第30話 迷惑国家

ここはナイチ聖国の聖王の間

「また勢力圏を広げられた!忌々しい精霊族め!!」

「精霊種は精霊を使う、獣人は力と戦闘力が高い」

「悔しいが純粋な人間は能力的に劣っておる」

「精霊族10人に対し1000の軍勢、獣人100人に対し1万の軍勢で責めれば必勝」


何処にでも、どの時代にも、残念ながら多少の差別はある。

区別される事を、差別を受けたと勘違いする者も、無能力者には多くいる。

他種族の能力が羨ましく、妬み嫉みから妄想が膨らみ、神は人類を祝福し [産めよ殖えよ地に満ちよ] と仰られた、この地に住む資格は人類のみにある、と盲信する。

結果として排他的になり、人類至上主義に心の平安を求めるようになった一部の人間達が、小さな村を作り妄想に同調する者が集まり、やがて小国を建国した。

「亜人は排除する事が正義、神の御心である」との、迷惑理念の迷惑国家、ナイチ聖国はこうした経緯で誕生した。

建国から100年も経つと、完全に勘違いした国になってしまった。



「国境東を少し行くと、100人足らずの獣人の村がある、3日後1万の盗賊に滅ぼされるであろう」

「聖王様なるほど!我聖国軍でなく、盗賊が滅ぼしたなら、何処からも苦情は来ませんな!」

「将軍、1万の兵を盗賊に仕立て、獣人を討伐せよ!!」

「盗賊なら、略奪もするであろう」

「釜戸の灰すら残さず略奪して参ります」


蛮行が思いの外上手くゆき、繰り返す内に皆殺しにすれば死人に口無し、大っぴらに聖国軍が殺戮を実行するようになった。


負の感情は腐気を呼び寄せ、小国を邪悪が取り巻き、住民の精神を常軌を逸したものに変えて行った。





「大多羅!この近くに村は無いのか!!新大陸に来て一人もあって無い、暮らしはどんなか見てみたいぞ!!!」

「マンバ様この近くには獣人の村しかねぇだ」

「聞いて無いぞ!!新大陸には獣人が居るのか!!!」

「中央の国にゆけぁあ、獣人はぎょうさん住んどる」

「近くの獣人の村に案内しろ!!」

「ここまで来て、マンバ様相変わらず我が儘じゃなあ、東に1日かかるんよ!」


大多羅は10メートルの巨人化させ、クロ達に全速力を出させ、2時間で到着した。

獣人の村と思われる所は、軍勢が取り囲み、攻める寸前の状態だった。


「大多羅、あれは何処の軍隊じゃ?」

「マンバ様、迷惑国家の聖国軍ですらぁ、獣人達を亜人じゃぁゆうて皆殺ししとるんよ」

「なら、獣人を助けるぞ、皆かかれ!!」


100人足らずの村、いつもの簡単な蹂躙と、余裕の聖国軍、まさか自軍の存在がばれ、攻撃を受けるとは思いもしなかった。

奇襲を受け混乱、右往左往する無様な自称神威軍であった。


カズマも三重姉弟も目に留まらない、鎌鼬と瞬間移動に近い力任せの肉弾戦、マンバは、それに輪を掛けた超高速攻撃で切り裂き、合間に前進した兵を氷雨で凍結させて居る。

クロと仔達は情け容赦無く、噛み砕いて行く。

1万程度の弱兵は5分持たず全滅していた。

指示を直接受けて居ない大多羅は、おろおろしている内に、戦闘が終わってしまった。

100年間、大王を探し続け、人と関わる事が無かった大多羅は戦闘も、襲って来る魔獣を排除するのみで、不馴れになってしまっておるようじゃ。


絶望的な状況に覚悟を決めていた猫獣人達は「大多羅様が助けて下さった!!」と、大喜びで歓迎してくれた。

中央の国セノメ国王の、友人と認識されて居るオオダラは、超人戦士として有名らしい。


その有名人が獣人達に、わしの事を、セノメやおらの主で隣の大陸を全て支配している、マンバ神王様と紹介した。

獣人達は、幼女にしか見えない、わしを不思議そうに眺めておるが。

オオダラ様が仰る事、幼女にしか見えなくても、凄いお方なのだろうと解釈した。


其より背の目が国王?

「大多羅、背の目は、中央の国の国王か?」

「そうですじゃ!マンバ様に言わんでしたか?」

「中央の国で、わしを待っておるしか聞いて居らんぞ」


カズマ達が死体から、めぼしい武器と防具それにお金を収集して来た。

村の集会所に全て積み上げ「マンバ様凄い収穫でした、これどうします?」

「村の衆!この戦利品はお前達の物にして良いぞ!」

猫耳をピコピコさせながら皆に感謝された。


「最近獣人の村や、精霊族の村が盗賊に滅ぼされており、どの村人も脅えて暮らして居りました、まさか聖国の仕業だったとは、信じられんです」

村長のニノが言っておった。

少し不満、猫耳獣人なら「信じられんですニャァ」と言ってほしかった。

しかし寄り道してよかった。

「感謝の宴を開きます」との申し出を丁寧に断り

今後の、聖国とかの対応を背の目と相談せねば、と、マンバは先を急いだ。

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