっていくしかない。
そもそもなんで俺が代表に選ばれるんだ。あれかイケメンを目立たせるための生贄か。そんなことしなくても、こいつらは自家発電で目立つ。俺の犠牲は必要ない。
「本人を前に、遠慮がないね。まあレイザードらしいといえば、らしいけれど」
「いたのか」
「良く言うよ。気付いていたくせに」
後ろから聞こえた声に振り向けば、いつのまにかジルベールが壁に寄りかかってこちらをみていた。
それにしても気づいていたくせとは、いいがかりもはなはだしい。気づくわけがない。こいつは音もなく扉を開け、いつのまにか部屋の中にいるいという超人的な事をやってのけた。扉側に背を向けていた俺が、気付くわけがない。俺に気配を読むなんて高度な芸当はできない。
というか、サイジェスは扉の方を向いて、喋っていたのだから気づいていたはずだ。声をかけて、話に加わらせるくらいさせれば俺が無駄に驚く事もなかったというのに。
「当日に着用する服は、こちらで用意してある」
そういって机のうえに置かれたのは、この国の騎士が着用している服だった。白地に青い縁取りのあるシンプルな模様の服だ。なんで学園の生徒同士で行う試合で、騎士の服なんだ。
「レイザードと、お揃いの服を着れるのか。それは、うれしいね」
「俺は、嬉しくない」
口角を上げ視線をむけてくるジルベールのせいで、怖気が走る。
だいたい男とおそろいの服を着る事のどこに、喜ぶ要素があるというのか。
冷静になって考えろ。お前は主人公と出会う前は、女好きで通ってたキャラだろうが。そういう台詞は、主人公限定のはずだろう。もしかしてバグかなにかか。主人公に言うべき台詞を、そこらのモブにいうなんて重大で致命的な欠陥だ。すぐに直してほしいものだ。
それにしてもジルベールと同じ服を着せるなどと、壮大な嫌がらせである。ただでさえある顔面格差が、同じ服をきることで余計に際立つのだ。それにシンプルな服は、美形であれば格好よく着こなせるが、モブである俺が着ればただの地味な服に成り果てる。服に問題があるわけではないのは、理解している。着用する人間側に問題がある。
「思う所はあるだろうが、これは決定事項だ。試合は3日後に行われる。術の使用は禁止だ。剣技のみの披露となる。制服はくれぐれも着崩すことなく着用してくるように。話しは以上だ」
着崩すなのところで、しっかりとジルベールを見ていた。そんなに心配なら最初から、奴を選ばなければいいだけの話だ。普段の奴の素行がどうか、上の連中に直訴でもすればいいのに。
伝達事項を伝え終われば、もう用はないのだろう。暗にさっさと出ていけと言われ、いちおう礼をして部屋を出ていく。
舌打ちしたい気分に駆られるが、我慢した。それにしても主人公が来る前のイベントなど、なにも楽しくない。どうせなら主人公とジルベールが代表になり試合をすれば観客として楽しめるというのに。主人公はまだこないのだろうか。主人公がこないとイベントがおきない。
ああ、そうかこれは、あれだ。主人公が来たときにジルベールが、前に試合をやったときは相手が大したことがなくてつまらなかった。
今度はお前と試合をしてみたいっていう会話の布石だな。それなら主人公が来るまえに、ジルベールがモブたる俺と試合をする意味が理解できる。
「レイザード、聞いてる?」
「聞いているように見えたのなら、お前の眼球は役目を放棄している」
進行方向にジルベールの顔が現れたせいで、足を止めるはめになる。
どうやら俺が思考をめぐらせていた間も、俺に話しかけながら横を歩いていたらしい。どうりで、うるさかったわけだ。
奴と俺の身長差のせいで、俺を上から下に覗き込むように見てくるのが腹立たしい。
断じて、俺の身長が低いわけではない。俺の身長はモブとして目立たない様に、この世界の標準だ。ジルベールの身長が高いだけである。
「レイザードは嫌がっているけれど、俺は嬉しいよ。普段は中々、相手をしてもらえないからね。けれど、試合の間だけはレイザードを独占できる」
「秒で終わらせてやる」
BLゲームの世界のため、対男への台詞が鳥肌を伴う事はある程度は仕方がないのかもしれない。もしかしてこいつは、主人公以外の男へもこういう台詞をいうキャラ設定がある可能性もある。
だが俺がそういう台詞を許容できるのは、その台詞を主人公に対して言っているのをプレイヤーとして画面の向こうからみている場合に限る。直接俺に言われても寒気しかしない。
その証拠に先ほどの寒いセリフのせいで、俺の全身に鳥肌がたってしまっている。
責任をとって、主人公が来たら俺がいるところで同じセリフを言ってほしい。
「おいジルベール、術の使用がないからといって、易々と俺に勝てると思わないことだ」
やるからには全力でやる。でないとジルベールの記憶に残らずに、主人公の会話で使われないかもしれない。そうなればただの体力の無駄遣いで終わってしまう。
それに学園に入学してからの4年間、主人公がこないことに腐っていただけじゃあない。剣も術も、モブなりに必死で身に着けた。モブにしてはそこそこ強くなったと思う。
まあでも所詮モブのそこそこだ。攻略キャラや主人公のレベル99が最高だとしたら、モブの俺は一番レベルを上げることができたとしてレベル50位しかいけない。
だから敵うとは思っていないが、それでも簡単に敗けるのもしゃくにさわる。モブにはモブの意地があるのだ。
そうただでは、敗けてやるつもりはない。主人公と絡んでない時のこいつは、ただのモテるイケメンでしかない。モブのいや全てのもてない男の敵だ。全力で叩き潰すつもりで、試合に臨むつもりだ。
なぜか笑んだジルベールが、まだ何かしゃべろうと口を開ける。また鳥肌の立つ台詞を聞かされたらたまったもんじゃない。ジルベールの言葉を遮り、俺は背を向けてあるきだした。
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